プロローグ
突如、轟音が響き渡った。
「第四十防衛ライン突破されました!」
「まだだ!まだ六層法術障壁が残っている!」
「だ、第三層までの中和、消滅を確認!」
「なっ……バカな!クソッ、なんだって高位術士の不在時に……!」
絶え間なく続く破壊の音の中で、ローブを着た男たちはパニックに陥っていた。
「もう後がない、ここで食い止める!絶対に奴を外に出すな!遠声法で部隊を集めろ!」
「了解、『残った全部隊に告ぐ!現在目標は最北門に出現!緊急通路より至急来られたし!』」
すると空間がグニャリと曲がり、その崩れた景色の中から男たちと同じローブを着た男が数人、姿を現した。と同時に、大きな爆発音と共に壁が崩れ、巻き起こった煙の中に一つの影が揺れている。
「来たぞ、撃てい!」
「火法、漠熱炎球!!」
「風法、風刃斬波!!」
「雷法、降電!!」
それぞれから、指向性のエネルギー波が一斉にその影に向かって放たれる。しかし。
「ちいっ……」
「対法術防御か……!」
放たれた攻撃は、影の周りを囲むように現れた、微弱に輝きを放つ半透明な膜にことごとく弾かれてしまった。先程の攻撃により煙は完全に晴れ、影の容貌が男たちにハッキリとさらされた。表れた影の正体は、男たちを驚愕させる。
「……!まだ、ほんの少女じゃないか!」
「お、おい、嘘だろ……!」
少女はボロボロのローブ一枚だけを身にまとい、虚ろな目は男たちを捉えてはおらず、一定の歩幅でゆっくりと、左右に揺れながら歩いている。風を受けて舞う、肩まで届く髪は、夜の闇と溶け合う漆黒の色。
「何なんだ、こいつ……」
「対法術防御を張れ!奴の口元が見えんのか!!」
「!!」
少女の口は呟くように、とめどなく動き言葉を紡ぐ。状況的に判断されるのはただ一つ。呪文の詠唱である。
「対法術防御展開完了!」
「全員衝撃に備えろ!反撃の用意も怠るな!奴が法術を撃ち終わったら即刻、一斉に攻撃しろ!」
「――――魔法、極圏爆烈」
瞬間、男たちの頭上で閃光が走った。対法術防御は、風に吹かれた手のひらの上の砂のように脆く吹き飛び、巨大な爆音が空を翔けめぐる。男たちの後方の強固を誇る門は、見事なまで粉々に砕け散っている。
「がっ……魔……法……」
もしこの少女がさっきの攻撃を男たちに向けて放っていたならば、全員塵と化していたことは砕け散った背後の頑強な門が物語っていた。しかし幸運にも少女は、男たちが立ち塞がっていた頑強そうな門へと攻撃の矛先を向けていた。
余波によって再起不能となった男たちを、まるで最初から意に介していなかったように素通りする少女。半開きの虚ろな目をちらりとも動かさず、虚空を見つめ続けている。そのまま振り帰ることもせず外へと、フラフラと、ゆっくりと消えていった。