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戦争人間  作者: ジュリー
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奥方様のご帰宅7

続きです。

だいたい想像がつくと思いますが、この話はほとんど完成しています。

応募して落選した作品なので、たいして面白くはないのでしょう。

勝手な一言

    「喋ろうが、歌おうが、踊ろうが、たとえ神になったとしても

                    飛べないブタはただのブタだ」

                  詠み人   ダンディオーク

 第三章 奥方様のご帰宅7



 何一つ問題はないのだが、あえて問題をあげるとすれば、俺は討伐軍相手に本当にやってしまったことだろう。

「あるいは、アルベルト王や勇者さんたちならば、奥方様のご遺体の返却だけなら認めてもらえたかもしれません……しかしご遺体だけ返してもらっても、動かなければ喋ることもないご遺体だけ返してもらっても、最後のお別れを言っても返事すら返ってこない」

 生きている状態でのご帰宅が望めない状態だとしても、最後の願いとしてご遺体だけ返却されたとしても、残された者たちの望みがかなうわけじゃない。

「魔王の娘たちに、復讐なんてくだらないことはさせられません。だから人間である奥方様を処刑した人間に、人間である俺が人間に復讐することにしました。復讐なんてくだらないことは、俺みたいなくだらない人間がやればいいのです」

 すべてがすべてそうだとは思わないが……人間は復讐する生き物だと俺は思う。

 すべてがすべてそうだとは思わないが……魔王は復讐しない生き物だと俺は思う。

 なにより、魔王夫妻の最愛の娘たちが人間に復讐する姿など、俺は見たくない。

「ご遺体の返却だけなら認めてもらえたかもしれませんが、復讐なんて物騒なものが絡んでしまっている以上、願い出たところで妥協点の探り合いで手打ちでしょう……俺は奥方様の処刑を、妥協ですませる気なんてありませんよ」

 大好きだった奥方様の死が妥協されたなんて、そっちの方が怒り心頭だ。

 大切な相手が殺されてしまった場合、殺した側にどう責任を取らせれば良い?

 謝罪や金銭での解決もあるだろうが、俺が考える『大切』の定義は、その程度で妥協されてしまうものなんかじゃない。

 俺はそいつが、なにをどうやったところで奥方様の死を許せる自信がない。

「俺は七人の指導者を殺す時も、なにも望まないから『お願いしますから、死んでください』と思いながら実行しました」

 妥協も説得も打算も恫喝も恐喝も交渉もなく、復讐として死んでもらった。

「もちろん俺は、人間には悪でしかないとされている魔王軍と人間たちが敵対してしまうのを、ちゃんと理解しています。理解した上で俺は実行しています」

 人間にとって悪だから、人間がその悪を排除する。

 なに一つ悪くない……ただその悪の中に、俺の大切なひとたちがいただけだ。

「ある程度納得できる理由で大切な人を失っても、逆怨みだったとしても怨みは怨みですし、失ったことに対する怒りや悲しみは変わりません」

 どんな理由があっても、死んでしまった事実はなにがあっても覆らない。

 ならば俺は復讐もするし、そのご遺体をなんとしてでも取り返す。

「きみの言い分も、分からなくはない……」

 洒落や冗談でも構わないとした俺の話を、勇者さんはちゃんと聞いていた。

 そして勇者さんも人間ですから、悲しいこともあれば怒ることもある。

 人間の理性と感情はいつもブレブレだ……勇者さんの感情は、今もブレブレだ。

「だけど、現状を見ろ」

 勇者さんが静かに、それでも溢れんばかりの怒気を込めて放った言葉がそれだ。

「ボクはきみから大切なものを奪ったのだろう……だけど、きみはなにをした?」

 聞かれるまでもないことを、わざわざ訊ねなくても良いでしょうに……。

「公開処刑された討伐軍指導者たち、正体不明の飛行物体に落とされたドラグナーと討伐軍の兵士や騎士たち、それに――」

「俺に倒されたあなたの仲間たち、ですか?」

「――っ」

 勇者さんから放たれたのは、怒気ではなくもはや殺気の類だった。

 仲間たちがこんな目に合わされて、静かでいられるわけがない。

 ドラゴンと一緒に落ちた龍姫に、爆炎に貫かれた聖女に、左腕を失った偽悪。

 他にも周りを見れば、シンラが火炎放射器で人間を焼き処刑台に(ほう)()(へき)を作っていた。

 魔王夫妻の死により引き起こされたのは、人間の俺による最悪の復讐劇。

「現状なら、充分に見ていますよ」

 ただし、勇者さんとは違う角度から現状を見ている。

()いも(わる)いも、勇者も俺も、殺されるのも殺しているのも、全部含めて人間です」

 善とか悪とか言う気はない、どころか……全部人間だと俺は断言する。

「善行も悪行もなく、人間のやることはすべからく人間らしい」

 ヒトデナシだろうがなんだろうが、なにをやらかしても人間である以上はヒトデアリ。

 俺は人間をそんな角度から見ている。

「ここにいるのは人間だけ。ここにあるのも人間だけ。俺のやっていることも勇者さんのやっていることも、俺の復讐も現在進行形の勇者さんの怒りや悲しみも、人間が引き起こした時点ですべての元凶は人間にあるべきですよ」

 人間、にんげん、ニンゲン……うんざりするほどの人間の羅列。

「人間の引き起こしたことに対して、人間が目を背けてはいけません」

 ようするに言いたいことはただ一つ。

「勇者さんは人間を見てください」

 俺は違う角度から現状を見ているが、勇者さんは違う角度から人間を見てください。人間はあなたの味方だけじゃないし、人間はあなたが思うほど善人だけじゃない。

 ここにいるのは人間で、ここにあるのも人間で、目の前にいる俺も人間だ。

「それとも、人間(あなた)人間(なかま)を殺した人間(おれ)のように、人間(あなた)人間(おれ)を殺しますか?」

 最後の問答として俺が勇者さんの(はかり)に乗せたのは、勇者さんの人間性。

 どちらに転んだとしても、それはすべからく人間らしい答えだと俺は思う。

 だからこそ、勇者さんはどんな選択をするのか興味がある。

 勇者は魔王を討伐するための役職であり、勇者は人間を殺す役職ではない。

 勇者さんには、リオンハート=ラックフォードと言う一人の人間として答えて欲しい。

 勇者さんからは今でも強烈な怒気や殺気が放たれているものの、迷いが見える。

 俺が人間じゃなければまったく無意味なやりとりだが、悪魔や魔王の所業ならぬ人間の所業を見て迷いが出た。

「ボクは……今は、きみを捕らえるだけだ!」

 勇者さんがザンガさんの大剣を振るい、衝撃波と一緒に斬りかかってきた。

 俺を捕らえて、判断はもういない討伐軍の指導者に乞うつもりでしょうか?

 悪人を捕らえて丸投げ……人間らしい答えで結構ですけど、人間はその程度。

「話術も戦術の一つですよ」

 俺は握っていた戦闘服のボタンを、自分の斜め後ろに放る。

 すると瞬間――まさしく刹那的にボタンが発光。

 強烈な光は瞬間的なもので、強烈と言っても光の強さで言えば稲光よりも弱い。

 それでも瞬間的な発光は、数メートルしか離れていない相手には充分な威力だ。

 ボタンに擬態していた小型閃光弾はその効力を発揮し、勇者さんの視力を奪う。

「な――っ!?」

 俺が斜め後ろに小型閃光弾を投げたのも、正面だと俺の視力も奪われてしまうから。俺の背後からの発光は、正面にいる勇者さんだけに効果がある。

 ハンドガンをホルスターに戻したのは、戦闘服からボタンを外すためのフェイク。

 そしてなんとなく聞き入ってしまう話術により、勇者さんの理性にひびを入れ、隠し武器への警戒心を揺るがし、攻撃を単調化させるため。

 これは俺の手柄と言うより、戦闘中に余計なことを考えてしまった勇者さんの(しっ)(ちゃく)

 それでも勇者さんの視力はすぐに戻ってしまうため、ホルスターに戻したハンドガンを取り出す余裕はない。そのためのギミックが、左腕ガントレットに組み込まれている。

 バスンっ――ガントレットから放たれたのは捕獲用ネット。

 漁師が獲物を捕らえる投網に近いものであり、獲物に向かって自動発射できる。

 ガントレットとネットはワイヤーで繋がっており、ワイヤーをガントレットが巻き取ると、ネットは連動して獲物を(しぼ)るように閉じ込める。

「こんなものっ」

 視力回復と自分の現状を瞬時に理解した勇者さんは大剣を振るい、ネットを切り裂く。

 ネットは切り裂かれたが、それでも勇者さんは逃げられない。

「残念ですが、そのネットはクモの巣のように粘着性を(ゆう)しています」

 切り裂いたところで、身体に張り付くネットは振りきれない。

 大剣も刃の部分は切り裂けても、(みね)や腹や柄にはしっかりと粘着ネットが絡んでいる。その状態で巻き取られていくのだから、勇者さんは立っていることさえ難しいだろう。

 勇者さんの捕獲を確認し、ガントレットとネットを繋ぐワイヤーを切り離す。

「きみってやつは――」

 さすがの勇者さんも怒りとは違う意味でイラついている。

「俺のお喋りは楽しかったですか?」

 そして俺は改めて、ホルスターからハンドガンを取り出す。

 身動き不能の相手なら、相手が勇者だとしても簡単にハンドガンを構えられる。

 勇者さんに対する復讐心は皆無ですが、目的より優先される手段は俺にない。

 しかし――勇者さんの幸運か、俺の悪運か、お互いの運が絡み合った。

 ボコン! っと、強烈な痛みと衝撃が背中から俺を貫いた。

 俺もハンドガンの引き金は引いたが、弾丸は勇者さんの右腕を撃ち抜いただけ。

 お互いに深手だが、俺の方が深手であり、お互いに致命傷ではないが決定的だ。

「ぐッぁぁぁぁ――」

 背中が熱い!

 燃えているわけじゃないが、強烈なダメージで痛みが熱と錯覚させている。

「んぐっ!?」

 勇者さんも右腕の風穴は相当痛むらしく、苦痛に顔をゆがめていた。

 お互いになにが起きたのかは分からないが、少なくとも俺の方の状況が悪くなったのは事実だ。


なぜこの作品を載せているのかというと、特に理由はありません。

次の作品をつくるために、今の作品を読み返しているだけです。

初めての異世界ファンタジーが、まさか今までで一番評価が良かったことに対し、若干思うところがありました。

ついでに一言

        「Toラブる中だ、クールに去れ」

                  詠み人   むっつり紳士

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