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5 ダメダメなサバイバル

自分の思考に溺れていたからなのか、私の腕が気付いたらほとんど水に浸かっていた。

自分の動きに合わせて水がチャポンと波紋を広げる。水面の波紋にによって私の腕に描かれた絵たちがゆらゆら踊った。それをボーッと眺めて、ふと思った。

この絵って確か水性だよね。

そうだよ。これ水性だよ。森の中歩いてる途中で木にこすったり、汗でびしょびしょになっても全然落ちてなかったけど、水性だよ。と言うことは、ここで洗い流せる?

ボディーペイントをこすろうとして少し踏みとどまる。春香が一生懸命描いてくれたやつだよ。そんなに簡単に落としちゃってもいいの?

うーん。でも体にずっとあると害がありそうだし、また歩き出す(明日ね。)のを考えるとお肌とか衛生上よろしくない。けど落とすか落とさないか、なんて真剣に悩んでもたぶん夢オチだし大丈夫だよね。


水中で漂っていた左腕で、右腕をこする。

ごしごしごしごしごしごしごし・・・・。

あれ?落ちないんですけど。水性って言ったのは嘘なんですか。

最初は指で優しくこすっていたのに、今は少し爪をたてて強くこすっている状況。

かなり強くこすっているのにペイントは今だ健在で、色が滲んだりなど全くしていない。むしろ指の圧力に腕の肌の方が負け始めて、赤くなってきている。

なんで落ちないんだ!このやろーーー!

水面がバシャバシャと音を立てる。水飛沫が乗り出している上半身に容赦なくかかるが、気にせず擦り続ける。

それでも、先に肌の方が負けた。

水面から腕を出す。ヒリヒリと少し痛んだが、あまり気にせず周りを見回して気付く。

「ありゃ。」

いつの間にか、夜なっていたらしい。

仄かな月光が周囲を優しく照らしている。

未だ健在なペイントに目を向けた。水滴によりそれぞれのペイントの目がキラリと光る。

「はぁー。このペイント、落ちないなぁ・・・。」

上半身を起こし、空にのけぞる形で胡坐をかく。

「ふー。水は確保したし、とりあえずどこか大きな木の上で寝るかねー。」

うん。サバイバル項目で一番重要な水の入手はクリアした。あとは火を起こすなりしないといけないけど、まぁ明日でもいいよね。

って、これ夢なのに私真面目に生き残ろうとしてるよ。ふふ。面白いわ―。


胡坐をかいたまま空を仰ぐ。そこには大きな月と、その周りに2つ小さな月が浮いていた。

「え。」

ちょ、ちょいまち!ガバッと音がしそうな勢いで立ち上がる。

ちゃんと、もう一度しっかり見てみる。月が・・・3つある。うん。見間違いとかじゃない。

「うわーー。」

月が3つとか、何それファンタジー。さすが夢だ。なんでもありな非日常を見せてくれる。これが夢の醍醐味なんだけども。

「すごいなー。月って地球の衛星だけど、あの2つは月の衛星かな?まーロマンは凄いあるんだけどね。」

驚きで立ち上がっていたので、もう一度座りなおす。空をずっと眺めていたいけど、だんだん首がいたくなってきたので、首を真正面にむけた。

今は風が無くて、湖は凪いだ状態になっている。月の光を鏡のように反射させていた。

綺麗で幻想的な夢だ。いいね。こういうの。嫌いじゃない。むしろ好き。


あ、そういえば腕は洗ったけど顔は洗ってないや。汗まみれなんだから洗わなきゃ。

湖の近くに寄り、落ちないように再度へっぴり腰になりながら覗き込む。

すると水面が月の光を受け鏡のようになり、自分の姿を映しだした。

「・・・え?」

そこに映った姿はいつも見慣れている平凡顔ではなく、波打ってゆらゆら揺れる顔でさえ美しいと言えるような顔に見えた。

もう一度しっかり確認しようとした時『ボコッ』と気泡の音がした。私は湖に目を向ける。

湖の真ん中にある小さな島と私とのちょうど真ん中ら辺に、たしかに気泡が生まれていた。

気泡の量はだんだんと多くなっていく。

ボコ・・・ボコ・・ボコボコ・・ボコボコボコボコ!!

「なに?」

疑問を口にしたすぐ直後、水面が盛り上がった。

バッシャーーーン!!

すごい大量な水飛沫の中、《それ》は顔を出した。


「・・・へ?」

びっくりしすぎて後ろに倒れる。

水を滴らせる青い鱗。濃い青色の鋭い背びれ。背びれと同色のえら。蛇を思わせる顔と体。二股に分かれた細長い舌。血走ったような赤い目。額の真ん中にある赤い石。そして大きな巨体。

うわ・・・。これは、もしかして・・・。

「・・・ネッシー?」

仮称ネッシーはこっちを向くとゆっくり口を開いた。ねっとりとした涎がしたたり、とてもご立派な白い牙が光に照らされその全貌を見せる。

「シャーーーー!!」

そう声を上げると、仮称ネッシーは一気に私に襲い掛かってきた。

やばい。喰われる。本能的に分かっているのに、足は全く動かない。

それでも腕を前に出した。目は自然と固くつむる。

やだ!死にたくない!その一心で。



その光景を普通の第三者が見たら逃げ出すかもしれない。

瑞稀の前に出した腕から、もっと正確に言うと腕に描かれた絵から出た、炎・風・雷・氷が仮称ネッシーを逆に襲った。それらはまるで瑞稀を守るかのように動く。

仮称ネッシーはまるで為す術も無く暴力の嵐に呑まれ、その身を焼く。

「ギャーーーーー!!」

そして一瞬で自分の命を散らし、湖に水柱を立て倒れた。



「え?」

今、バチバリゴー!ドガッシャーン!!みたいな音がしたらと思って目を開けたら、さっきのネッシーが湖に倒れた瞬間だった。

倒れた衝撃で水飛沫が散り、波が押し寄せる。座っていたので、制服のスカートはビシャビシャになってしまった。

さっきのネッシーって私を食べようとしていたよね?なのになんで、吹っ飛ばされてるの。分からない。分からないけど、怖かった。すぐ目の前まで来ていた濃厚な死の気配に、肩が震える。

だ めだ。ここを早く離れないと、さっきみたいな奴がまた襲ってくるかもしれない。

腰が抜けかかって、生まれたての子鹿みたいに震える。震える脚を叱咤し、立ち上がる。

早くここを離れないと。

その思いだけが身体中を支配する。2、3歩ゆっくり歩いて、足に力が入った瞬間に全力で走った。

短距離も苦手な筈なのに、思った以上にスピードが出た。湖から離れないと。

一瞬だけ振り返ったけど既にかなり遠くに来ていたらしく、湖は見えなかった。



**********


がさり。

「すごい・・・。」

草むらから姿を現した人は、感心したような、惚れ惚れしているような男の低い声で呟く。

その人物は黒いローブを身に纏い、目元までフードを被っている。そのため顔は口元までしか確認できないが、どこか喜んでいるようだった。

「水龍の、しかも狂暴状態の水龍を力で押し返して尚且つ一瞬で、か・・・。そんなこと、そうそう只の人間にはできない。」

ローブの人物は、口角を上げる。

「あの娘・・・面白いな。」

そう言うと急に風が吹き荒れた。木の枝に付いていた葉っぱが風に浚われて宙を舞う。

数秒すると風は何もなかったかのように止んだ。

ローブの人物が立っていただろう場所には誰も立っていない。

まるで元々そこには誰も居なかったかのように。

木の葉が湖の水面に静かに落ちて波紋を広げた。

夜の闇は更に深くなる。


今回長いような気がしたんですが・・・。

大丈夫ですかね?


また今週の日曜に更新予定です。

こ、今度こそ間に合わせるぞ・・・っ!

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