別視点~村の男~ 最期の想い
数字が…、漢文が…、私を襲ってくる…。
ピタゴラっとけば、サイン、コサイン、ココサイン!!
昔の偉い人は言いました。
『日本は天の川の棚ぼた』!!
※実際のテスト勉強の風景です。
補足
竜種
陸上最強と言われている。育った環境により、自分の属性を持つ。姿はそれぞれ個体により相違はあるが 、大体が大きな翼がある、トカゲの様な外見。鱗はとても強固で、武器の刃も通らない。また、高い知能を持っていて学習すれば人語もしゃべれる。攻撃方は、自分の属性のブレスを吐き出す、または魔法を仕掛けてくる。個体数は多くないが、一体一体が驚くべき力を内包しており、一体で小さい国を滅ぼすことも可能。
龍種
竜種の次に強いと言われている。だが、竜種の次と言っても属性の相性が合えば、竜種を負かすことも不可能ではない。また、龍種の姿は総じて蛇のような長細い姿をしている。竜種と同じく高い知能、高い攻撃力、高い防御力を持っているが、竜種より気性は穏やか。
~湖より南にある小さな村にて~
ドンドンドンドン!!
「んあ?なんだ?」
朝、ドアの激しいノック音で目を覚ます。ったくよぉ、誰だぁ?俺が寝てる時に起こして来る奴は。
薄眼で窓を見る。てか、まだ空明るくすらなってねえじゃねえか。
ドンドンドンドン!!
『起きてくれよ!”血狂いの水龍”が死んでいたのが見つかったって!!』
あぁん?血狂いの水龍が死んだのか。そーか。よかったな。うん。だから起こすな。
俺は布団を頭から被る。
ドンドンドン!!
『おい!!水龍が死んだんだよ!!起きろよ!』
あー。だから水龍が死んだんだろー。
ドンドン!!
『あーもうっ!皆湖にいるから、早く来いよ!!』
その言葉を最後に激しいノック音と人の気配はなくなった。俺は目をしっかり閉じ、枕の位置を調節してまた寝る準備に入る。
ふー。まったく、朝早くからなんだよ。誰か分からんが、寝坊もしていない俺を起こすなってーの。もう少し寝させろよ・・。たかが血狂いの水龍が死んだだけで・・・。そう、血狂いの水龍が死んだだけで・・・。
夢の世界へ落ちる手前で一気に意識が覚醒した。
「血狂いの水龍が死んだって!?」
寝床から飛び起きる。
こりゃ、寝てる暇なんてねぇ!!早く行かねえと!!俺は急いで上着を掴んで家から飛び出した。
「おーい!水龍が死んだってのはほんとうか!?」
俺の少し先を走っていた男に抜きざまに聞いた。
「本当らしいぞ!気になるなら早く行け!!」
「おう!!」
俺は短く返事して、さらにスピードを上げた。
今はもうほとんど使われていなかった小道を走る。最近は使っていなかったから、久しぶりな感じがするぜ。木がすごい速さで後ろに流れていく。
村から湖まで結構距離があるが、体力にものを言わせて走り抜けた。
っと、お!?あれは村長の爺さんじゃねえか!しかも、村の者たちもいっぱいいやがる。
「おーい!爺さん!!」
爺さんは俺の声に反応して、こちらに振り返った。
「あぁ、なんだ、お主か。今日も大分遅い起床じゃのう。まぁ、いつもの起床と比べるとかなり早いがの。」
そうやって爺さんは溜息をついた。
おいおい。俺だって好きで遅起きな訳じゃないんだぜ?ひどくないか?真面目に凹むぞ。こら。だが、その話は今度またじっくりするとして。
俺は朝聞いたことを爺さんに質問する。
「水龍が死んだってのは、まじか?」
爺さんは俺をちらりと見ると、すぐ湖の方向に目を向けた。
「そんなに気になるなら、直接見てみるがいい。今のお主は、たとえ『本当に死んだ』と聞いても信じるまい。百聞は一見にしかず、じゃろ。ほら、あそこじゃよ。」
そう言って、爺さんは人だかりに指をさした。俺は火に吸い寄せられる虫のように、その人だかりに向かって歩き出す。
「今宵は宴じゃの。」
背後で爺さんの呟きが聞こえた。
群衆を分けて入って、俺は目に飛び込んできた光景に目を丸くする。
結論から言うと、確かに水龍は死んでいた。その巨体を水に浮かべてピクリとも動かない。
だが、その死に様が壮絶だった。全身が黒く焦げ、ひれやえらは炭化している。切り傷は体中にあり、その傷のひとつひとつが深々と水龍の体を抉っていた。
「どうやったら、こんな死に方になるんだ・・・。」
俺は小さい声で独りごちる。だが、隣の若い男は俺の独り言を耳ざとく聞いたらしい。俺に話しかけてきた。
「本当だよな。陸上生物最強の竜種には負けるけど、その次に強い龍種の水龍なのにな。しかも狂暴状態だったのに。そんな水龍をこんな姿にしちまうなんて・・・。聖法国の宮殿魔術師でも、そう易々とできないぜ。」
俺は心の中で、へー、と相槌をうつ。
若い男に今度は若い娘が話しかけた。
「でも、あんなに荒々しかった水龍と戦って無傷なはずないよね?戦ってくれた人、大丈夫かな・・・?」
「大丈夫なんじゃないか?血が飛び散ってるとかないし、死体もないから。多分去っていったんだよ。」
二人の会話に40代ぐらいの男が加わる。
「でもよぉ・・・。友達の仇を討ってくれて嬉しいんだが、本人がいなきゃお礼がいえねぇなぁ・・・。」
「そうですね・・・。俺の所も、水龍のせいで川が氾濫して家、流されちまいましたから。その原因を倒してくれた御仁に、お礼をしたいですね・・・。」
「本当、水龍には困ってたよね・・・。倒してくれた人、どこに行っちゃたんだろう。」
「あっ、でも・・・」
会話は周りの人も巻き込み、さらに広がっていく。
俺は会話に参加せず、水龍を見たまま動かなかった。
俺はゆっくり目を閉じる。
――――――お前はとうとう世界の理に帰れたんだな・・・。
ずっと苦しかっただろう。ずっと喉が渇いてただろう。
これから先、お前はもう苦しくなることはない。目を、覚ますこともない。
ただ、その時が訪れるまで水の中を漂うだけ。
おやすみ。
安らかに眠れ。
*************
水龍の亡骸はゆっくりと湖に沈んで行く。
闇が水龍を優しく抱きしめるかのように、静かに包む。
――――ありがとう。迷惑かけてごめんね。これからは、ずっと大人しくしてる。
ありがとう。最期の止めをさしてくれた凄い魔力持ちの黒い女の子。これでゆっくり、休めるよ。
みんな、おやすみ。元気でね――――――――
最後の水泡が上に向かって昇っていった。
補足
血狂いの水龍
昔、湖に住んでいた水龍がいた。そこに湖の水を分けて欲しいと村の人々がやって来た。水龍は快く湖の水を分けた。湖の水を飲んだ村の人々は、たちまち元気になり、病気も治り、とても健康になった。その話を聞いた、心汚ない盗賊が湖にめをつけた。だが、水龍がいては湖の水を盗れない。そう考えた盗賊は、水龍の隙をついて殺してしまおう、と考えた。しかし、どうやったら水龍の隙を作れるだろうか。その時、水龍は一人の娘と心交わしていた。なら、その娘を人質にしてしまえばいい。そして盗賊はそれを実行に移した。水龍は突然襲われ、村にいた娘を人質にされてしまった。盗賊は動かない水龍に気をよくし、娘を目の前で晒し者にしてやろう、と考え娘に無体を働いた。それを見た水龍は怒り狂い、盗賊を皆殺しにしてしまった。湖は盗賊の血に染まり、その色を澄んだ透明から真っ赤な色に変えてしまったという。娘は水龍の攻撃の余波で死んでしまった。その湖に住んでいた水龍の瞳は、深い知性と慈愛を宿した綺麗な群青から、猛り狂うどす黒い血の赤に変化してしまった。それ以来、水龍は血の穢れと、娘を殺してしまった哀しみから狂ってしまった。
私は思う。どうか、かの水龍を救ってやってはくれまいか。以前の水龍は娘に恋心を寄せる心優しい龍だったと聞く。ずっと理性なくしたまま生き、望まぬ争いをするなど、きっと本望ではないだろう。私は、水龍が哀しみから早く解放されることを切に願う。
禁書:世界目録 著:リヒター・リュッセンドルフ