遠征
闘技場の大歓声の中私の知り合い、ななゑさんが会場に現れる
それと同時に反対側からはホーロットさんが現れる
「な、なんでななゑさんが…!?」
「何故ギルドマスターが…!?」
テイル君と私の疑問は同時に放たれた
「シェルン、ギルドマスターを知っているのか?」
「ギ、ギルドマスター…?」
「舞浜ななゑ、恐らく現状最強の剣陣召喚士であり現在のギルドマスターの名だ」
「えっ!?ななゑさんが!?」
「なんでギルドマスターは知らないで、舞浜ななゑを知ってるんだお前は…」
「は、始まりますぞ!?」
ーーーーーーーーーーーー
《闘技場 会場》
「久しぶりですねー、でも『ギルドマスター』としては初めましてで良いのかな?」
「……………」
「5年前あなたが消えた後大変だったんですよ?あの時はあなたのせいで山に居たから、こっちは一体何が起きたのか分からない始末だし」
「……………」
「あ、そうだルプスは元気だよ」
「……………」
「何か言ってくださいよー」
「俺が勝ったらフードの連中の情報をよこせ…」
「まぁ、そう焦んないでよ」
「………………」
「いやぁ変わったね…その勢いで強さも変わってればなおの事良いんですけどね?」
「……………何が言いたい…?」
「剣陣の力の無い無力な人間はこれからの戦いに邪魔しないでください、と言いたいのですよ。というわけで私が勝ったらあなたには今後一切フードの集団との戦いに関わらないでください」
「変わったな……昔はあんなに必死だったのに…」
「人間ってのは変わる生き物なんですよ」
ホーロットは目を閉じ深呼吸
ななゑは微笑を浮かべる
「俺は馬鹿弟子の目を覚まさせないといけないみたいだな、またやるか?山籠り」
「あなたから教わる事なんてもう何もありませんよ、ホーロット師匠」
深呼吸は溜息に
微笑は変わらず
『試合開始』
試合開始の合図とゴングが同時に鳴り響く
ホーロットは即座に抜刀しななゑの背後に回り、剣を横に薙ぐ
「全ての空間を我が手に、剣陣 《虚空》」
試合開始の合図が始まる手前あたりから詠唱していたであろう剣陣の召喚術をななゑは唱え、剣陣《虚空》を手にする
その剣に刃は無く有るのは鞘だけ
ななゑは剣陣を持ち直し動作に移ろうとする
(だが遅いっ…!)
「遅くなりましたね師匠」
考えていた事をノータイムで返される
返されたのは言葉だけにとどまらず、剣も見えない何かに弾き返された
「力を得られなかった気持ちはどうです?」
以前ななゑは前を向いたまま
「知ったことか…」
「知らないわけ無い、あなたは昔負けてはならない戦いに負けた」
「黙れ……」
「英雄?笑わせますよね、女の子1人守れなかったのに」
「黙れッ!」
ホーロットはななゑに突撃
一つの隙の無い斬撃はななゑを捉える
「本当に笑わせてくれますね
虚空
」
鞘をホーロットに向け
バシュッシュシュシュッ!!
ホーロットの身体は唐突に切り刻まれる
「ぐっ…ぞッ…!?」
ホーロットは剣を止めない
ななゑは鞘を逆手に持ち、それを振るう
パキィンッ!!
ホーロットが持っていた剣は高い音を立てながら半分に斬れる
「さよなら…私の英雄」
ななゑはホーロットの腹を斬る軌道で鞘を振るう
キィンッ!!
ななゑの斬撃は防がれる
1人の少女の手によって
「ホーロットさんッ!しっかりしてください!」
シェルン・ハート
現在のホーロットの二番弟子
「あぁ、シェルン久しぶり」
私は審判がシェルンを追い出そうとするのを制止する
「ななゑさん!なんでこんな酷いことを…!?」
「かすり傷だって〜」
「最後の攻撃は本気で斬るつもりでしたよね!?」
シェルンが唐突に確信を突いてくる
「なんでそう思ったの?」
「ラウムさんに聞きました…!」
そう言うとシェルンの後ろに隠れていたカラスが顔を出す
「間違いねぇ!こいつ絶対斬るつもりだったぜ!俺の情報提供能力の力に偽りはねぇ!」
「そっか、それがシェルンの力か…良いなー…」
「どうだ!羨ましいだろーが!」
「うん」
ななゑは虚空を振るう
ズバァッ!!
「ガァッ…!!?」
斬撃は容赦無くシェルンの後ろに隠れていたラウムを引き裂いた
ラウムはそのまま地面に落下しフェードアウトするように消える
「ラウムさん!!?」
「へぇ、気絶しないって事はやっぱり、本体の剣陣を折らないとダメかー…」
「な、ななゑさん…?」
「警告よ、ホーロットから離れさないシェルン、でないとルール上ホーロットの負けになるわよ?」
「ホーロットさんはもう…!」
「下がってろシェルン…」
ホーロットは折れた剣をななゑに向ける
「負ける訳にはいかねぇんだ…だから…下がれシェルン」
「そんな身体じゃ無茶です!」
「シェルン、別に死にに行くわけじゃないからな…?」
「そうだとしても絶対に無茶するに決まってます!」
「わかった…じゃあ約束をしよう
俺は今からあいつの攻撃に一回でも当たったら負けを認める」
それを聞いたシェルンは何処か納得出来ないような顔をしたが、ホーロットの指示に従った
馬鹿なんですかね…?
私の剣陣 《虚空》は空間を無視して相手を斬れる
自分でも思う
私はまぎれもなく化け物だ
「そんな折れた剣で何が出来るって言うんです?」
「今から本気を出す俺からのハンデだ」
「おとなしく負けを認めてください」
「お前…………優しいな」
ホーロットの口調はいつの間にか柔らかくなっていた
「…………」
私は心を無心にし、剣陣虚空を縦に振るう
ホーロットはそれに対し目を閉じ
まるでどの位置から攻撃が来るか分かっていたみたいに最小限の動きで横にステップし攻撃を避けた
「っ!?」
まぐれだ、そう考えるしかなかった
続け様に虚空を振るう
目を閉じたままのホーロットは不可視の攻撃を避け続ける
「なんでッ…!?なんでよッ…!?」
「俺は信じる事にした」
「っ…!?」
攻撃を避け続けながらホーロットは話し始める
「例え言葉が俺を貫いたとしても」
「このッ…!」
避ける
「お前が俺をどれだけ斬ったとしても」
「くっそっ…!」
避ける
「お前の優しさは変わらないって」
「早く…!退場しなさいよッ!!馬鹿師匠!!」
私は目元に溜めた涙を振り払い
虚空を連続で振るう
「悪いが…これからの戦いを退場するわけにはいかない、罪滅ぼしが終わってねぇからな」
ホーロットは剣を逆手に持つ
「あの構え…」
シェルンがその構えを見たのは一度だけではなかった
(初めてホーロットさんと出会った時の……)
「そういえばこの技に名前は付けてなかったな…まぁ、付けるとしたら……
剣殺」
ななゑとホーロットの間は瞬く間に無くなり
ホーロットは逆手に持った折れた剣を流れるように振るう
直後、音も無くななゑの剣陣 《虚空》が砕けた
「そん…な……
私はただ……」
無茶して…欲しくなかっただけ…なのに……
試合終了後の合図が鳴り響き、会場は再び歓声に飲む込まれた
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《闘技場テレスクレア軍特別席》
「また一段と強くなったんだね…ホーロット…」
剣陣を持たない彼がギルド最強を倒した
もう彼の横に立ち一緒に肩を並べて戦う事は出来ないのだろう
私は強くなれなかった…
ティグスは自身の弱さを憎んだ…
彼だけだ、強くあろうとした者は。
毎日どれだけの鍛錬を積んだのだろう
どれだけ自身を犠牲にしたのだろう
「あの日の事件を解決出来るのはやっぱりホーロットなんだね…でも、ズルいよ……一人で強くなちゃってさ…」
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《闘技場ギルド特別席》
「ななゑが…負けた…!?」
ルプスは柄にもなく驚く
「あいつやりやがった!?」
「流石私のホーロット!」
タキリとセルフィが盛り上がる
そしてティグスは
「………………………お見事」
ただ一言、そう言って微笑んだ
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《剣術学校 教室》
クラスマッチから数日が経った
待っていたのはいつも通りの日常
何も変化することの無い日常
ただ一つ変化が有るとするなら…
「遠征?」
「そうだ、さっきタキリ先生に言われてな、クラスマッチで勝利したグループで行く事になった。場所は魔法国家フォレストン、名前の通り魔法が発達した国だ」
テイル君が分かりやすく説明してくれた。魔法が発達した国か…ちょっと楽しみかも…
「遠征つっても何しに行くんだよ?ただの遠足じゃねぇんだろ?」
グラン君の問いにテイル君が答える
「魔導騎士団からの討伐支援の協力要請らしい」
「魔導騎士団が手こずる程の相手なのに私達に何が出来るのですかな?」
「まぁ、純粋に欲しいのは人手だろう、それに最初から俺たちが主体じゃないしな」
「どういうことだ…?」
「正確には俺達はオマケで実際には先生の後ろに付いて行く感じらしい」
「先生っていうと、脳筋……」
「フラム、喧嘩なら買うぞ?」
「痛だだだだだだッ!!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
フラムの背後に偶然居たタキリ先生がフラムの後頭部を片手で持ち上げ、締め上げる
私知ってますよ、あいあんくろーって言うんですよねあれ、私も今度フラムに試してみよう
「ちなみに同行するのは俺じゃないからな」
タキリ先生がフラムを持ちながらそう言う
「死ぬッ!死ぬッ!」
「タキリ先生、じゃあ誰先生が行くんですか?」
「この前の魔物の件も有るからな、セルフィも行かないはずだ」メキメキ
「アカン!アカン音してる!」
「それじゃあ誰が?」
「多分、《ガーディアン》の誰かじゃねぇかな…」パキョッ
「パキョッって!?パキョッて聞こえましたよ!?」
「残りのガーディアンって言うと…おじいちゃんとルプスさんとななゑさん…」
「知ってると思うがななゑは出ないだろうな、あれから目が覚めてねぇし…」
「そうですよね…」
そう…ななゑさんはあのクラスマッチの日以来眠ったままだ、普通の召喚士なら二日ぐらいで目を覚ますはずなのだけど、ななゑさんはかれこれ一週間近く起きていない
「なんでこんなに長く眠りに…?」
「それだけ強力だったって事だ、まぁいずれ起きるだろ」
「そうですか…」
「で、なんだ…」
「どうしましたタキリ先生?」
「フラムが動かなくなった」
「そこらへんに置いといてください、勝手に起きるんで」
「扱いが人間とは思えないのは俺だけか?」
ルイン君が教室の入り口から入って来る
「ルイン君どこ行ってたの?」
「道案内だ、まぁとりあえずここが教室です」
ルイン君がそう言うと後ろから姿を見せたのは…
「久しぶり……」
ルプスさんだった
「あ!ルプスさんこんにちは!」
「こんにちは…ところでお友達が床で寝てるけど大丈夫……?」
「勝手に起きるんで大丈夫です」
(お嬢…絶対残飯置いて行かれたの根に持ってる……)
「そう…」
「ルプスさんは何で此処に?」
「私がフォレストンに行く事になったから、一緒に行くあなた達に挨拶をね…」
「そうなんですか!?」
「あんたが動くレベルなのか…」
テイルはどこか苦そうな顔をする
「大丈夫、目標は一つだけらしいから…」
「いつ出発なのだ……?」
人差し指で逆立ちをしているラギ君がルプスさんに聞く…っていうかそれはツッコミ待ちなの?
「急で悪いんだけど早くて今日までの到着を目処に……良い…?」
「まぁ、大丈夫でしょう」
テイルが皆の台詞を代弁してくれた
「わかった…もし良かったら今から準備してもらっても大丈夫…?できるだけ速く終わらせたいと思ってるから…」
「タキリ先生、後の授業全部タキリ先生の授業ですよね?」
「言いたい事は分かってる、行ってこい」
「じゃあ行くか」
テイル君とタキリ先生の短いやり取りが終わり、テイル君はいつものメンバーに声をかけて集める
「準備が出来次第出発、集合場所はギルド本部で良いな?」
「わかりました」
「うぃーす」
「了解……」
「おーけー」
「…………」
私達六人(※一人気絶中)は一旦解散しギルド本部で集合することになった
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《魔法国家フォレストン》
「おい!居たか!?」
「いや居ねぇ…!」
「ちっ…!どこ行きやがった…!?」
「絶対に見つけろ!そんなに遠くには行ってないはずだ!」
「言われなくても分かってる!」
魔導騎士団の2人はそうやり取りをした後、二手に分かれ走り始める
「……………」
木の陰に隠れていたそれは、魔導騎士団が居なくなったのを確認しその場を離れる
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《ギルド本部前》
私達は準備が終わりギルド本部の前に来ていた…のですが……
「なんですかこれ?」
目の前に有るのは謎の乗り物
「皆集まったみたいだね……」
ルプスさんがその乗り物の中からヒョコッと顔を出す。どう見ても小動物です
「ルプスさん…これは?」
「空飛ぶ箱」
「説明不足ですっ!?」
テイル君の綺麗に決まったツッコミに応える様にルプスさんが話し始める
「魔障石を大量に使用した『じぇっとき』って名前の乗り物らしいよ…かなり簡易に作られてるみたいだけどね…」
「本当に空が飛べると?」
「わかんない、だってまだ飛ばして無いみたいだし……」
「なんて危険なもんに乗せようとしてんだよ!?」
グラン君が後退りしながらルプスさんに反論
「じゃあ馬で行く……?」
「え?」
あまりにもアッサリ引き下がるルプスさんに驚く私達
「逆に聞きますけど、なんでそんな危険な乗り物に乗ろうと考えたんですか…?」
テイル君はメガネをかけ直しながらルプスさんに問う
「速いから…」
「猶予がまだ有る現状なら馬でも良いかと…」
「速く終わらせたいから…」
「??」
「ななゑをあまり一人にしたくない…」
「なるほど……」
「どうしても乗らないって言うなら私だけでも行く…まぁ、その場合私自身は走った方がじぇっときや馬よりは速いけど……」
どんだけ速いんですか…!?
「とりあえず、速く終わらせたい……理由はそれだけ…」
うーん…まぁ、しょうがないよね
私はじぇっときに乗り込む
「お嬢!?正気ですか!?」
「うーん…多分正気じゃ無いから皆は馬で行って!私はこれで一足先に行くから」
「はぁ…君という奴は……」
テイル君が大きく溜息を吐きながらじぇっときに乗り込む
「おいおい、俺は乗らないなんて言ってねぇよ?」
それに続いてルインが乗り込む
「ふ…この程度の試練…造作も無い…」
「お、お嬢がどうしても行くと言うなら俺も行くぜ!」
グラン君とラギ君も続いて乗り込む
「旅に危険は付き物ですぞ!」
そうフラムも……って
「あれ?」
「ん?」
「あぁ、フラム生きてたんですね」
「生きてるよッ!!?」
「それじゃあ出発準備を……」
「待って!まだ私乗ってないから!?」
フラムは急いで乗り込む
「そういえば聞いておきたかったんですけど、ルプスさんが操作をするんですか?」
突然で悪いけど、ルプスさんってなんかそういうの苦手そうに見える、人は見かけで判断しちゃダメってことは分かってるけど、どうしても和風の女の子が乗り物を乗りこなすイメージは湧かない
「シェルン!?私の下り流そうとしてませんッ!?」
「うるさいよフラム」
「理不尽ッ!?」
「ん?私は操作しないよ…?」
「え?じゃあ誰が…」
「わしじゃよ」
そう言って一人のおじさんが近づいてくる
っていうかあの人って……
「鍛冶屋のおじさん!?」
「久しぶりだな、あの日以来鍛冶屋で会って無かったから忘れられたかと思ったわ」
「え!?じゃあこの乗り物を作ったのって……」
「わしじゃ」
「鍛冶屋なのに…(ボソッ」
「趣味だから気にするんじゃない」
そう言って鍛冶屋のおじさんは操縦席に着く
「ところでおめぇらはそんな軽装で大丈夫なのか?」
「え?」
よく見るとおじさんの服はゴツく頭には防具らしき物を着けている
「急拵えでガラス付けれ無かったから風が……といってももう手遅れだが…」
おじさんは操縦席の前に有るスイッチをいくつか切り替え、最後にボタンを押す
コォォォォォォッ!!ゴゴゴゴゴッ!!
「へ?」
爆音が聞こえた直後、身体が宙に浮く感覚に囚われる
じぇっときは空を駆け抜ける
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』
何かに掴まらないと振り落とされる!?
ガタッ!
機体が何らかの衝撃ですこし揺れる
「あっ……」
その僅かな揺れはルイン君が機体から落ちるには十分過ぎた
「ルインーー!?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「そろそろ着くぞ!」
「速いよ!?」
ーーーーーーーーーーーー
《森》
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
バシャァァァァァァンッ!!
落ちた先は湖
「し、死ぬかと思った…」
湖から這い上がるとそこにはボロボロで汚れた白いワンピースを着た一人の少女が居た
「……!?」
少女は驚き、直ぐに近くの木の後ろに隠れる
「あ、悪い…驚かせちゃったな」
「……………」
少女は警戒するようにこちらを凝視する
「急で悪いんだけど、ここがどこか分かる?」
「………………」
少女はまだ木の後ろに隠れている
そりゃあそうだよな、明らかに今俺は怪しい人状態なんだし…
空から人が落ちてきたら警戒するに決まってる、俺だってそうする
「悪い、迷惑かけたな」
そう言って俺はその場を立ち去ろうとした時
「やっと見つけたぜ…!」
「もう逃がさねぇぞ!」
二人の男が少女を挟み撃ちの要領で囲む
「…ッ!!?」
あぁなるほど、追われてたから俺を警戒してたのかも
「おいそこのオッサン二人組」
「あぁ?なんだテメェ…」
「こっちは仕事中だ、邪魔すんな」
「女の子を囲む仕事なんて聞いた事ねーよ」
俺は腰にいつも準備している剣を…
ん?無い?
「あっ…」
さっき落下した時に落としちゃったっぽいな
「おぉ?やんのか?」
「丸腰でか?最高にバカだな」
二人組のオッサンはそれぞれ剣を抜く
あー…畜生…剣陣欲しいな…
俺は近くに落ちていた丁度良い大きさの木の棒を拾う
「……」
無い物を欲したって何も手に入らない、思い出せ…あのクラスマッチの日の英雄の動きを
「死んでも後悔するなよぉ!」
オッサンが縦に剣を振り下ろす
それをサイドステップで避ける
ここで動き過ぎてはいけない
俺は最小限のステップで避ける
「ちぃ!ちょこまか動くんじゃねぇ!」
オッサンは振り下ろされた剣で無理矢理俺の首を狙ってくる
その軌道は余りにもガバガバで避けるのは容易い
俺は体勢を一気に屈め攻撃を避け、足払いでオッサンを転ばせる
「うおっ!?」
オッサンの身体が宙に浮いた所で
俺は立ち上がり、そのままの勢いで木の棒を顔面に叩きつける
「んがぁっ!?」
一人目のオッサンを倒した所で俺はそのオッサンを蹴り払う
「テメェ…!本気にさせたな!」
もう一人のオッサンが背中に常備していた杖を取り出す
(杖の先端に魔障石!?)
俺は急いでその場を離れる
ゴォッ!!
直後、杖から出された炎が自分の居た場所を燃やす
「………」
あんまり出力は高くないんだな…テイルの剣陣イフリートの火力を見続けてたせいだろうけど
とりあえず俺はさっき倒したオッサンに近づき剣を奪う
「喰らいな!」
俺は持っていた木の棒を、杖を構えているオッサンに投げつける
「効かねぇよぉ!」
オッサンは杖の魔障石の力で投げられた木の棒を焼き払う
「じゃあ俺の攻撃も効かねぇのか?」
木の棒を投げたと同時に移動した俺は相手の頭に向かって剣の腹を横殴りで叩きつける
「んぐぁ!?」
オッサンはそのまま横に飛び気絶した
「ふぅ……」
全然、英雄に追いつける気がしねぇ……
「大丈夫か?」
「…………」
女の子はキョトンとしている
「最近はあんな変態が居るから気をつけろよ?じゃあな」
そう言って俺は歩き出す
(フォレストンまで送り届けても良かったんだけど、どうせ警戒して付いてこないだろうし…)
ガシッ
「ん?」
突然後ろから手首を掴まれる
「………………」
「……ど、どうした?」
「……………」
「出来れば話してくれると助かるんだけど…」
「…………」
(参ったな……何故黙りなんだ…?)
「えっと……」
「助けて………」
「え?」
「助けて………!」
声を振り絞るようにその少女は俺に訴えかける
「事情はわからねぇが………困ってる人はほっとけねぇな、それでどうすりゃ良いんだ?」
「私の知り合いが居る所まで送って欲しい………」
少女が指差した先は更に深い森の奥
「マジで?」
「うん……」
ーーーーーーーーーーーー
《魔法国家フォレストン》
フォレストンに到着した私は急いで駆け出す
「速くルイン君を助けないと!」
「ま、待つのですぞシェルン!」
森の中に入ろうとするとフラムが止めに入る
「止めないでください!」
「何処に脅威対象が居るかも分からないのに闇雲に行くなんて無謀ですぞ!?」
「くっ……」
「魔導騎士団の指揮官さん…何時頃捜索を開始する予定ですか……?」
ルプスさんが魔導騎士団の指揮官に問う
「先行隊は既に探索を開始していますが、主戦力隊は態勢が整い次第出発する予定です」
「遅い…私は先に行くね…」
ルプスさんはそう言って歩き出す
「し、しかし…!」
「私だけだと不安と…?(威圧」
「い、いえ!滅相もありません!」
「それじゃ皆行こっか……」
「「は、はい…」」
ルプスさんの威圧感パネェです
「わ、私も同行します!」
そう言って分隊長の一人が付いてくる
「あなたは以前の…」
ルプスはその男と面識があった
(確かななゑに術式板を教えた人…)
「魔物騒動の時以来ですね……」
「あの時はお世話になりっぱなしでしたから、今度は私が役立つ番です」
こうして私達はルイン君の捜索と脅威対象の捜索をするために森に入った…のだけど……
「ここら辺のはずなんですけど…」
着いた先は湖、ルイン君が落ちた直後に見た場所だ
「ん?あそこに誰か倒れてねぇか?」
グラン君が異変に気付きそう言う
それに反応し分隊長が倒れている人に近づく
「大丈夫か!?」
「う、うーん……」
「大丈夫…気絶してるだけ……この人達とはどういう関係?」
「私の部下です…先行隊に選んでました」
「ん…?分隊長…?」
気絶していた内の一人が目を覚ます
「大丈夫か!?」
「そんな大きな声出すなって…それよりも面倒くさいことになったぜ…」
「何があった…?」
「知らねえガキが目標を捉える邪魔をしやがったんだよ…」
「そのガキってのは…」
「おそらくルインであろうな……」
グラン君とラギ君は、そう考察する
「ちょっと待ってくれ、おかしくないか?」
会話を遮ったのはテイルだった
「そもそも何でルインは目標を庇ってるんだ?」
「多分容姿の所為だろう…」
テイルの疑問を分隊長さんが答えてくれた
「容姿?」
「私達が追っている目標は人の形をした魔物なんだ」
「初耳なんだけど…?」
ルプスさんが目を細め睨みつける
「すいません、こちらも混乱していたもので…」
「というかそもそもの成り行きを教えて欲しいのですけどねー…」
フラムが、そう分隊長に言う
「歩きながらで良ければ」
分隊長は倒れていた隊員に指示を出し、立ち上がる
「とりあえずどうやって追いかけます?」
「大丈夫…手は考えてある……
獲物を狩れ剣陣 《餓狼》」
ルプスさんは剣陣を召喚し手に掴む
ルプスさんは鼻をスンスンと動かし
「こっち……」
ルイン君の匂いを特定したルプスさんは歩き出す
「あ、そうだ……シェルンさん」
「え?何ですか?」
ルプスさんにいきなり呼ばれ私は少し驚いてしまった
「この魔導騎士団の二人を出来るだけ介抱してもらって良い……?二人の意識がハッキリしたら私達を追いかけて来て……木に目印をつけながら行くから多分わかるから…」
「あ、わかりました」
そう言ってルプスさん達は森に入って行った
ーーーーーーーーーーーー
《森》
俺と追われている女の子は森の奥を歩いていく
「そう言えばなんでお前追われてんだ?」
俺は横を歩いている女の子に問う
「買い物してたら突然襲われた……」
「ひっでぇなそれ…何も悪い事してねぇんだろ?」
「うん……」
「魔導騎士団にもダメな奴が居るんだなー」
「私の事魔物とか言ってた…」
「おいおい…魔導騎士団は目まで腐ってんのかよ、どう見ても普通の女の子じゃねぇか…」
「コトハ」
「え?」
「私の名前」
「あ、そう言えば自己紹介してなかったな、俺はルインだ」
「ルイン」
「なんだ?」
「何で私を助けてくれたの…?」
「人助けに理由が要るのか?」
「要らないの?」
「要らねぇだろ、それに困ってる人を見捨てれる程俺は非道じゃねぇよ」
「そっくり……」
「え?」
「私今から会う人に昔助けられたの……その時助けてもらった時に似てる…」
「へぇ…良い人なんだな」
「でも世間では嫌われてるみたい……」
「そうなのか?」
「うん…でもね……」
ドオォォォォンッ!!
突如爆発音が周囲を埋め尽くす
爆発元はルインの足元の手前
咄嗟の出来事に反応が遅れ、ルインは爆発に巻き込まれた
「ガハッ…!?」
「ルイン…!?」
「やっと見つけたぜ…」
茂みから現れたのは右手に剣、左手に杖を構えた魔導騎士団達だった
「おいおい…マジか…」
俺はなんとか立ち上がり剣を手に取る
「ひぃふぅみぃ………ざっと10人ぐらいか…?」
何でこんなにガチなんだよ…
「ルイン大丈夫…!?」
「コトハは俺の後ろに隠れてろ」
「で、でも…!私の所為で…!」
「気にすんなって」
俺はそう言ってコトハの前に立つ
そして容赦無く降り注がれるのは火の雨
(流石に死ぬかもな…)
剣を盾のように構える
避ければコトハに当たる
「コトハ先に言っとく」
「え?」
「俺は弱いぜ」
ドドドドドドドドォォォッ!!!
火の雨はルインに降り注ぎ皮膚を焼く
火の雨を一つずつ落とせって?
悪いが俺はまだそこまで強くねぇ、不可能とまでは言わないが少なくとも今の俺の練度じゃあ無理だ
ドォォォンッ!!
火の雨は降り止み、俺は剣を杖のようにして立っていた
「顔の半分焼かれたか…」
それだけで済んでいない事は知っていたが、俺はあまり考えないようにした。
「無事かコトハ?」
「ル、ルイン…顔が!?」
「元気そうだな」
もう走れないし、歩けない、もちろん戦える力すらない
剣を杖にして立つので精一杯だ
全身に激痛が走る
身体が休めと悲鳴をあげている
いつ間にか左腕が言うことを聞かない
俺は完全に息切れしていたが周りは火の海、酸素は余りにも不十分だった
「絶望的状況ってやつか…」
魔導騎士団は次の魔法を撃つ構えに入る
「まったく…ここが俺の死に場所ってか?」
「ルイン…」
「ん?」
「死んじゃダメです…」
「あぁ、死にたくねぇな…だけど俺が生き残る手段がねぇ…だがお前は守るぜ、俺が時間稼いでる間に逃げな」
「力が…力が欲しいですか…?」
歯切れが悪そうにコトハは俺に問う
「欲しいな…欲しい…周りの人を守る力が…」
純粋にそう思った
守りたい
「じゃあ、守ってください…この力で」
コトハは動かせなくなった俺の左手を握る
不思議と痛くは無かった
それどころか…
「これは…」
完治とまではいかないが、徐々に体力が回復していく
「さぁ、紡いで……あなたの言葉を…」
コトハがそう言った直後、脳内に直接声が響く
『紡げ…言葉を…その口で…告げろ…剣陣…』
「紡げ…言葉を…その口で…告げろ…剣陣…」
魔導騎士団達は詠唱を阻止しようと炎の魔法を放つ
『「《言刃》」』
魔導騎士団は目を疑う
炎の魔法は消し飛び
仲間の魔導騎士団の内の5人が倒れたからだ
「斬ッ…!」
ルインは言葉を吐き捨てる
ズバァッ!!
隊員の2人が斬撃の音と共に倒れる
「馬鹿な…!?」
隊員の一人がルインを目視で確認をする
彼は剣陣らしきものは持っていなかった
それどころか、彼は杖にしていたはずの剣も投げ捨てる
「刺ッ…!刺ッ…!」
ズシャッ!ズシャッ!
隊員の2人の腹部が貫通
「ば、化け…物!?」
「斬ッ…!撃ッ!!!」
ルインは言葉を紡ぎ叫ぶ
直後、最後の隊員は胸部から腹部にかけて斬撃を喰らい吹き飛んだ
「……………………終わった…?」
「あぁ……」
戦いが終わったのを確認し剣陣の力を抑える
そしてさっきまでの痛みは嘘のように無くなり俺は歩けるまで回復した。
あいつらがタフなのも剣陣のおかげなのかもな…
「ごめん…火傷の痕は治らないかも…」
「そんなことは良いんだ、それよりお前は何者なんだ…?」
「ごめん言えない…」
そりゃそうか、人にポンポン言える内容じゃないだろうしな
「わかった、じゃあこれ以上は聞かない」
「気にならないの…?」
「そりゃあ気にならないわけないだろ…だけど言えないならしょうがない」
「ありがとう…」
「そんなことより急ぐぞ、速くしないと追っ手が…」
「ルインッ!!」
聞きなれた声が自分を呼ぶ
振り向くとそこにはテイル達が居た
「ルイン……これは一体…!?」
「おまっ!?顔に火傷が!?」
驚きの声を出しているのはラギとグラン
「助けに来てくれたのか…?悪いんだけど、まだ用事が済んでないからそれを終わらせてから……」
「ルインッ!そいつが危険対象だ!」
テイルが指差した先に居たのは俺の後ろに居たコトハだった
「…………………」
薄々そんな気はした
この子の謎の力の事
魔導騎士団が躍起になって追っていた事
筋は通る
だけど……
「こんな子が危険対象?笑わせんなよ」
数時間しか一緒じゃなかったけど、こいつは人に危害を加えるような奴じゃない
俺はそう思った
「ルインッ!お前…!?」
「なんで庇うのかって?そりゃそうだろ?この子が理不尽過ぎるだろうが、こいつが何したってんだよ?」
「ルイン!それは魔導騎士団の人達が言うには魔物らしいのです!」
「魔物?おいおかしいだろうが…何で無抵抗なこいつを魔導騎士団は魔法や剣を駆使して殺そうとしてんだよ」
「それは…!」
「俺にはお前らの方が魔物に見えんだよッ!」
「もういい……」
そう言って前に出てきたのはルプス
「長引くのは良くない…セルフィには悪いけど……斬らせてもらう……」
ルプスは剣陣を鞘に入れ居合いの構えを取る
「ガーディアンってのは人を守るのが仕事じゃねぇのかよ!」
「守るよ……?守るのは魔物じゃなくて人限定だけどね…」
「このッ…分からず屋ッ…!」
ルインは急いで剣陣を召喚しようとするがあまりにも遅過ぎた。いや、相手が悪過ぎた
ルプスはルインの目の前にまで接近し剣陣を振り抜く
「ちょっと待ってくれないかな?」
「!?」
悪寒
ルプスは危険を感じバックステップで距離を取る
それでもなお頭の中に鳴り響く危険信号は止まなかった
「大丈夫かいコトハ?」
「あっ!」
コトハは自分の後ろに立っていたフードを深く被った人に飛びつく
「どこ行ってたんですか…?」
「幻のキノコが有ったから取ろうとしたら時間かかったんだよ」
「嘘っぽいですね……」
「本当だってー!、ところでコトハを助けてくれたのは君かい?」
「あ…はい…俺ですけど……」
「礼を言うよ、ありがとう」
フードを深く被った人はそう言って一礼
フードを深く被っているせいで顔が見えない…口調からしておそらく男だろうが…それぐらいしかわからない…
「あの…あなたは一体…?」
「それは後でね、今はこの状況を切り抜けようか!」
ルプスはフードの男を睨みつける
「あなた……【レジスタンス】?」
「え?なにそれ?」
表情は読み取れないが男は本当に知らないようだった
「邪魔をするなら斬る……」
「あはは、ビックリして下がっちゃったのに強気だね〜」
「皆下がってて……」
ルプスはそう指示し剣陣を再び鞘に収め、居合いの構えを取る
「へぇ、面白い構えだね」
「その減らず口を斬り落としてあげる…」
そう言った直後ルプスは抜刀
瞬間
ルプスの斬撃は右手首を持たれた事により止められる
「なっ…!?」
「ほうほう…なるほど、鞘を後ろに引いて刀を速く抜き身の状態にしてから高速で相手を斬り落とす技かー、いやぁ勉強になるなー」
「そんな…!?」
初手で全ての行動を読まれた…!?
「この中だと君が一番強いのかな?」
「答える義理は無い……!」
「そりゃそうだ」
男はルプスを木に向かって投げ飛ばした
あまりの衝撃に受身を取れず背中から派手に木にぶつかる
「くッ…!?」
「はい」
間髪入れずにルプスの右肩には男によって投げられた剣が突き刺さる
ズシャッ!!
「う゛あぁッ……!?」
「剣なんてそこら辺に転がってるからねー…ちょっと借りたよ」
「ルプスさん!大丈夫ですか!?」
テイルが指示し皆が戦闘態勢に入る
「ダメッ…!逃げて…!」
ルプスの声は弱々しく、皆には伝わって無いようだった
「行くぞ!
全てを灰にしろ!剣陣」
「時を共に歩め!剣陣 《クロノス》!」
「鉄の意志よ集え!剣陣 《鉄塊》!!」
「その身は脱兎の如く…舞え《兎神》ッ!」
「おぉ、召喚師ばっかり、じゃあ俺も…」
男は何もない空間に手を添える
「死を司る者よ…魂を我が手に…剣陣」
男は召喚した剣陣を取る
「それ…はッ……!?」
「ソウルインパクト」
男はそう言った直後
テイル、フラム、グラン、ラギ、分隊長
同時に全員が衝撃波によって吹き飛ぶ
更にフードが舞い上がり、男は顔を晒す
「アルド…ゲート……!?」
指名手配に描かれていた顔と瓜二つ
何でこんなところに…!?
ルプスは自分の肩に刺さった剣を引き抜く
激痛が伴ったが構ってられなかった
「そんな無理矢理動いたら死んじゃうよ?」
「大犯罪者を逃がすほど私はバカじゃない……」
「そう」
ルプスは駆け、アルドとの距離を詰める
アルドは剣も構えず立っていた
ーーーーーーーーーーーー
《森》
「結構時間かかっちゃったなー…」
私は魔導騎士団の人達の介抱が終わった後、急いでルプスさん達の後を追った
「ん……?なんか焦げたような匂いが…」
匂いがする方向に行くとそこには皆が倒れていた
「み、みんな!?」
「シェルン……」
声を振り絞っていたのはルプスさんだった
「ルプスさん!?」
「逃げて……」
そう言ってルプスさんは気を失った
「一体誰がこんな事を…!?」
「あれ…?シェルン?」
男が話しかけてきた、声からしてルインではない
でもどこか聞き覚えのある声だった
不意に昔の一部分の記憶がフラッシュバックする
『君には剣陣を扱える適性が有る』
『剣陣を呼ぶ時はね…』
『その力は君を守ってくれる筈だ…』
「アルドさん……?」
「久しぶりだねシェルン」
アルド・ゲート
昔私に剣陣の力が有ると教えてくれた張本人だった
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#7《対立》
作者「時間かかり過ぎワロタ」
シケット「歯ぁ喰いしばってニャ♪」
作者「あっ……(察し」