奥方様のご帰宅2
続きです。
将を射んとする者はまず馬を射よと言いますが、その通りだと思います。
勝手な一言
「夢と希望を抱くのは素晴らしいですが、領収書も見てください!」
詠み人 熱血会計士
第三章 奥方様のご帰宅2
方向転換したシンラが、ドラゴンに向かってガトリングを撃ち込む。
ドラゴンは細かな旋回を繰り返し、ガトリングをかわしていく。
なかなか良い動きだが……サイレンの効果で旋回を繰り返すほど、方向感覚は鈍る。
『グギャラァァァァァァ――』
俺の狙いは的中し、ガトリングの着弾でドラゴンの唸り声が響く。
しかし予想より戦果が少ない……ドラゴンの鱗は生物界でも屈指の硬さを誇り、さらに龍姫のドラゴンは別格……ガトリングでは、ダメージは与えられても致命打にならない。
ダメージの蓄積で落とすには時間がかかるし、時間をかけると逆転の恐れもある。
万が一を起こさないためにも、捻じり込むように、相手を即叩き潰そう。
俺はガトリングを撃ち込みながらも、空対空ミサイルでドラゴンをロックオンする。
「落ちろ!」
レーダー・ホーミング式によりミサイルを放つ。
ガトリングとは明らかに異なる形と質量により、龍姫も乗っているドラゴンもミサイルのやばさに気づいたようだ。
受けてはいけないと判断した龍姫は、ミサイルを引き離そうと加速や旋回を繰り返すが、ホーミング性能により振りきれない。
使っているレーダーはドラゴンの熱に反応して追尾している。
ミサイルを止めるにはドラゴンの熱を遮断するか、ミサイルの推進燃料がつきるかだ。生物のドラゴンの熱を遮断するなんてできないし、推進燃料がつきる前に着弾する。
しかし、そううまくいかないのが世の常だ。
驚いたことに……龍姫はドラゴンの背中から飛び出し、ミサイルを槍で貫く。
そんなことをすればミサイルは大爆発を起こし、龍姫だってただではすむまい。
それでも龍姫は爆風から吹き飛ばされるように姿を現し、ドラゴンはサイレンの影響を受けながらも龍姫を背中でキャッチ。
龍姫もドラゴンも、なかなかやるねぇ。
「ならば、こんなのはどうでしょう?」
ドラゴンを再びロックオンし、ホバリングしながらミサイル発射。
しかも今度は一発だけじゃない。
「悪いね、シンラはミサイルを連射できる」
ガトリングほどではないが、それでも一呼吸置きにミサイルを吐きだす。
健気にも、龍姫はドラゴンランスを再び構えた。
ドラゴンランスはミサイルを貫き、ドラゴンスーツは爆炎程度じゃ効果も薄い。
ならばしっかりとミサイルを直撃させ、しっかりと爆発に巻き込まれてもらおう。
龍姫がドラゴンランスで飛びだそうとするが……これもまた予想外。
ドラゴンはサイレンによる不快な音で泡を吹きながらも、ドラゴンブレスを吐きだす。
ドラゴンは炎を吐くと言うが、実際は正真正銘純粋な高圧力エネルギー砲。
苦しんでいるなかで、そんなものを吐きだすなんて、なかなか根性のあるドラゴンだ。その根性は俺にとって悪い方に実ってしまい、撃ち出したミサイルが迎撃される。
しかもミサイルが爆発して次々に誘爆して行き、ドラゴンの熱を隠してしまう。
熱探知できない状態でミサイルを撃ち込んでも効果は薄い。
ならば武装を変えて再アタック――ん?
爆炎の中で光るあれは……? なんだろうと、呆けてしまったのが最大の失態。
その光はまるで流星のように、こちらに向かって飛んできた。
「やばっ!?」
寒気を感じた俺は、反射的にシンラを傾け、その流星を回避。
しかし回避しきれず、シンラの右翼をえぐるようにかすめていく。
シンラにダメージ!? 飛行に影響はないが、直撃ならやばかったぞ、今の!?
俺は追撃の可能性を考慮し、シンラのモニターシステムで爆炎の中をズームアップ。
モニターが映し出したのは、ドラゴンの背中で恐い顔をしている龍姫様。
槍を突きだす構えから察するに、自分の魔力とドラゴンの力を利用した攻撃だろう。
単純に表現すれば槍による超強烈な突き……突きの衝撃による遠距離攻撃かよ。
しかし相手も必死だ……サイレンの効果、ミサイルの衝撃で、ドラゴンは弱っている。
龍姫が攻撃してきたのは、ドラゴンに攻撃をかわすだけの体力が残っていないから。
大きな攻撃じゃなければほぼ無条件で当たるはずと、こいつを使用する。
ぱしゅんっ、ぱしゅんっ。
ガトリングやミサイルに比べると明らかに異なる小さな射出音。
『グラァァァァァァ!』
シンラから放たれたものが直撃し、何度目かも覚えていない、ドラゴンのうねり声。
ドラゴンに直撃したのはガトリングやミサイルとは違う、ワイヤー付きの削岩弾。
「アンカーアーム……捕まえた」
ワイヤー付き削岩弾、通称アンカーアームは相手を突き刺して捕まえる。
ドラゴンだって、鱗は硬くとも、内臓はそこまでじゃないだろう?
バチバチ――っと、アンカーアームに高圧電流が走っていく。
突き刺さったアンカーアームを通して、ドラゴンの内側を電流により焼いて行く。
ドラゴンは高圧電流に耐えきれずに暴れ出すが、ワイヤーはローラーにより伸びたり縮んだりしなったりし、ワイヤーに余裕がある限りシンラのホバリングは崩れない。
龍姫がなにやら叫んでいるが、ドラゴンはその叫びに答えられなくなった。
後は文字通り、投げ飛ばさせてもらおう。
アンカーアームでドラゴンを固定し、シンラを回転させドラゴンをスイング。
そして処刑台に落ちないように狙いをつけてから、アンカーアームを解除。
ドラゴンは大きく投げ飛ばされ、そのまま墜落どころか地上へと叩きつけられる。
思ったよりもシンラのダメージが大きかったが、これでやっと目的地へ行ける。
森羅にはいろいろと仕込んであります。
戦争人間にも、当然いろいろと仕込ませてあります。
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ついでに一言
「俺は死にたいんだ!
嫁と子供と孫たちに看取られながら穏やかに死にたいんだ!」
詠み人 天寿の死にたがり