奥方様のご帰宅3
続きです。
戦争をするときは相手のことをよく研究しておきましょう。
勝手な一言
「生きねばならん!
輝いていた頃のあの子が主演のドラマの再放送を見るために!」
詠み人 元アイドルの追っかけ
第三章 奥方様のご帰宅3
龍姫との戦いで中央公園は未だにパニック状態だが、一般人の避難は進んでいた。
完全に避難はすんでいないようだが、俺も必要以上に一般人を巻き込みたくない。俺が殺してきたのも兵士や騎士や指導者など、いわゆる討伐軍に属する人間だけだ。俺も無用な犠牲は避けておきたいので、一般人の避難は大いに結構、邪魔はしない。
だからってわけじゃないが、俺の邪魔をしないでほしい。
もっとも討伐軍にとっては、一般人の避難とは違う意味で犯人の確保が最優先だろう。
それに……俺は、まずはあれだな……。
処刑台で鎖に繋がれている奥方様の近くを、勇者のパーティーが陣取っていた。龍姫とも処刑台を狙わずに戦っていたわけだし、俺の向かう場所ぐらい普通に気づく。
龍姫も勇者のパーティーの一員だが、俺とシンラは龍姫の実力を防ぎつつ、こちらの能力を最大限に引き出す戦い方をしたから勝てたのだ。純粋な戦闘力は龍姫の方が上だ。処刑台にいる勇者のパーティーは、一人一人が龍姫クラスの実力者だと思って良い。
対空戦闘の要を失った勇者のパーティーなら、シンラによる空襲が効果的。
しかし奥方様を巻き込むと、俺が魔王の娘たちに木端微塵にされてしまう。
とはいえ……ここまで来て奥方様のご遺体を放置なんて、俺にはできない。
俺は潜入と暗殺、シンラは破壊と殲滅……正面切っての奪還は専門外だ。
「でも行くよな」
俺の即決はシンラの即決であり、俺が指示を出す前にシンラは処刑台へと向かう。
そしてシンラは着地点にいる邪魔な兵士や騎士をガトリングで一掃し、俺は安全が確保された処刑台に着地。さらにシンラは着地点に、俺の装備品を投下。
アサルトライフル、ギミックスピア、左腕ガントレット、ハンドガンとホルスター、暗器の仕込んだ戦闘服……ちょっぴり過剰な、近未来的戦闘兵スタイルだろう。
俺の武装が終わると、シンラは処刑台に近づく敵を優先的に空襲で排除していく。空にはスカイランナーもいるが、ドラグナーがいなければ制空権はシンラのものだ。
弓兵や遠距離魔法による攻撃もあるが、並の弓矢であればシンラにダメージはなく、魔法攻撃は要注意だがシンラの自己判断にお任せしよう。実際にシンラは魔法使いの場所を特定し、放物線を描くようにクラスター爆弾による範囲攻撃で一掃した。
もっとも、援護射撃的なものはさすがに期待できそうもない。
俺は覚悟を決め、単身で奥方様の捕らえられている処刑台の中心へと向かう。
処刑台に残っていた兵士や騎士が襲ってきたが、アサルトライフルで一掃していく。シンラのガトリングほど強力じゃないが、半端な数の兵士や騎士なら充分だ。
しかしグズグズもしていられないので、手っ取り早く敵兵を処刑台から落とそう。
戦闘服から手榴弾を取り出し、アサルトライフルで敵兵を威嚇しながら投げつけた。
ボンっと手榴弾が破裂し、敵兵は砕け散り、組み立て式の処刑台の足場に穴があく。手榴弾で開けた穴にアサルトライフルで敵兵を追い込み、強制ダイブしてもらう。
そして処刑台に残ったのは、俺と勇者のパーティー三名。
「お初にお目にかかりますが、私のことは覚えておかなくて結構ですので」
俺は自分を売り込む気なんてないから、とりあえずそれだけ言っておく。
だから俺は即アサルトライフルで攻撃した。
会話もなにもなく、いきなり攻撃された勇者のパーティーだが、兵士や騎士とは違う。
聖女ソフィアさんが魔法による障壁を張った。
物理攻撃を防ぐ防御魔法〈聖なる障壁〉か……普通の魔法使いじゃ使えない、神の祝福を受けた神聖魔法……聖女とはよく言ったものだ。
魔族の王たる魔王とは対照的な魔力の性質だが、人間相手でも充分な脅威だ。
しかも、それだけじゃない!
偽悪ザンガさんがでかい大剣を盾にしながら、軽業師びっくりの動きで迫ってきた。
あんな堅そうで重そうな大剣を持ちながら、なんて動きしやがる!
そしてザンガさんは間合いをつめて、防御に使っていた大剣を攻撃として振るう。
俺はその大剣をかわすが、風圧だけでも強烈な衝撃をうむ。
俺は再びアサルトライフルを連射させるが、サンガさんも再び大剣を盾にした。
だけど追撃させないための射撃なので、それには成功。
ザンガさんとの距離はとれた。
「おいおい、つれねーこと言うなよクソヤロー」
ザンガさんはごつい見た目同様、口が悪いようだ。
「俺はおまえの名前を知りたくてうずうずしているぜ」
ザンガさんはご立腹のようだが、俺の名前を聞いてもロクなことにはなりませんよ。
「初対面の相手に対する自己紹介は礼儀ですよ」
ソフィアさんは口が良いみたいですが、ご立腹と言う面で見れば同じですね。
そしてソフィアさんの隣にいる勇者様も、温厚そうな顔つきとは裏腹に闘気が強い。ザンガさんが飛び出してきた際、勇者様は俺を仕留める隙をずっと狙っていた。
でも残念、俺は超がつくほどの要注意人物のマークは外しません。
「俺みたいな木端の名前なんて気にしちゃいけません。村人Aで充分です」
モブ人間の俺はそんな愉快なこと言いながら、アサルトライフルのマガジンを交換。
「おまえみたいな村人がいるか!?」
ザンガさんの怒声はビリビリとした衝撃を発し、その衝撃に乗るように攻めてきた。
これは闘気……戦場で鍛え抜いてきた戦士は、闘気だけで相手を制するらしい。
ザンガさんは魔法の使えない純粋な戦士だが、充分すぎるほどの戦闘力を秘めている。
そんなザンガさんにアサルトライフルをぶっ放すが、大剣でのガードは堅い。
しかも今度は、ソフィアさんからの射撃魔法も一緒だ。
二メートル近い杖の先端を俺に向けて、まるでライフル銃のように射撃してきた。
俺のアサルトライフルより回転力は低いが、魔力が続く限り弾切れはない。
ソフィアさんの総魔力量は知らないが、単純な射撃魔法は魔力消費も低い。
聖女の魔力量が少ないわけもなく、無駄弾の撃ちあいは俺にとって損しかない。
強烈な闘気と射撃魔法による挟み打ち。
状況は悪いが……さしあたってまずすることは――手榴弾の追加!
突っ込んでくるザンガさんに向かって手榴弾を投げる。
「はんっ!?」
弾丸ならともかく、処刑台に穴を開けた爆発物を大剣で防ぐ気はないらしい。
さすがのザンガさんも、舌打ちをしながらいったん後ろに引く。
そして無駄弾の撃ちあいは好みじゃないが、俺は無駄じゃなければ惜しまず撃ち込む。
始まったのはソフィアさんと俺の、射撃魔法とアサルトライフルの変則ガンファイト。
しかしこのまま撃ちあっていれば、それこそ無駄弾の撃ちあいになってしまう。
だけど俺は、ソフィアさんよりも撃ちあいに馴れている。
俺がソフィアさんよりも撃ちあいに馴れている確証はなかったが、魔法の撃ちあいならともかく、銃器が普及されていない人間界でガンファイトの経験はできない。
一方で俺は、ハンドガンやアサルトライフルなどを主戦力としている。
科学水準の低い人間界では、銃器や兵器を使う経験はなかなかできまい。
そして予想通り、経験のないソフィアさんは知らず知らずのうちに動かされていた。
「なっ!?」
「えっ!?」
手榴弾から逃れたザンガさんと、アサルトライフルで誘導されたソフィアさんが衝突。
これによりザンガさんとソフィアさんの二人が足をとめた。
あとは簡単、アサルトライフルからの速射攻撃。ようするに、蜂の巣だ。
人身衝突により防御態勢はワンテンポ遅れ、間に合ったとしても大剣防御は一人分であり、射撃魔法から防御魔法への魔法転換は間に合わない。これで、最低でも一人は直撃。
ザンガさんは男らしく、大剣をソフィアさんの前に差し出す。
アサルトライフルの速射攻撃にさらされたザンガさんは、そのまま脱落――しない!?
アサルトライフルを速射している横で、勇者さんからの攻撃。
その場から一歩も動かず、剣を抜いた勇者さんは斬撃を飛ばしてきた。
龍姫さんがシンラを傷つけたあの強烈な突きと同じ要領の、勇者さんの遠距離攻撃。
「――っ!?」
俺は速射攻撃をしながら身をひるがえすが、アサルトライフルは真っ二つに切られた。
反応が少しでも遅れていれば、俺の方がこうなっていただろう。
真っ二つにされたアサルトライフルを捨て去り、俺はホルスターからハンドガンを取り出し、けん制の意味も込めて勇者さんに向かって射撃。
きゅぃん! きゅぃん!
「うわぁお」
驚いたことに、勇者さんは弾丸を剣で切り裂いていた。
連射モードでも再アタックしてみたが、まるでハエを払うように弾丸が切り裂かれた。
「ザンガ! ソフィア!」
処刑台に俺がやってきてからの、勇者さんの第一声が仲間への安否確認。
仲間思いはとても美しいですが……少なくとも、ザンガさんは無事じゃない。
「ちく、しょう……」
とっさに頭部をガードしたようだが、アサルトライフルの弾丸が身体に命中していた。鍛えた筋肉と闘気で致命傷は避けているが、弾丸はザンガさんの体内にめり込んだ。
「ザンガ、動かないで!」
「かすり傷だ、バカヤロー!」
ソフィアさんの制止を聞かないザンガさん……怒りで痛みを忘れているようだ。
痛みを忘れても身体は正直で、大剣を引きぬくザンガさんの足元は妖しい。
狙うなら、今だとハンドガンを構えてザンガさんを狙う。
「させるか!」
勇者さんが攻めてきた。
ザンガさんよりも身軽で速いが、攪乱してきても狙っているのは俺だろう?
「こんなのはどうですか!」
ザンガさんを狙う気は最初からない。
狙いはいつだって超がつくほどの要注意人物。
俺は暗器仕込みの戦闘服を、翻すように剥ぎ取る。
すると戦闘服に仕込まれていた暗器の一つ、黒色の小さな複数の玉が勇者に向かって飛んでいく。
弾丸よりも遅い黒色の玉を、勇者さんは剣で簡単に切り裂くが、切り裂かれた玉も、切り裂かれなかった玉も、勇者さんの剣にぶつかるように張り付く。
剣に張り付く複数の黒色の玉は、弾丸を切り裂く勇者の素振りでも取れない。
「そいつは強烈な磁石ですよ」
戦闘服に仕込まれている時は磁力を押さえているが、解放されると金属に張り付く。
「勇者さんの剣は聖剣の一つだと知っていますが、金属である以上は磁力が反応する」
聖剣が魔王を倒すほどの代物だとしても、強烈な磁石は関係なく金属を求める。
そして強磁石が聖剣に張り付くと言うことは、こう言うことでもある。
不要になってしまったアサルトライフル用のマガジンから、弾丸を勇者さんに向かってぶちまける。ぶちまけられた弾丸は、聖剣に張り付いた磁石に引かれて張り付く。
聖剣に張り付くわけじゃなく、聖剣に張り付いた磁石に吸い寄せられている。
「余計なものが張り付いちゃいましたね」
そんなことを言い放ちながら、ハンドガンによる速射攻撃。
さすがに発砲された弾丸まで磁石に引き寄せられることはないが、勇者さんは聖剣で弾丸を防いでしまった。一発や二発ならかわせても、速射されると剣で捌くしかない。
そうなるように俺が仕組んだわけだが、剣で捌くのは得策じゃない。
磁石に張り付いているのは、アサルトライフル用の弾丸だ。
弾丸に発砲された弾丸が当たった場合、未使用の弾丸は暴発するしかない。
聖剣からの暴発は、聖剣を握っていた勇者さんにはたまったものじゃない。
弾丸は無差別無軌道に暴発し、俺の方にも飛んでくる。
だから俺は剥いだ戦闘服を、着ると言うよりも羽織る。
この戦闘服は潜入に使ったワイヤーの鎖帷子とは違い、正真正銘の防弾仕様だ。
「おいおい、このクソガキぶっ飛んでんぞ!?」
ザンガさんが叫ぶが、ここまで来てこんな騒ぎを起こすやつがまともなわけがない。
暴発が終わると、とっさに聖剣を手放していた勇者さんは軽く被弾していた。
俺はハンドガンを構えるが、狙いは勇者さんたちじゃない。
パンっパンっパンっ――と、弾丸は勇者さんの手放した聖剣に命中。
この程度で聖剣は折れやしないが、それでも聖剣は弾丸に弾かれていく。
何度も弾かれていく聖剣は、やがて処刑台から落ちていく。
「狙いは、ボクから武器を奪うことかい?」
聖剣を失った勇者さんだが、それでも徒手で構えを取る。
「アサルトライフルを壊されましたから……おあいこですよ」
お互いの武器を一つずつ失っただけの話。
ただ致命的なのは、勇者さんにとって聖剣は巨大な戦力だったってこと。
「あなたたちのスペックと俺のスペックを比較すると、まともにやり合えば確実に俺は負けます。だから俺はあなたたちを研究してきました。今日は研究成果の発表会ですよ」
強磁石なんてまさしく、聖剣を封じるためだけに持ってきたようなものだ。
弱い俺が強い相手に勝つためには、なにをすればいいのか……訓練や装備の充実は確かに必要だけど、俺みたいな小賢しいタイプは知力を限界まで絞って行く。
弱い俺なら堂々と、強い相手の意表をついて仕掛けてハメろだ。
戦争とは突然始まるものではありません。
呆気なく始まってしまうから、突然始まったように感じてしまうだけです。
ついでに一言
「全人類が謝ったって許さない」
詠み人 失恋女子プロレスラー