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戦争人間  作者: ジュリー
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人間と魔王の娘

初めての投稿なのでいろいろと失礼があると思います。

それと、作者は基本的にダメ人間(軽い鬱)なので呼びかけても返事のない可能性があります。

 勝手に一言

      「男にはわからないだろう。

          自分以外の誰かのために死ねるのは、母親だけだ」

                   詠み人   人間界の心理学者

プロローグ 人間と魔王の娘



 百年近く続いた人間と魔王の人魔戦争は、魔王討伐により戦況は人間側へと向いた。

 このまま行けば人魔戦争そのものも、人間の勝利で終わるだろう。

 しかし魔王には人間の花嫁がいた。

 魔王討伐のため魔界へと乗り込んだ勇者たちは、魔王の花嫁を人間界へと連れ戻した。

 そして魔王討伐から一年後、魔王には十五人の娘がいることが判明した。

 人間たちは魔王の花嫁を問いただすが、魔王の花嫁は娘たちについてなにも語らない。

 魔王の花嫁……奥方様が娘たちを庇っているのは人間から見ても明白だった。

 人間たちは奥方様を幽閉し、さらなる尋問にかけたが、それは無駄だ。

 奥方様はなにも喋らない……そもそも、なにも知らないのだ。

 奥方様は魔王と共謀し、勇者たちが魔界へとやってくる前に娘たちを送り出していた。

 しかもその居場所は奥方様も知らない。

 奥方様は自身への尋問や拷問を予想し、あえて娘たちの居場所を聞かなかったのだ。

 魔王と奥方様の……魔王夫婦による娘たちの隠匿。

 人間たちは見事にハメられ、奥方様からはなにも聞き出せないと悟った。

 そして人間たちが次にとった行動こそ、奥方様の公開処刑だった。

 この公開処刑には二つの狙いがある。

 一つは母親を救おうと現れるかもしれない魔王の娘を討伐すること。

 二つは魔王の娘たちが現れなかったとしても、魔王の花嫁を処刑することにより、魔王討伐に動きだしていた各国の国王たちの支持率が上がる。

 見え透いた魂胆だ。

 そんな見え透いた魂胆など、俺や魔王の娘だって分かりきっている。

「奥方様の意思は、ハンニバルだって分かっているだろう?」

 ここは魔界の魔王城。

 勇者たちが魔王を討伐したのは前線基地であり、魔王城の存在は人間たちも知らない。

 俺はその魔王城にある私室で、私室の主である統括魔王ハンニバルに話しかけた。

「もちろん……お父様とお母様は私たちを守ろうとしている」

 ハンニバルはベッドに腰を降ろした状態で、ゆっくりとうなずく。

 ハンニバルの部屋は一人部屋なのでイスも机も一人用であり、ハンニバルはベッドに腰を降ろし一つしかないイスに俺が座っていた。

 今はとてもつらそうだが、ハンニバルは綺麗な娘だと思う。

 金色と言うよりは白金色のウェーブのかかった長髪。紅蓮の瞳は情熱色かと思いきや、実はとても淡泊で感情の読み取りが難しい。整った顔つきは美しいが、それはまるで彫刻品のようで人間味が薄い。女性だけど着ているのは男物のタキシード。まさに麗人だ。

 年頃の少女の部屋で二人きりはドキドキなシチュエーションだが、お互いにそんな状況じゃないってことぐらい理解している。特にハンニバルはそうだろう。

「お父様が討伐された時もそうだったけど……お母様の公開処刑が決まっても、私たちに大きな混乱はないよ。怒り、悲しみ、憎しみ……いろいろな感情が私を含めて妹たちにもぐるぐると回っているけど、こうなると予想も覚悟もできていた」

 人間と戦争をしているわけだから、魔王である父親とその花嫁である母親がどうなるのか、十五姉妹の長女であり精神的成長もはやいハンニバルには良く分かっている。

「妹たちはキョーコが面倒を見てくれている……キョーコとユーヤには感謝しているよ」

「俺も母さんも気にしちゃいない」

 キョーコとは俺の母親のことであり、ユーヤとは俺のこと。

 俺と母さんは魔王夫妻との旧縁により、十五姉妹を匿っていた。

 俺たち親子は人魔戦争に関わっちゃいないが、魔王夫妻の子隠しには協力した。

「お母様を助けたい。だが、助けに行ったところでどうにもならないことぐらい、私は理解している。血の気の多い妹たちはそれでも助けに行こうとしたが、私たちを必死で守ろうとしているお母様の意思に泥を塗ってしまう」

「そうだな。十五姉妹全員で奥方様の救出に向かったところで、相手は勇者やドラグナーを含めた討伐軍の騎士団。飛びだしたところで待ってましたの返り討ちにあう。奥方様を救出できたとしても、姉妹たちのだれかが犠牲になるだろう。十五姉妹のうち一人でもかけていれば、それこそ奥方様は悔しくて悲しむ」

 俺はハンニバルの意見に賛同し、さらにはっきりと言ってやった。

 無理なものは無理だし、ダメなものはダメだ。

 姉妹の犠牲もなしに奥方様の救出をするには、魔王の娘たちは未熟すぎる。

 そもそも奥方様が生きている限り、魔王の娘たちに安全なんてない。

「奥方様は自分の処刑をもって、人魔戦争を終わらせるつもりだ」

 魔王討伐により人魔戦争は人間の勝利となろう。

 魔王の娘がいるとはいえ、主軸となっていた魔王がいなければ脅威は薄い。

 しかし奥方様は娘たちについてなにも喋らず、娘たちはいつ暴走するか分からない。

 娘たちが奥方様の救出のために暴走してしまえば、それこそ人魔戦争は再燃する。

 人魔戦争が再燃すれば、魔王の娘たちは先代魔王から人魔戦争を引き継ぎ、前線に出なければならない。

 奥方様を救ったところで、人魔戦争が続く限り娘たちの危険はつきまとう。

 だから奥方様は自分の処刑をもって、人魔戦争の幕を引くのだ。

 奥方様が処刑されてしまえば、魔王の娘たちが人魔戦争を引き継ぐ理由もなくなる。

「復讐は人間がやることで、魔王がやることじゃない……人魔戦争が終われば終わりさ」

 やられたらやり返す、目には目を、歯には歯を、死には死を……なんとも人間らしい。

「奥方様は人間だったが……奥方様はハンニバルたちが人間らしくなることを望んじゃいない。奥方様は人間だけど、奥方様が愛したのは間違いなく魔王だ。だから娘たちには人間らしくじゃなくて、魔王らしくを望んでいる」

 俺も奥方様のその意見には賛成だ。

 人間らしさは人間にだけ求めれば良く、魔王には不要。

「人間界を襲うのであれば復讐じゃなくて、俺は魔王らしく普通に侵略を選んで欲しい」

 奥方様の復讐でなければ、魔物や魔族を束ねる賢王として魔界に君臨して欲しいし、強欲な独善的な超傲慢な暴君として人間界で暴挙の限りをふるって欲しい。

 人間らしく奥方様の復讐をされてしまうより、全然マシだ。

 まあ奥方様が人間界の侵略を望んでいるかと言えば、限りなくノーだと思う。

「お母様の気持ちは理解している……それでも、私たちは統括意思として人間が憎いよ」

 ハンニバルと言う統括意思とは、ハンニバルのもつ能力によるものだ。

 十五人の魔王の娘は、一人一人特殊な能力を持っている。全体的な能力は父親である魔王のほうが圧倒的に上だとしても、一人一能で見れば娘たちのほうが上なのだ。

 そしてハンニバルは統括能力を有している。

 統括魔王ハンニバルは内政に優れており、魔物や魔族への統括能力は先代魔王より上。

 ハンニバルの統括能力について分かりやすく述べるとすれば、大同小異が当てはまる。

 人間よりも多種多様な魔物や魔族が衝突したとしても、それが小異によって衝突したものであれば、大同を掴むことで小異による衝突を鎮めて統括できる。

 ハンニバルの『人間が憎い』と言うのは、十五姉妹の大同による意見でもある。

 人間が憎いけれど許してあげる、人間が憎いから殺しちゃう、人間が憎いから遠ざける、人間が憎いから侵略する、人間が憎いけど愛せるなどなど……『人間が憎い』を大同にし、やり方は全部小異として処理している。

 小異はともかくとして『人間が憎い』とハンニバルが統括意見を出せば、十五姉妹全員がもれなく人間への憎しみを抱いていることになる。

「それはそれで正常だよ。人間らしく復讐なんてされるとかなり困るが、だからと言って父親と母親を殺した相手に怨みなしは機械みたいで魔王らしくもない。人間に怨みや怒りや悲しみを抱くのは大いに結構だが、復讐として人間を襲うのはやめてほしい」

 魔王なのだから、復讐なんてささやかなことをしちゃいけない。

 やるなら魔王らしく、人間の世界ごと叩き潰して蹂躙しなさい。

「ユーヤは人間なのに、ずいぶんとサバサバしているよな」

 人間の俺が魔王に人間界の侵略を進めるのは、ハンニバルからしても不可思議だろう。

「人間っつても俺は捨て子だ。人間に捨てられた人間の子供を、厄災の神様が拾ってくれて育ててくれた。俺は人間だけど、よく知らない大勢の人間のためになにかするぐらいなら、俺たち親子と交友のある魔王一家のために頑張るほうが自然だよ」

 感覚的には、遠くの親類よりも近くの他人に近い。俺は良く知らない人間のために世界を守るぐらいなら、親しくしていた魔王と一緒に人間界の征服を選ぶ。

 もっとも、魔王夫妻は厄神親子を人魔戦争に巻き込まないようにしていた。

 母さんに魔王の娘たちを匿わせたのも、人魔戦争のためと言うより娘の安全のためだ。

「それにサバサバしているように見えるのは、義理とはいえ母が神様だからだよ。ハンニバルも知っての通り、神様ってのは魔王よりもシビアだ」

 神様も千差万別であり、魔王と親交のある神様もいれば人間と親交のある神様もいる。

 しかし神様は神秘と奇跡の存在であり、神様の力を借りるにはそれなりの対価と信仰心が必要となる。対価や信仰心の前には、それこそ怨みや怒りや悲しみすら不要。

 娘を匿う程度ならともかく、戦争のために神様を動かすほどの対価と信仰心は絶大だ。

 母親としてとても優しい俺の母さんだが、神様としてのシビアさも良く知っている。

「しかし俺は神様でもなければ魔王でもなく、ちっぽけでくだらない人間さんだよ」

 この魔王城において、人間である俺だけが異質だ。

「厄神様は母さんだし、魔王の娘は友人だけど……今の人間界に神様も魔王も不要だ」

 魔王も奥方様もそこまでは望んでいないと思うが……残念ながら、俺は人間だ。

「俺は人間だから復讐もするし、対価や信仰がなくても勝手に動く」

「ユーヤ?」

 ハンニバルも俺がなにを言っているのか、良く分かっちゃいないだろう。

 だけどそれはハンニバルが魔王であり、俺が人間である証拠でもある。

「ハンニバル、人間はどこまで行っても人間だったよ」

 人間として生まれ、厄神に育てられ、魔王夫妻と接し、それでも俺は人間だと悟った。

「統括魔王ハンニバルに、人間(やく)づつみゆうが提言する」

 統括を司るハンニバルに伝えておけば、ほかの姉妹にも大同として伝わろう。

「人間なんて魔王が手を下すまでもない」

 復讐は人間らしいからやめておけ……それは本音だが、それ以前の問題が人間にある。

 ハンニバルはいまいち良く分かっていないようだが、それもまた魔王だからこそだ。

「人間の奥方様が嫌気をさし、人間の俺が呆れ果てた、人間の業を見せてやる」

 俺はそれだけ言い残し、ハンニバルの私室から出ていった。



続きが見たいですか?

もしかしたら気分が沈むかもしれません。

 ついでの一言

      「魔王が奥方様を愛したのであれば、我々でも愛せよう」

                   詠み人   魔界の貴族

          

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