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戦争人間  作者: ジュリー
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奥方様のご帰宅6

続きです。

どうでもいい話ですが、不幸自慢についてどう考えていますか?

いろいろと物議はあると思いますが、私が思う一例を載せておきます。

例えば、栄養失調で救急搬送された身寄りもなく骨と皮しかないガリガリの少年が、数十年後に苦労を重ねて大成功したが見事なメタボ体系になってしまい「中年太りは不幸だ」なんて言うのであれば、その不幸は自慢しても良い不幸です。

あくまでも私の個人的な意見ですが……ようするに不幸でも自慢話なのですから、不幸比べや不幸話とはまったく違うってことです。

心底どうでもいい話でした。

勝手な一言

     「愚民どもよ! 吾輩に貢ぐのだ!」

                  詠み人 ねこカフェ№1キャット

 第三章 奥方様のご帰宅6



 ハンドガンに弾はもうないけれど……マガジンはあと一つ。

 もっとも大剣は盾になるし、勇者さんは弾丸を切るし、ハンドガンだと効果は薄い。

 勇者さんは聖剣を失い、暴発も受けたが、実際のところほぼ無傷だ。

 ザンガさんや勇者さんたちとは違い、ひ弱な俺は一発でこの様だ。

 そんなことは勇者さんも承知しているはずだが、俺への警戒心を高めている。

「よく分かっているよ。きみはボクたちとまともに戦う気がないってね」

 勇者さんはこの状況であっても、自分が有利だとは思っていないようだ。

「まともに戦って勝てるのであれば、俺もそうしています。だけど自分より強い相手とまともにぶつかって大満足で()けるほど、俺は高尚な人間じゃありません」

「きみはどうにも、自分を卑下するな」

「俺はいろいろと諦めていますし、小細工も使いますが、絶望まではしていませんよ」

 そんな雑談をしながらも、俺はハンドガンのマガジンを交換。

 マガジンの交換は致命的な隙を生むが、警戒中の勇者さんはスルーした。

 マガジンを取り出したのであれば交換するしかない。

 普通ならなにをするのか確定している行動を狙う方が確実だが、勇者さんはそこも含めて俺を警戒しているのだろう。

 確定している行動を見せつけられ、思考に植えつけられ、その結果としてソフィアさんとザンガさんは俺ごときに後れをとった。アサルトライフルやハンドガンや手榴弾を見せておき、それらを警戒させてからギミックスピアとニトログリセリンでしとめる。

 勇者さんも弾丸の軌道を読まされてしまい、強磁石を切ってしまった。

 マガジンの交換を見送っただけで、勇者さんの警戒度が分かる。

「あはは――まいりましたね」

 龍姫ステラさん、聖女ソフィアさん、偽悪ザンガさんに対して、手の内を見せすぎた。

 ならば俺の取る行動は……手の内の変更だ。

 俺は戦闘服のボタンを外し、ハンドガンをホルスターに戻す。

「万策尽きた……わけじゃないのだろう?」

 勇者さんは、ハンドガンを戻した程度で俺が降伏したとは思っていない。

「奥方様のご遺体を、娘たちに返すのはいけないことでしょうか?」

 万策尽きたわけじゃないから、お喋りするのも悪くない。

「おくがた、さま?」

 なんのことかは分かっていないようだが、だれの話かは勇者さんでも分かるだろう。

「きみは、魔王軍の?」

「まさか……俺は正真正銘純粋純血の人間ですよ」

 人間と言うだけで見れば、俺は勇者さんたちとなに一つ変わらない。

 違うとすれば境遇だったり、人間としての本質だったり……俺は捻じれたのでしょう。

 捻じれているから、魔王と娘たちを愛した真っすぐな奥方様が大好きだった。

「ホント、俺は人間に生まれて良かったですよ」

 人間以外の存在になりたかったと、魔王や厄神を見ていて思ったことはある。

 しかし人間を知るほど、魔王や神様が関わるものじゃないと思った。

「魔王や神様がやっちゃいけないバカなことも、人間の俺なら実行できる」

 奥方様も魔王もこんなことは望んじゃいない。

 復讐なんて、亡骸の回収なんて、世界大戦なんて、なに一つ魔王夫妻は望まない。

 分かっていますよ……だから分かってください。

「先代魔王も奥方様も、死んでしまえば俺を止めることもできないじゃないですか」

 死んでしまえば喋れないし、動かないし、俺を叱ることも、褒めることもできない。

 俺の凶行だって止められない。

「だから俺は勝手にやることにしました」

 勇者さんは俺の話を聞いているうちに、眉をひそめた。

「話が支離滅裂で、なにを言っているのか分からないのだが……」

 勇者さんの言っていることは正しいですよ。

 心が読めるわけじゃないのだから、俺のお喋りなんて意味不明だろう。

「人間は復讐する生き物ってことですよ」

 なるべく分かりやすく、会話と言うよりも文字の羅列のように答えてみる。

「だれが喜ぶわけでもなく、亡くなった相手が戻ってくるわけでもなく、ただ己の心にある怒りと悲しみを払拭するために、人間は自分のために復讐するってことです」

 俺が魔王夫妻の復讐をしたところで、魔王夫妻は戻らない。

 むしろ先代魔王や奥方様の人柄を考えるに、復讐なんてやめろと言うだろう。

 それでも俺は人間だから、自分のために、気がすむまでやっちゃいますね。

「きみは魔王軍の配下ではなく、魔物や魔族の類でもない……しかしきみは人間でありながらも、魔王やその花嫁と親交をもっていると……」

「はい、おおむねそんな感じです」

 勇者さんは、俺と魔王夫妻の関係を簡潔にまとめてくれた。

 まとめてくれた勇者さんだけど、自分でもかなり戸惑っているようだ。

「驚いた……魔王の娘たちの襲撃を警戒していたが、襲撃してきたのは人間の少年?」

 勇者さんも討伐軍の兵士や騎士たち同様、ここまでの人間の襲撃は想定していない。

「別に不思議なことではありませんよ……良く知りもしない遠くの人間のために戦うよりも、近くで共に育った魔王の娘のために戦う方が自然です」

「遠くの親類よりも近くの他人……洒落や冗談にしてはたちが悪いな」

 のんびりと迂闊な勇者さんだが、のんびりで迂闊だから俺はここまで来れた。

「洒落や冗談でも構いませんが、ついでに奥方様のご遺体を返してください」

 俺の要求を聞いた勇者さんは、また別の意味で戸惑っていた。

「……きみの目的は復讐じゃなかったのか?」

「そうですよ」

 メインミッションは奥方様のご帰宅だけど、それとは別に復讐も含まれている。

 だから勇者さんの疑問に素直にうなずいたわけだが……そこで俺は『あっ』と気づく。

「勇者さんは、もしかして俺が勇者さんたちに復讐しに来たと思っていません?」

「違うのか?」

 やっぱり、勇者さんは復讐の意味を勘違いしていた。

 まあ普通に考えれば、無理もないかな……。

「勇者さんたちは俺と親交のある魔王を討伐し、奥方様を処刑においやった」

 いろいろな過程をすっ飛ばして結果だけ言えば、ようするにそう言うこと。

 なるほど、魔王夫妻と親交のあった俺からすれば憎きコンチクショーどもだ。

 憎きコンチクショーどもだけど……。

「役人に復讐してもあまり意味がないでしょう」

 勇者さんの根本的な勘違いはそこだ。

 勇者さんたちを殺したとしても、俺にとってそんなもの復讐とは到底言えない。

「やく、にん?」

 俺の発言を受け、リオンハート=ラックフォードもさすがにショックを受けたようだ。討伐軍がリオンハートさんを勇者にし、本人にも少しは勇者の自覚があっただろう。

 本人に勇者の自覚がなければ、少なくとも民や兵士たちの前に出る時は勇者としての重責を自覚していなければ、だれも付いてこない。勇者とは勇気ある者であると同時に、勇気を他者に与える存在でなければならない。

 勇者の大前提を知るリオンハートさんは、俺の役人発言に反応した。

「俺は勇者さんたちに復讐しようなんて、一ミクロンも考えていませんよ」

 結果として戦っているし、結果として勇者のパーティーは大打撃を受けているが、目的の話をすれば俺にそのつもりは微塵もない。ミッションコード『奥方様のご帰宅』を実行するために、勇者のパーティーが障害となっているだけの話だ。

「たとえば奥方様を殺したのは死刑執行人ですが、死刑執行人をわざわざ怨んで復讐してどうするのです? 死刑執行人は死刑執行がお仕事なだけです。それと同じで、勇者は魔王を討伐するのも役目としてあります。それは公務に従事する役人と同じです」

 俺の言っていることは難しそうに見えて、実は単純明快。

 仕事をしているだけの役人に復讐したところで、それは業務上の出来事だ。

 業務に復讐するには、業務そのものに攻撃しなければならない。

「奥方様を例に出した場合、復讐相手は公務に従事している死刑執行人ではなく、奥方様の公開処刑を決めた連中……ようするに、俺の復讐対象は彼らとなります」

 彼らとは、未だにテラスで吊るされている七人の指導者たちだ。

 奥方様の復讐はこれで終わりだし、七人の指導者たちは先代魔王の復讐相手でもある。

 だから俺は、勇者さんたちに対する復讐心なんて持ち合わせていない。

「復讐が終わったのであれば、あとは奥方様のご遺体を娘たちに返すだけです」

 おかしな話ではない。

 俺は魔王の娘たちに人間らしくなって欲しくはないが、人間の俺がご遺体をご遺族にお返ししたいと考えるのは、なに一つおかしくないし問題もない。


たまにどうでもいい話をしてしまうのは、私の捻じれた性格が生み出した悪癖です。

どうでもよすぎて、ちょっと嫌な気分になることもありますので、無視してください。

どうでもいい話を無視されるのには慣れています。

ついでに一言

     「負けると分かっていても相手を無傷で勝たせるな」

                  詠み人 悪の組織戦闘員教官

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