奥方様のご帰宅4
続きです。
熱血主人公は好きですけど、作品が違ってもキャラ被りが多くて飽きてきました。
勝手な一言
「最近のハーレム系主人公を見て思うのは
私が女なら抱かれたいとは思わない」
詠み人 両刀使い
第三章 奥方様のご帰宅4
強い相手に勝つための訓練であり、兵器開発を俺はしてきた。
仕掛けてハメるやり方は嫌われるが、別に卑怯だとは思わない。
ハンドガンのマガジンを取り変え、勇者さんに銃口を向けて即時発砲。
聖剣を失った勇者さんは、それでも持ち前の身のこなしで弾丸をかわしていく。
弾丸を聖剣で切り裂いていたような人間だ。弾道が見えているのだろう。
それでもガードができないため、思いっきり俺に向かって踏み込めない。
踏み込めば弾丸が直撃し、暴発とは違う弾丸は勇者さんの防具では防ぎきれない。
とはいえ、このまま射撃を繰り返しても膠着状態に陥り、やがて弾切れだ。
それは困るから、堂々と弱点を狙う。
弾丸をかわす勇者さんから、銃口をザンガさんたちへと向ける。
「同じ手を食うかよ!」
ザンガさんは大剣で盾を作る。自分たちをおとりにされ、勇者さんは聖剣を失った。
同じヘマはしないと、ザンガさんは防御態勢に入った。だけどダメですよ。
「同じ手は使いません」
本日三つ目の手榴弾を投げつけた。大剣で防げるものじゃない。
「それは、もう見ましたよ」
手榴弾に反応したのは、ザンガさんの隣にいたソフィアさん。
手榴弾は大剣だと防ぎきれないため、ソフィアさんは〈聖なる障壁〉を発動。
手榴弾の爆発力と〈聖なる障壁〉の耐久力の勝負だが、俺はその勝負に興味なし。
勇者さんは仲間に銃口が向けられても、心乱されることなく徒手で襲いかかってきた。
仲間が狙われていても、ハンドガンの狙いが自分から離れた隙をついた攻撃だ。
勇者さんの顔面狙いの左ストレートをウィービングでかわすが、一連の動作として放たれていた膝蹴りが左わき腹をかすめていく。ウィービングは右ストレートをかわすと同時に、自分の立ち位置をズラして膝蹴りの直撃を避ける効果も付随している。
そしてお互いの立ち位置から、次に来るのは――右フック、だろっ。
研究成果の通り、勇者さんは右フックで俺の顎を狙ってきた。
上を狙って、下を狙って、再び上を攻撃する……上下への打ち分けは、打撃戦の基本。
基本形は読まれやすいが、初見の相手に基本形はもっとも効果的。
勇者さんがそう言うタイプなのは、研究済みです。
勇者さんの強烈な右フックを、俺は左腕でガード。
「俺の腕ごとへし折る気だったのでしょう?」
勇者さんの打撃は強烈なものだと予想はしていた。
聖剣を振り回しているとはいえ、基本的に自分の肉体を鍛えてこそ。実際に勇者さんの右フックはタイミングも角度もばっちりで、体重と一緒に闘気も乗った恐ろしい代物。
ガードされても腕ごとへし折り、俺の顎どころか顔面を砕くつもりでいたのだろう。
しかし残念……俺は勇者さんたちのためだけに、いろいろと準備してきました。
「俺のガントレットはチタン製でしてね……深海にも耐えられる優れものですよ」
左腕ガントレットはとても硬くて頑丈なチタンでできており、さすがに全身だと重くて動けなくなるため左腕だけにとどめた。俺のガントレットは聖剣のように神秘性の高い伝説の武具はともかく、おそらく人間が作ったなかでは最強の盾だと思う。
勇者さん渾身の右フックでも、生身でチタンは砕けない。
近づいてくれた勇者さんですが……ごめんなさい、殴りあいは俺の好みじゃない。
パンっパンっ――至近距離からの銃撃。
「くっ!」
勇者さんはこの至近弾をかわし、それでも距離を取るように後ろへ下がる。
あれをかわされると銃使いの俺としてはかなり凹むが……追っ払っただけで充分だ。
それに勇者さんが深追いせずに引いたのも、仲間の無事を確認できたため。
実際に俺の手榴弾の爆発よりも、ソフィアさんの防御魔法の方が勝っていた。
アサルトライフルも防ぎ、手榴弾も防ぐとなると、ハンドガンでも効果はない。
これで――下準備はできた。
仲間の無事を確認して一息ついてしまった勇者さんに、動きの鈍いザンガさんに、防御魔法を発動させて手榴弾を防いだソフィアさん。
だけど俺は、いまだ作戦実行中!
俺は――いろいろと準備してきました。
右手にハンドガンを握ったまま、勇者さんの右フックを防いだ左手にもう一仕事。
右腰に忍ばせてあるギミックスピアを、左手で取り出してギミックを発動させた。
コンパクトに収納されていたスピアが、上下に伸びて元の姿に戻る。
二メートル近いスピアを片手で振り回すには、俺の腕力は弱すぎる。
しかも槍投げとはまったくフォームが違う、横投げでスピアを放る。
腕力の弱い俺がでたらめなフォームで投げても無駄だが、このスピアは落ちない。
スピアの槍尻に火がついて急加速。こいつは小型ブースター付きのロケットスピア。
腕力なんてほとんど必要なく、狙いをつけて投げれば勝手に加速してくれる。
そしてギミックスピアで狙ったのは、防御魔法発動中のソフィアさん。
「そんなものでは砕けません!」
ソフィアさんの自信も納得の防御魔法だが……この程度で貫けないのは想定内。
「そのスピアは――」
強磁石は勇者さんの聖剣封じのためだけに用意したものであり、このギミックスピアは聖女ソフィアさんのためだけに用意した代物だ。
「魔力を吸って爆発する仕組みです」
ブースター付きのスピアは、それだけなら普通にアサルトライフルやハンドガンのほうが使い勝手が良い。だけどアサルトライフルやハンドガンでは、聖女の魔法は貫けない。
ならば魔法封じのための装備……しかも防御のためではなく、攻撃のための兵器……。
その結果として用意してきたのが、魔力を吸い込んで爆発力に変換させる装置。
「アンチ・マジック・ボム……反魔法爆弾と、俺はそのまま名付けましたよ」
実を言えば、正式な名称をつける前に実戦投入させてしまった逸品だ。
「ソフィア!?」
勇者さんが叫んでいるが、あんたは動くな、って意味を込めて射撃した。
「おいおいおいおい! どーすんだよ!? 魔法を解除すればいいのか!?」
ザンガさんも叫んでいるが、それはお勧めしない。
「魔法を解除すれば、爆発せずともソフィアさんは串刺しですよ」
一度魔力を吸い込み始めると、このスピアは爆発するまで止まらない。
発動中の魔法にぶち当てる必要があるからこそ、俺は手榴弾で布石を作ったのだ。
俺の狙いは勇者さんでもザンガさんでもなく、ソフィアさんのご退場。
防御魔法から魔力を吸い取り、魔力の薄くなった防御魔法は効力半減。
それからの爆発……魔法を持続しようが解除しようが、俺は相手を逃がさない。
「ザンガ、私から離れなさい!」
「あぁ!? バカかおまえ! なんとかしやがれ!」
「共倒れよりマシです! 早く離れなさい! 爆発しますよ!」
ソフィアさんの言う通り、スピアは充分に魔力を吸い込んだ。あとはボンするだけ。
「くそ! 死ぬんじゃねーぞ!」
ザンガさんは動きの鈍い身体に鞭を打ち、飛びだすようにソフィアさんから離れる。
それとほぼ同時にスピアが爆発。
爆発と言っても四方に弾けるものではなく、槍のように爆炎が貫いて行く。
その爆炎に飲み込まれたソフィアさんは、処刑台の裏側へと吹き飛ばされた。
これでようやく、一人ご退場できた。
「今さらですけど、ガントレット越しでも左腕がしびれますね……正直、真っすぐ飛んでくれるかどうかは一か八かの賭けでしたよ」
ギミックスピアは照準補正がなく、狙いが外れるとただすっ飛ぶだけの代物だ。
狙いをつけるだけと言っても、しびれた左腕でできるかどうかは本当に微妙だった。
本編とは全く関係のない話ですが、もし自分が女の子であればどんな男に惚れているのかと考えたことありませんか?
いやらしい意味じゃなくて、男でも惚れてしまう男の主人公を最近見ていない気がします。
ついでに一言
「私には見える! あなたの後ろで涙を流す母親の姿が!」
詠み人 他人のことは言えない35歳児




