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13 想像と実際の違い

・・・。

あえて何も言いません(泣)

私は何かが動いた方を見た。

薄暗くて見えにくいけど、目をよく凝らして注視する。

よくよく見るとそれは何かを包んだ大きな麻袋だった。

袋の口からは見たこのある小さな足が覗いている。

見間違えることはない。あの足は。


「ふむん、ふん! (ヘレンちゃん!)」


あぁ、口の中の布すっごく邪魔くさいなぁ!

ついでに体を縛ってる紐もうざい!

モゾモゾと芋虫の様に体を折り曲げして大きな麻袋に近づく。

なんかこの姿勢で進むのすごい遅い。やばい。

小さい頃芋虫に「進むのおっそいなー。ちょんちょん。」とかやって芋虫が焦っているところを観察していたことがあるけど、あの時の芋虫さんはすっごい必死だったんだね!

芋虫さんに土下座するべきじゃなかろうか。いや、芋虫”さん”とか頭が高いね。

様呼びにするべきかな。

ってこんなこと考えている間にやっとヘレンちゃんのところに着いたよ。

麻袋は人を入れるのには小さいサイズだった。

ヘレンちゃんだから辛うじて入れているって感じだ。

「ふむんふん!ふんふんふん!? (ヘレンちゃん!大丈夫!?)」

私が声?をかけても、ヘレンちゃんはピクリとも動かない。

何か気分が悪いのかな!?

その考えを思いついて、もしそうなら早く袋から出してあげないともっと辛くなっちゃう!

急いで袋から出してあげようとして、手や足などが使えないことに意識が向いた。

あぁ、歯がゆい!

すぐ出してあげたいのに出せないなんて!

だけど、こんなことで諦める瑞稀ではありません!


どうか芋虫様!!

この力が無くて何もできない私に、あなた様の身体の捻りテクニックをお与えください!


その時、私に芋虫様が微笑んでくれたような気がした!

むん!と体に力を入れると、足で袋の端を持って体を捻る!

捻って捻って捻りまくると、あら不思議、ヘレンちゃんを無事救出できたではないか!

あ、体捻って袋のやつだせるの?とかいう質問は無しで。過程などどうでもよいのだよ。

ふふふ、さすが芋虫様。お礼はあとでさせていただきますね。

今はヘレンちゃん!


「ふーふ?ふふん・・・っ!? (へーき?へれん・・・!?)」

私はヘレンちゃんを見て息を飲んだ。

ヘレンちゃんは全身を変な模様が描かれた白い布でぐるぐる巻きにされており、目もその変な布で巻かれて目隠しされていた。

口には私と同じく、布が噛まされていた。

私よりもがっちりと頑丈な拘束は、幼い子どもにするには少し、いやかなり過剰に思える。

唯一見える肌は、顔の目隠しと口の布の間と顎のあたりまでしかない。見える範囲の肌の血色はヘレンちゃんが元気だった時と比べると、一目でわかるほど白くなっている。

自分の頬をヘレンちゃんの頬に当てて簡易的に体温を測ったら、とても子供の体温とは思えないほど冷たかった。

私の背中に冷たい汗が流れた。

目に見えるほどヘレンちゃんが衰弱しているのが分かって、もしかしたら失うかもしれない、という冷たい何かが足元から這い上がってくるような悪寒がした。



人攫い、を甘く見ていた訳じゃない。

現代でも誘拐とか、殺人事件とか凶悪なものも少なからずあった。

そういう”ニュース”を見るたびに「あーこっわ!自分に起こったら本当に死んじゃうよ!気を付けないと―」って思っていた。

そして自分なりに、『もし万が一そんなことが起きた時のために』と相手への対応や脱出方法を考えてもいた。

でも結局それは、全部第三者の視点だった。

当事者と第三者との視点は全く違う。

実際に起きれば、恐怖心で足が竦む。殴られて痛みと振動で意識が飛ぶ。気付いたら縄で体を縛られて身動きが全く取れない。

そして、失うかもしれないという、怖さ。

全く違った。全然違った!

つまるところ、私はまだ第三者視点に居たんだ!

それがようやく、自分の、当事者っていう視点にやっとなった。

今私達がとっても大きな危機に面しているっていうのもやっと理解した。

理解とともにやってくる恐怖、そして絶望に近い思い。


ゆっくりとヘレンちゃんをみる。

おそらく異世界で始めて出会った少女。

時間的にはそれほど一緒に居たわけではないけれど、どこか知らないところに一人放り出された私の孤独を和らげてくれた。

小さくて暖かい、とても大切な存在。

この子がいたから、私は取り乱したり、自暴自棄にならなかったのだと思う。

少ない時間に対して、大きな想い。


・・・死なせたくない。失いたくない。

だけど、どうしたらいい?

今の私には、何も、何も、できない。

どうすることもできない。

自分が、ふがいないっ!


「ふっ・・・。」


目から零れた雫が静かに私の顔を濡らして行った。



*** ***



「へっへっへっへ。お頭今回の獲物は上玉っすねぇ~。こりゃあ一か月好きに飲み食いしても、金に余裕ができるくらいじゃないっすか~?」

そういってニヤリと極悪な感じに俺の部下が笑う。

おめぇ、気持ち悪いにやけ顔晒してんじゃねーぞ。

ま、俺も部下の気持ちは分からねえでもないし、俺も顎髭を撫でながらニヤリと笑い返す。

「そりゃあなー、愚問ってもんよ。一人の女は人族でとても見栄えがいい。あんなキレーな顔してんのはそうそういねぇな。これは貴族にでも売れば、大金に変わるね。それにもう一人の少女。まさかこいつが魔族って分かったときには、俺ぁ心の中で狂喜乱舞したぜ。つーか今もしてる。」

あーそれは俺も思いましたわ、と部下たちが同意する。

だろぉ?

やっぱりお前たちは根っこからの人攫いだな。


売るとき、奴隷として一番人気が高いのが魔族だ。

理由はその馬鹿でかい魔力を利用して雑多なことをさせるためと、容姿が良いからだ。

魔族ってぇのは何故だか美形が多い。

そのことを題材にどっかの研究機関が色々研究してるらしいが、詳しくは俺はしらねぇ。

知りたいとも思わないしな。

そんなこんなで欲しいって言う輩が多い魔族だが、いかんせん奴らは強すぎる。

まあ、人間が簡単に捕まえられるような奴らじゃない。


だが、今回。

俺たちは無傷に魔族と人族の女を二人、捕まえられたわけだ。

これは良く考えなくても、とても素晴らしい結果だ。大勝利と言っていい。

俺は自然緩くなる顔を感覚的に感じる。

ぐふふふ・・・。これでしばらくは好きに暮らせるぜ。

これだから止められないんだよなぁ・・・人狩り。


「お頭ぁ、そろそろ飯ですぜ。どーしやす?」

あぁもうそんな時間か。確かに周りがもう暗い。

「人族の女を連れてこい。魔族は放置だ。」

「わかりやした。」

部下の消えていく背中を見て、俺は女二人を売りさばいたあとにどうするかと思いをはせる。




ふふふふふ・・・・。

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