4 違和感
うーん。
なかなか難しいです。
「えっ・・・。えっと、森で遭難?川の土手から?というか、どこの森?木、ものすごく茂ってるじゃん。えと、えと、とりあえず・・・遭難??」
ただ言葉の羅列を口にする。
だ、駄目だ。混乱する。えっえと、とりあえずさっき起きたことをまとめてみよう。
学校帰り→穴に落ちた→森にいる。←いまここ。
はぁ!?意味分かんなーいやーい!!
私は頭をかかえた。
うーん・・・もう記憶喪失?夢遊病??って、それ両方ダメな感じじゃーん!!頭に問題がある系じゃん!
ハッ!!そうだ!これは夢だ!!それなら理解できる!!
どこから夢なのか分からないけど、きっとテレビ見たままソファーで寝てしまったんだよ。うん。早く夢覚めないかな。
私は地面を握りしめる。
土と葉っぱの感触があまりにもリアルに伝わってきて、何故か無性に泣きたくなった。
「まあじっとしているのもつまんないし、散策がてらに水を探してみよう。」
夢だと思ってたら本当に現実で、気づいたら餓死とか嫌だし心を入れ替えよう。
ぐじぐじ思考に沈んでも何も変わらないしね!!
私は空を見上げる。太陽の高さから午後一時くらいだとみた。穴に落ちた時は午後7時くらいだったから、大分時間が経っていたようだ。
気候は少し暑いくらい。初夏って感じかな。森だから真夏でもこんなに涼しいのかな。
うん。良い感じに情報が集まってますよ。
太陽があっちにあるってことは、今向いているのは南。周りは木で囲まれていて、お昼の割に少し薄暗い。場所は特定出来ないなぁ。
目標は、本当に遭難なら水と食料の確保。
近くに国道とかあるならそこを辿って、町に行って、電話借りて親に連絡しないと。これだね。
よし。目標ができたなら、さっさと行動をおこしますか!
私は決意を固め歩き出した。
あっでもどっちに行こう・・・。
それじゃ、勘で南にいくか。
*** ***
ただただ足を進めた。もう何時間たったんだろう。腕で汗を拭う。
かれこれ五時間は歩いている気がする。
太陽はすでに傾いており、暗くなりだしていた。
「喉乾いたなぁ・・・。」
歩けど歩けど森ばかり。永遠に続いているとさえ思える。
けど不思議と体力にはまだ余裕があった。まだまだ歩ける。
しかし、これもおかしいんだ。
私は自慢ではないが、体育では3を取るような運動音痴なのだ。
筆記と提出物で救われていたが、実技だけなら1を取る自信がある。
そんな自信に満ち溢れた私が五時間もでっこぼっこした道を歩けるなんて天地がひっくりかえってもありえないんだ。
・・・ありえないんだけどね~。
ひょいと木の根を跨ぐ。
歩けてるんだよね~。
本当におかしいんだよー?ホント。
とりあえず水を早く確保しないと。どこかに小川とかないかなー。湧水でも可。とにかく水。
あたりを見渡しても水らしきものはない。
くっそー。まだ歩くしかないのかッ!
よいしょ。千里の道も一歩から。よいしょ。・・・すでに何歩も歩いてるんだけどね・・・。
体内時間的にまた30分は歩いたような気がする。ここ、木が高いし多いしで、ほとんど真っ暗。
こうゆう時、人間の祖先が夜行性動物だったっていうのを思い知らされるね。
暗いのにはっきり見えるんだもの。祖先様々だねーー。あなた方のおかげで私は今生きれてますよ。
そうやって上機嫌で歩いていた。今のところ喉の渇き以外、困ったことも無いし鼻歌でもやっちゃうぞ!
「フンフーン フフンフーン フンフーン フーン フンフーン フフンフンフンフン ♪」
あの某魔法学校のテーマソングをチョイスする。
ここの森の雰囲気に合ってると思うんだー。この陰湿な感じがねー。いいと思うよー。
「おぉ!?」
あ、あそこ、キラキラしてない!?水が反射してるみたいな!!
私は200mぐらいの向こうに拓けた場所を見つけたのだ。
そこには確かに風に合わせてさざ波をたてているように見える!
ひゃっはーー!水だーーー!!
テンションがおかしな方向に上がり、つい本気で走り出す。
足は今までずっと歩いていたのに、そんなことを感じさせない動きで動いた。
自分の普段とは違う体力の多さと、足の速さに驚いたけど、今はとても都合がいい。私はそのまま残りの距離を走り抜けた。
拓けたばしょにあったのは大きな湖だった。うわー。でかい。
僅かな夕日の光を反射して水面はキラキラ光ってる。
そして湖の真ん中らへんに島があり、大きな木が一本生えていた。その木も風に揺られ、水面の光が反射しまるで光っている様に見える。
とても幻想的な光景だった。
しばし見とれていたら急に喉の渇きを感じ、半ば無理やり現実に帰ってきた。
そうだ。こんな綺麗な光景に見とれている余裕なんて私にはなかったんだ。いつまでも見ていたいけど、喉を潤してからでもいいよね。
私は急いで湖の淵に近づく。地面に膝をついて、湖の底を覗き込んだ。
「うわーお。・・・うわーお。」
意味が大してない言葉が口から零れ出す。だってねぇ?
湖の水は驚くほど透明で、底まで見える・・・筈なんだけど。
その底がない。光が届いてないんだ。その答えはつまり、あり得ないほど深いってことだ。
淵からいきなり底までストーン!なんて、日本の湖では見なかったからとても珍しい。
手が滑って落ちたら金槌の人じゃ溺れて死んじゃうだろうな。はは。
その想像をして身を震わす。
・・・あれ、私って泳げたっけ?・・・答えは”ノー”だよ。
私の自分に対しての質問に、私の中の記憶がそう返す。
そう。何度も言うが、私は運動音痴なのである。そんな私が泳げるはずもなく。
小学生の頃。体育の授業中プールの時溺れたことがある。
体がズブズブ水中に沈んで行って。腕や足を動かしても水をかくばかりで。息をしたくても、肺に入ってくるのは体が必要としている酸素な訳がなくて。
薄れていった意識の中ぼんやり『死ぬのかな・・・。』と思った。
目を開けて周りを見たらベッドの上だった。
それを何回かやったらさすがに危険っていうことが先生たちにも分かったらしくて、ずっと私専用の先生がついていてくれた。
・・・そう。泳げない。泳げないんだ。
その何もかも飲み込んでいくような真っ暗な底を見て、体が自然と強張った。
「落ちたら、死ぬ。」
うん。落ちたら確実死ぬ。なら落ちなければいい。
淵からなるべく身を乗り出さないようにして、腕を伸ばす。
そして水を掬って口に含んだ。
「ふぅーーー。うまい。」
体中に水が浸透していくようだ。生き返る―。
でもまだまだ足りない。5時間近く歩いたんだ。体はもっと水を必要としている。
なのでニ、三度水を飲んだ。なんかこの水、本当に美味しいなぁ。体が漲る感じ。
・・・もう一杯。
もう少し水を飲もうと腕を伸ばしたら、春香が描いてくれたボディーペイントが目に入った。
描いてくれてから数時間しか経っていないのに、すごく懐かしい気がする。
森をずっと歩いていたからかな。
それとも、何故か行き成り知らない場所に一人来て、少し弱気になってたからかな。
目が無意識に細まる。
あぁーー。春香の明るい声が聞きたい。
この今の状況は多分夢だと思う。明日、目が覚めたら春香に話してやろう。きっと面白い反応をしてくれるに違いない。楽しみだ。
物思いに耽っている間も太陽は少しずつ沈んでいき、月が顔を出そうとしていた。
・海原 瑞稀≪わたはらみずき≫
高校2年の17歳。黒髪、こげ茶の瞳の平凡顔の子。
本人は心の中でいろいろ思っているが、やや無口・やや無表情。
成績は学年の上位に入るくらいの成績。
変化より日常を、非凡より平凡を愛すが退屈はあまり好きではない。
・白木 春香≪しろきはるか≫
瑞稀と同級の同じクラス。
瑞稀の親友で、瑞稀と正反対(明るい・表情豊か)な性格。
将来ロゴマーク等のデザイナーを目指しているため、センスが高い。
あの時瑞稀にペインティングした理由は「瑞稀を私色にしたい!」と言う
アホな動機から。