ピーターという男
ファンデルはせめて死んだ者達の供養をしようと思い土葬した。火の魔力がない今、火葬は無理だった。
「…今思えば母さんは俺の為に精一杯頑張って世話をしていたんだよな。」
ファンデルは死んだ母であるワハキアのことを思い出していた。ワハキアは決して悪人ではなかった。むしろ善人と言っても良いくらいだ。
ただ…世界の流れに流されてしまった。それ故に最初はファンデルは毛嫌いしていたがワハキアは自分の道具などとは思わずにきちんと子供として面倒を見てくれた。欲しいものがあればくれたし、教えて欲しいことがあればきちんと答えてくれた。この世界ではまともに親らしいことをしていたのだ。ファイアネス教絡みがなければ完璧な母親だった。
「…と、もういくか。」
ファンデルは安らかに眠るように祈りを込めて、ようやく神殿を立ち去った。
~城下町~
ファンデルは何事も無く城下町に着いた。
「(結構でかい町だな…)」
ファンデルは周りを見ながら、目的地に移動する。
その目的地とは…ファンデルの父ピーター11世の住む城である。ファンデルはピーターに一応報告しておけば良いと判断したからだ。そしてその城の中に入ろうと門を通り抜けようと努力するが…
「おい、嬢ちゃん。」
城にいざ行こうとした時、ファンデルは門番に止められた。しかも性別を間違われてだ…というのも彼の容姿に原因がある。ファンデルの容姿はくりくりとした目に、可愛らしい顔付きと華奢な体。そして緑色ではあるが腰まである髪…所謂ファンデルは男の娘だった。
「ここは嬢ちゃんの通る場所じゃねえ。ここから先はピーター様の城だ。今日はピーター様の息子が来る日だから帰った帰った。」
門番がそう言って仁王立ちしてファンデルの行く先を止めた。
「その息子が僕です。」
そう言ってファンデルは自分のことを指差す。
「ははっ…笑わせんな。ピーター様の息子がこんな緑色の髪をしている訳ねーだろ。それにな、神殿からの紹介状はあるのか?」
「紹介状?」
「そうだ。紹介状がないと例えお前が本当にピーター様の子供だとしても会わせることは出来ない。そんな自己管理も出来ない奴が後をついでもどうしようもないからな。」
「ではどうすれば…紹介状を手に入れられますか?」
「神殿には行ったんだろ?なら神官から貰えたはずだ…ところがお前は持っていない。つまりお前はピーター様の息子を語る偽者なんだよ!」
ドガッ!
門番がファンデルを突き飛ばし、ファンデルは転んだ。
「何をするんですか!?」
「黙れ!俺は前の門番から交代して昼も夜も寝もせず一ヶ月間連続で働いているんだ!一瞬でも寝ようとすれば水をぶっかけられて起こされる。更に幻聴、幻覚までも見えて来やがった…少しは俺の気持ちも考えやがれ!」
「…間違いなく僕には出来ませんね。と言うかよく壊れないで済みましたね。」
ファンデルはあまりの門番の不遇さに同情し、慰めた。
「この故障しない身体が恨めしい…はぁ…いくら犯罪者とは言えこんな労働時間の多さ…他の国に行って訴えても勝ち目があるぞ。」
そう言って目が死に、影が濃くなった。
「それはお前の自業自得だろうが…」
するとファンデルの後ろから声がかかった。その声の持ち主を見てみると…身長185cmあたりの痩せマッチョのイケメンだった。
「なんでここにいるんですか!?ピーター様!?」
その人物こそ、ファンデルの父ピーター11世だった。
「いや~参った参った…門番君聞いてくれよ。兄貴がもううっさくてコッソリダンジョンに行っていたんだが…こんなものが出てきたんだぜ。重いったらありゃしねえ…」
そう言ってピーターは門番に何かが入った袋を渡す。
「なっ…なんですか!?これ!?めっちゃ重たいけど…」
門番はそれを受け取るが寝不足と袋の重さに少しヨレてしまう。
「金塊だ。門番君にやるよ。」
意外と知られていないが金塊は鉄塊よりも重い。その為門番は袋を受け止めた際にヨレたのだ。
「えええっ!?良いんですか!?」
門番は発狂するほど大声を出して、驚く。この門番は刑務所の囚人である。なぜ囚人がいるのかと言うとこの国では囚人は刑務所労働という名の一定期間の労働制度がある。囚人は決められた仕事で働くことによって金を稼ぎ、それを刑務所に提出することによって、刑務所に滞在する期間が短くなる…というものだ。更に詳しく解説をすると長くなるので省略させてもらう。
「その代わりちょっとそこの子供とお話ししたいから通しても問題ないよな?」
これが賄賂の例である。一般に賄賂と言えば八百長や身分に見合わない出世などをする為にするものだがこういう例もある。
「ピーター様がそう仰るのであれば全く問題ありません!」
門番はビシッ!!と背筋を伸ばしてそういった…門番はファンデルを通したことを問題にあげられたときてもピーターのせいにすればいいし、ピーターも公認しているので問題はない。
「それじゃ行くか。少年!」
ピーターはそれを見て、ファンデルに声をかけた。
「あ…はいっ!」
ファンデルは少し反応は遅れたがピーターに返事をして、城の中へと入っていった。
~城内~
城内に入る前にピーターとファンデルは互いに自己紹介をして雑談をしていた。その中にワハキアが死んでしまったこと、冒険者として暮らして生きたいことなどを述べた。
そして城内に入り…ファンデルは頭を下げた。
「城内へのお招き感謝しております…ピーター様。」
ファンデルはピーターに礼をして感謝の言葉をあげる。
「よせよ。俺がしたくてしたことだ。」
ピーターはそれを止め、ファンデルに頭を上げさせる。
「わかりました。」
ファンデルは頭を上げてピーターと目を合わせた。
「それにしてもファンデル…お前の母…ワハキアによく似ているな。」
「母とどのような点が似ていますか?」
「ほぼ全て。そのガッチガチの堅物ぶりと顔が特に似ている…あんまりにも堅いんで治そうとしてもほとんど妥協をしない。結局出来たけどあいつの堅物ぶりを治すのにかなり骨折れたぜ。」
「そんなに堅物だったんですか?」
「誰がセクハラしても『そんなことをしていないで仕事してください。』と嫌がりもせずに真顔で言うんだぜ?『訴えますよ?』とか痴漢扱いするのが普通だろ?」
「母がそんなに堅物とは知りませんでした…」
「そう言えば僕の他に貴方の血を持つ人っているんですか?」
「ん?いるぞ。だけど何の因果か知らないが…お前の腹違いの兄弟姉妹は女だ。」
「ええっ!?ってことは…」
「その代わり冒険者としても魔法使いとしても優秀な奴がいるから当てにしてみろ。少し待ってろ、紹介状を書いてやる…」
「(ピーターって一体何歳なんだ…?)」
ファンデルがそう思うのは無理ない。ピーターはみたところ20代前半くらいに見えたからだ。優秀な冒険者というイメージは18歳以上のイメージがある為矛盾していると思ったからだ。
「ほら出来た。これを持って冒険者ギルドに行ってこい。それと餞別だ。受け取れ。」
ファンデルは紹介状と大きな袋を受け取った。
「これは…?」
「この袋は通称【無限袋】…この袋の特徴は無限に所持品を入れることができる。取り出し方はその取り出したいと思うものをイメージするんだ。この中に紹介状を入れて出してみろ。」
「はい。まず紹介状を入れてと…」
ファンデルは紹介状を袋の中に入れ、手を袋から出した。
「そして出す!」
ファンデルは再び手を入れて紹介状をイメージした。すると手に紹介状が握られていた。
「…凄い!」
「で、そいつの所持品全てを出したい場合はその袋を逆さにして振ると入れてきたものから順に出てくるからな。これも所有者…ファンデルお前自身しか出来ないから安心しろ。」
「更に必要な時にこいつは腰にぶら下がっているからなくすことはないし、盗まれたとしてもお前以外は袋の中に手を入れることは出来ない。これ手に入れるのに結構苦労したんだぜ…これで借り一つだ。覚えとけよ?」
「ありがとうございます!」
「でだ…その中にはお前の必需品が入っている。例えば衣服や金を始めとしたその他諸々だ。これで借り二つだ。覚えとけよ?」
「はい。わざわざありがとうございます。でもなんでそんな準備が良いんですか?」
「お前の母ワハキアだよ。あいつはキャラ崩壊したかのように親馬鹿全開の手紙を送ってな…俺はそのおかげでこの日にお前が来るって分かっていたんだ。お前は俺にとって初めての息子だ。だから歓迎しようと考えたんだよ。今まで娘しかいなかったしな。お前も見たくれは少女だけどな。」
「放っといてください!」
「はっはっはっ!何にせよ冒険者ギルドに行ってこい。期待しているぞ、ファンデル!」
ピーターは大笑いすると真顔になり、ファンデルを応援した。
「は…はいっ!」
期待されているとわかるとファンデルは緊張し、返事がどもってしまったが大きな声で返事をした。
「では行ってきます!父さん!」
ファンデルは明るく元気にそう言って城を出た。
「古き火は新しき風に吹かれつつやがて燃え尽き風の時代来る…ファンデル…お前が冒険者として俺と一緒に任務をやれる日を待っているぞ。」
ピーターはそう言って書類仕事へと入って行った。
はい…という訳でわかったことはファンデルが男の娘、ピーターがイケメンというわかりやすいテンプレでしたね。ファンデルの髪が長いのはまだまだ秘密です。