7 夢うつつ
前回の端っこなので、短めです。
『お前、俺より弱いくせに嚙み付いてくるんじゃねえ!』
『はっ!あんたみたいなバ火力と比べないでくれる!?僕は暗殺向きなんだから、そんなの当たり前じゃん!そんな事もわからないの!?』
『あぁん!?』
はい。こちら瑞稀。まだ口論は続いております。
二人が熱く語り合っていて、あと二人が傍観してるようだね。
なかなか熱いやり取りをやってるなー。だけど、なかなか終わらないや。どうしよう。飽きてきたよ。
思い切って声をかけてみようかー。でもなー。
あの熱い男同士の話に割って入る勇気ないなぁ・・・。あ。
横に二人いるじゃん。そっちに聞いてみよう。そうすれば割り込む必要もないし!
そうしよう!少し話しかけにくいけど、こういう時女は度胸だ!!
行くぞっ!!
「あの~・・・。」
気合に反して、私から出た声は掠れて覇気のない小さな声だった。
だけど、私は失念していたのだ。そう。ここはとても音が反響すると!!
ザッ!!
と、音が出そうなほどの勢いで四対の瞳がこちらに向けられる。
さっきまでの騒ぎが嘘のように静かに私の言葉を待っているので、つい言葉に詰まってしまった。
と、とととと、とりあえず、一番気になっていた質問をしよう。
「えーーーっと・・・ここってどこですか?」
『ここはマスターの心の中。・・・簡単に言うと夢の中だ』
低い落ち着いた声が答えてくれた。
そう・・・。マスターの・・・ん?マスター??
「あの、マスターってなんですか?もしかして私のことですか?」
『・・・ん、マスターはマスターだ。』
わお、要領を得ない答え!!
『もーう。ご主人分かってないよ!説明省きすぎ!僕が説明してあげるね!ここはね、夢だよ。でもね、ほとんど実際に起きていることなんだよ!でもやっぱり、何も事象として起こっていないから夢なんだけど!』
ボーイソプラノの声が明るく言った。
私が分からなかったのは、マスターの件だけどね。でも、ありがたいよ。
んん??つまり、ここは夢で、だけど現実で、でもやっぱり夢で??
どういうことだってばよ。
頭の上にハテナマークがたくさん出ていることがわかったのだろう、一番最初に話しかけてきた声が言う。
『お前、主を混乱させるようなこと言うな。まあ、今起こっていることは基本夢だと思ってくれていい。目が覚めれば、内容もほとんど覚えていないだろうしな。』
「これは夢なんですか。」
『ああ。夢だ。』
なるほど。私夢見ているんだなぁ。・・・変な夢だ。瞳しかない男の人たちしかでないなんて、かなり疲れてるんだな~。
疲れてこんな夢みるとは、私の頭は大丈夫でしょうか。主に精神的な意味で。
少し考え事していたら、話しかけられた。
『あぁ、そうだ。少しよろしいですか?』
柔らかい男性の声が言う。
「はい?」
『おそらく主様が目を覚ましたら、今のことはボンヤリとしか覚えていないでしょう。ですが、一つだけ、私のお願い事を覚えていてほしいのです。そして、そのお願い事を実行していただきたい。』
「お願い事?」
『はい。お願いごとです。図々しいのは分かっていますが、聞いて頂けませんか。』
なーんか、口調が恭しいというか、柔らかいというか、そのせいで背中がむず痒いというか、照れるというか・・・。
「ぅ・・私が出来る範囲なら。」
『ありがとうございます。』
笑ったのが声の調子からなんとなく分かった。
『それで、私のお願いごとはですね。あなたに描かれた絵に一つずつ名前をつけてほしいのです。』
私はお願い事の内容に少し目を見張る。
え?名前?言い方からして、もっと難しいお願い事を想像していたんだけど・・・。
「そんなことでいいんですか?」
『そんなこと・・・。いえ、私たちにとってはとても重要なことなのです。ぜひ、今すぐ、早く、早急に、名前をつけてほしいのです。』
なんか、とても急かされている気がするんですが。気分的な問題?かな?
まぁ名前つけるだけだし、いっか。そんな大変なことじゃないし。
「分かりました。名前、考えさせてもらいますね。」
軽い気持ちでそう言ったら
『やった!カッコイイ名前つけてね!!』
『俺に似合う名前でよろしくな。』
『・・・名前を付けてくれるなら、なんでもいい。』
『ぜひ、よく考えてつけてくださいね。』
皆からそういわれた。
絵に名前付けるだけでどーしてこんなに応援されろのだろうか・・。
目は口ほどに物を言うってよく聞くけど、あれ本当だね。すごい期待しているよ、みたいな見えない何かを四対の瞳が放ってくるよー。うぅ。これぞまさしく、プレッシャーだね。
「・・・期待しないで下さいね?」
なるべくハードルを下げよう。自信ないからさ。
って、あれ。そーいえば四人の名前聞いてなかったなぁ。今更そのことに気付く。
「あの。」
名前なんていうんですか。
そう聞こうとしたら、どこかで何かがくっついたような、カチッという音がなった。
なに?
つい周りをキョロキョロしてしまう。真っ暗で何も見えないんだけどね!
『おや、もう時間ですか。』
「え。」
『じゃあ、もう朝だね!』
「えと。」
『ちゃんと名前つけてくれよ!』
「あの。」
『・・・早く起きるといい。』
「ちょ。」
私に声をかけると、闇の中に浮かんでいた瞳たちは目を閉じるように闇にまぎれてきえてしまった。
・・・人の話しっかり聞けやーい!無視しすぎだー!
わざとなの!?ねぇ、わざとなの!?もしかして、新手のイヂメ!?凹んじゃうよ!?
思いっきり腕を振り回す。でも、手には何も当たらない。
さっきまで瞳があっただろう場所に、つい目線をむけてしまう。
・・・また闇の中に、一人。
「なんだったんだろ・・・。」
そう呟いたとき、私は自然と目を閉じた。
瑞稀は夢を見ているのでいろいろおかしいです。
例えるなら、家にいたのに突然海に居ても全然疑問に思わないのと同じ感じです。
そう、夢だからおかしいんです。決して作者の文章力が下がった訳ではない、と思いたいです。
補足
主人公の呼び方
・イケボ―――――――――――――― 主
・ハスキーボイス――――――― マスター
・ボーイソプラノ――――――― ご主人
・柔らかい美声――――――――― 主様
皆さんこの声の主たちが何か、もう分かりますよねw
うんw