新米管理者宇宙担当は初仕事に成功したつもりでした。
文章力の低さに注意
木が生い茂る森の中、行くあてもなく彷徨っている青年が一人。
「ここ本当にどこなんだよぉ。俺が何をしたというんだよ…… ああ、水が飲みたい。お水様は何処におられますか?王さまぁー頼むから、いないからって給金減らさないでくださいよぉ。俺だって訳がわからないんですから!!」
そしてその青年をこっそり遥か遠くから見守る少女も一人。
(もう少し右!!もう少し右に軌道を修正して!! あと100m先に泉があるから!!)
少女は隠れてぶつぶつと独り言を呟いていた。その目はカッと見開かれている。
(どうしよう。衰弱死させるわけにもいかないし。そんなことしてしまったら、彼の世界の管理者になんて言われるか…… 彼がトリップしてしまったことは分かっているはずなのに、なんで迎えにこないの!? 初仕事を誰のサポートも受けないでこなせという今は亡き先代の試練なの!? ええ、きっとそうなんだよ。消えてから初めて試練を与えるなんてさすが先代。やっぱり私の予想通り腹黒だったのね!!)
少女は一人で頷いたり怒ったりしている。その様子は彼女を見ている者がいたら引いていただろうか。そして一人納得した様子を見せた少女は叫んだ。
「いいじゃないの、初仕事ぐらい一人でやってやる!!先代の馬鹿!!」
我々、人間が今住んでいる世界は具体的に名前がつけられたことはない。何故かというと、その世界の住人にとって住んでいる世界が唯一の世界であるからだ。つまり、世界は一つしかないのだから名前をつけて判別する必要性がないからだ。では、本当に世界は一つなのか。答えは否だ。世界は一つだと一体誰が決めたのか。ただ、普通は自分が存在している以外の世界を認識できないだけだ。そして世界が、自分が住んでいる世界一つではないだろうと気づいた人々はそれ以外の世界のことをこう呼ぶ。『異世界』と。
しかし元来世界は一つであった。虚無から世界という、空間というものが発生するというとてつもない奇跡がそう何度も起こるわけではないからだ。今ある様々な世界は始めて発生した世界から分裂していってできた世界がほとんどである。世界は元を辿れば一つであったから、すべての世界に関連がある。そして、関連があることによって何が起こるか。
そう、それがトリップだ。
そしてトリップによって起こる異世界の存在の干渉などのトラブルを解決する者たちがいる。それが各世界にいる『世界管理者』という特殊な存在だ。一人で百面相をしている少女、霜川 藍はそんな世界管理者であり、そして宇宙担当であった。
ええと、最初は何をしたらいいんだっけ?話かけたらいけないんだよね。あ、まずは彼の世界はどこか突き止めなきゃ。そして、向こうの管理者に会って彼を召喚してもらえれば初仕事終了!!後は弟とショッピングモールにデートだ!!こんな初仕事さっさと終わらせてみせるんだから。
またしても独り言をつぶやく藍は蒼い光に包まれるとその姿を消した。
「え、大量トリップ?忙しいのですか?」
藍は愕然としている。そして向かう男性は申し訳なさそうにいう。
「そうなんだよね、皆あっちやこっちやバラバラにトリップしてしまって。世界衝突でも起きたのかなぁ。本当、忙しすぎて過労死しちゃう。猫の手でも借りたい気分なんだよ。君、今他の仕事抱えている?」
「いいえ、これが初仕事なのですよ。しかも誰も助けてくれなくって」
暗に迎えに来いよという念を含めて睨んでみる。
「おお、初仕事か。おめでとう!! これから神にこき使われる同族に歓迎の言葉を。ようこそ、世界をまたにかける仕事へ。僕の初仕事は自世界の民が犯罪者の巣窟にトリップしてあっという間に追いはぎされて丸裸にされてんだよ。それに比べれば幾分かましだろう。」
ちなみに幼女だったんだよねーと男性は笑う。幼女か……トラウマになりそうだな。ちゃんといい子に成長できたのだろうか。男性は藍に告げる。
「初仕事なんだろう?一人でやってみた方が経験になるよ。しかも暇なんでしょう。僕は生憎ととても忙しいんだ。管理者隠匿の法則に従うのも面倒なほどにね。」
「え、あれ破ってもいいんですか?」
藍は手っ取り早い解決方法に飛びつきそうになる。それだったら話は早い。あの青年に、あなたを元の世界に帰しますねと言って送り帰すだけでいいのだから。
「いい訳ないだろう。そいつが僕の世界で管理者の存在を言いふらしたらどうしてくれるの。僕が言いたいのは、後で記憶を消せばいいだろうって話だよ。僕の世界には生憎と魔法は無い。で、君の世界にも魔法的なものは無いんだろう?だったら民衆をコントロールして召喚させてなんてことはできない訳だ。しかも民衆コントロールとか目茶苦茶面倒だしね。」
じゃあ、後は頑張ってと爽やかな笑みを藍に向けて男は去っていった。
一方、一人薄暗い空間に取り残された藍はというと。
「あいつ、先代とは違って隠そうともしない腹黒なんだね。やっぱり管理者って皆腹黒なのかなぁ…… 」
この仕事をやっていけるだろうか、と将来を案じていた。
藍は具体的な方法を思いつかないまま、地球に戻ってきた。彼の人柄を見たら何か思いつくかも知れないと考えたのだ。このとき藍は、経験が少ないが故に起こすよくある行動ミスに気がついた。
「あれ、もしかして彼を足止めするか安全なところに誘導するか、なにかしらしなきゃいけなかったか……ッ!!」
『xxxllllleeee!! ●▼□※!! adsogisifosio〒Σlafuhya:;of!!』
「……これって何語だと思いますか、先輩?」
「さぁ、どっかの国の外国人だとは思うが」
「当たり前じゃないですか!! 外国人じゃなければ何人ですか。宇宙人なんですか」
「ありえるかも知れんぞ」
「はぁ、英語も通じないとなるとねー完全お手上げですよ」
『xlxlxlxxlxllxlxlxlxlx? halut! kojojiahgi:ai:@::a::::::::▼☆!!』
そう、会話から察することはできないと思うが異世界人の青年は交番に連行されていた。
「住宅街のど真ん中にいたのだから、知り合いは近くにいるんじゃないですかねぇ」
「そうだといいが…… まあ、こんな立派な西洋剣持ってたら犯罪組織の可能性もあるだろう」
彼の両脇に2人の警察官がいて彼の処遇について話し合っていた。実は森の中と思われたあの場所は比較的住宅街に近い雑木林のようなものであったのだ。彼はふらふら進んでいたら街中に出てしまったというわけだ。そして自分の世界との文化の違いに驚き、喚き散らして剣を振り回していたところを住民に通報されたという寸法である。銃刀法違反の不審者を逮捕したにしては警察官2人の対応は実にのんびりしているが、一応これでも真面目に取り調べをしていた。
その様子を遠くから見ている藍は強く下唇を噛んだ。どうやって見ているかはもちろん管理者特権で、そのような能力を藍が持っているからだ。
「これじゃあ、彼に近づけない。どうにかして2人っきりにならなくちゃ」
もちろん藍は彼を誘惑しようとしてそんなことを言っているのでは無い事を弁解しなければならない。ああ、誰もそんな勘違いはしないか。
「っ!! 血がでた……っ!!」
ことを起こそうと企んでいる藍の唇は血に染まっていた。
といってもワープ能力を持っている藍は彼の取り調べが終わるのを待ち彼が一人きりになった時に傍に現れたら良かっただけだった。
「意外にあっけない……」
「お、お前は誰だ!? 魔女か? どこから現れたっ!? あっお前かぁ!?俺をこんな目に遭わせたのは」
青年はベンチしか無い空間からいきなり現れた少女に不信感をたっぷりのせた声で尋ねる。まあ、当たり前である。藍は青年の正面に立って一方的に説明をし始めた。
「始めまして、フェルーナニーウ゛さん。私はこの世界の管理を担当する霜川藍という者です。突然のことで相当驚いていると思われますが、あなたは今まで住んでいた世界からトリップつまりこの世界に飛ばされてしまったにです。けれども私がきたからにはもう大丈夫。私があなたを元の世界に返して差し上げます!! ただしあなたがこの世界に来たという記憶は削除させてもらいます。なぜか言うと……
「「ちょっと待った!! どうして俺の名前を知っているんだ? さっぱりわけがわからないぞ。君は何を言っているんだい? 頭がいかれているのか?確かにアホ面をしているとはいえ…… はっ さっきの怪しい2人組みにしろここには話しが通じない野蛮人しか住んでいないのか?」
あいは じぶんのげんどうを はんせいした!!
(さすがにいきなり話しすぎたのですかね。世界がたくさんあるのに生まれたときから慣れきっている私からすると、一般人目線で説明するのが難し過ぎる。……これも経験の差かッ!! おのれ先代。仕事を見学させてくれてもよかったのに。お陰で勝手が分からない。)
藍は心の中でハンカチを噛み締める想像をしながらそう思った。
(まあ、すぐ記憶消すんだし一応納得させなくてもいいか)
そう考えた藍はきっと他の人と変わらず腹黒だろう。
藍は青年に向き直ると0円スマイルを浮かべてにこやかに端的に言った。
「早い話、あなたを元の場所に戻します。少し、おとなしくしていただけますか。」
青年の足元が光始める。その光は複雑な模様を描いていて、何の模様なのか青年には理解できそうにない。
「な、なんだこれはっ 帰してくれるというのは嬉しいが、いったい俺に何をするつもりだ!!」
必死の形相でこちらをにらんでいる青年に藍は目をむけた。
「あなたを元の場所に転送するための魔法みたいなものを構成しているんです。記憶を削除する構成も入っているんで安心してください。すぐ、すべて忘れてしまいますから。」
もはや藍はただの悪役である。慌てふためく青年を横目に世界記述語で座標指定の作業に入っていく。
そのとき
「え? 女の子? どこから入ったの?」
警察官が様子を見に来てしまった。
(しまったぁぁぁあああああっ タイムリミットか!!)
「私はこの人の知り合いです。迎えにきました。さようなら!!」
藍は青年の腕をつかむと手早く転移の術を使った。
「えっ?あっ?ちょっとなにすんだよ!!」
「え、消えた……? ちょっと先輩、せんぱーい!!緊急事態ですよ!!」
藍は最初に青年を見た雑木林に転移したはいいが、青年にそれを説明していなかったためにちょっと面倒なことになっていた。
「お前は魔女か!?」
「だから世界を管理する担当者だと……まあ魔女みたいなものですが」
青年は決して藍を魔女裁判にかけたいのではない。
「ではお前がさっき使ったのは魔法というわけだな!! この世に魔法があったとは……ッ」
青年の目はこの上なくキラキラと輝いていて夢見る少年のようだった。そして、藍はこの手の野郎が大の苦手だったのだ。
(夢見るオコチャマというわけですかっ!?)
「なあ、ホウキで空を飛ぶのか?死ぬまでに空を飛んでみたいというのが小さいころからの夢だったんだよ。一回でいいからのせてくれよ、魔女さま!!」
「いい子は早くおうちへ帰りましょうね」
「いいじゃん、一回くらい。ね、あっという間でいいから!!」
(魔女が空を飛ぶのはホウキだってことは異世界でも同じなんだね……ということは彼の世界はうちに結構近い部類なんだろうな。それにしてもコイツ面倒だなぁ)
「いい子は、おうちへ。Go Home.」
「いいじゃん、乗せてよ」
青年は本当にしつこかった。まるでネオジウム磁石並の引っ付き力だ。とても藍より年上の青年がいうことには思えなかった。こんなやり取りがもう1時間続いた。
(いい年している癖に、空を飛びたいとか…… そしてなんでホウキ。)
「あーもう分った、30秒だけだよ。ホウキじゃなくてもいいよね。」
妥協した藍はそこらへんから枝を拾ってくるとそれに術をかけて渡した。
「はい、これ。操縦は思い浮かべるだけで大丈夫だから。」
「おおおおおおお!? やった!? ありがとな!!」
青年は喜んで術がかかった枝を受け取るとさっそく飛ぼうとして跨り、叫んだ。
「さあ枝よ枝よ、空を飛びたまえ!!」
(オイオイやめてくれよ。なんですかそれは。ただの痛い子……)
その様子を藍は1歩下がって眺める。白目で。
さてここで問題です。細い棒にまたがって飛ぼうと思うと何が起こるでしょうか。その問題を青年はまったく考えてもいなかった。絵本に描かれている魔法使いは皆軽々とホウキにまたがって空を飛んでいるのだ。それを当り前だと思ってしまうのは致し方無いのかもしれない。
「いってぇぇぇぇえええええ!! 股がいてえよ!! 降ろしてくれ!!」
(ほら、見んことか……)
そして誤って地面に激突してしまう青年を横目に藍は座標指定の作業の続きに入っていった。こんなことに動揺しないで作業を進めていくところはもうすでにベテラン並の態度だと言ってもいい。酷く心が醒めていたのだ。
「そこら辺に座っていてくださいね。あなたを元の場所に帰すために必要なことをしている途中なので、くれぐれも邪魔しないでいただきたいのですが。」
いまさら藍はこの年上の青年に敬意を払う気はほとんどない。先ほどまで細い棒にまたがって股が痛いとのたうちまわっていたことを考えて、だ。体だけは大人であり、顔はそこそこイケている男が股を抑えてのたうちまわっている姿は何とも言えない何かがあった。とにかく、絵面がとっても残念だと言っておこう。そして青年は痛みから復活すると、懲りたのか隅っこでおとなしく体操座りをしていてこちらを窺っていた。
(……お前はへたれワンコかっ!!)
本当に絵面が残念である。
「さあ、貴方を帰す準備が整いました。この魔法陣の上に乗って下さい」
藍が青年を帰す術を完成させるのにたっぷり10分はかかった。なぜなら藍は初心者でこの手の陣を作ったことが無いからだ。あーでもない、こーでもない、とうーんと頭を捻らせて作った陣はたっぷり10分もかけたので藍は自信もたっぷりであった。藍は何回も、何回も見直しをした。せっかくの初仕事を失敗させる訳にはいかなかったからだ。先代からほうら、やってみろと言うがごとく放り出された管理者の仕事の世界。しかも他の管理者の人たちも藍の状況を知っているはずなのに、嘲笑うかのように無視を決めている。あーそうですか、だったらやってやるよ!!とやけくそになって取り組んでいる手前、プライドにかけて藍はこの仕事を失敗させる訳にはいかなかった。
青年はさっきの股イタ事件に懲りたのか、おとなしく藍にしたがって魔法陣の上まで立ちあがって歩く。
そしてそれに反応して陣が蒼く光り出す。
(先代、見て下さい!! 貴女には何も教えてもらっていないですが、私は一人でもやっていけます。私の初めての仕事もこれで終わりだぁぁあああああああああ!!)
藍のキャラが崩れまくっているのはツッコむまでもないと思われる。
魔法陣が藍の魔力を使用して世界の法則を紡ぎだしていく。
世界を渡るその力は陣の文字を浮き上がらせ、青年にまとわりつかせる。
陣の文字は青年に術式を書きこむ。青年が蒼い文字に包まれる。
そして一段と明るい光に青年が包まれる。
(さあ、終焉だ)
青年の姿がフッと消えた。
そして藍は叫んだ。
「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああ 片足置き去りになってるぅううううううううううううううう!!」
「あははははっ もう笑いすぎておなかが痛い。ガハッ く、くくくくく…… ひー まじ受けるんですけどー」
豪華な部屋の中で二人が水晶を囲んで体を震わせていた。しかしその部屋は暗くて顔つきは分らない。かろうじて、成人男性が二人であるということが分かるくらいだ。
「本当に、藍チャンは可愛いね。あれって多分結構初歩的な陣のミスだよねー」
「まあ、藍の初仕事にしてはやった方ではないのですか? 記憶消去の術式は上手く作動したみたいですし。」
「逆に記憶の消去は成功しただけに、片足を返すときになんて説明するんだろうね。さっきの失敗でびびっちゃうと思うね、藍チャンは。ひー 負のサイクルにハマっちゃうんじゃないー?」
男たちは藍の初仕事の様子を見届けていたようだ。高みの見物という奴だ。ここに藍がいたらきっと、初仕事なのに助けてくれないとか性格悪いと喚き叫んでいるだろう。
「それで、これ以上見れない状況になったら助けてあげるのかなお兄様は」背が低い方の男は声にからかいの感情を含ませてもう一人の男に尋ねる。
「そうですね、こっそり見ていたことがばれてもいいなら」それに対して背が高い方の男は顔に笑みを張り付けてさらっと言う。
「……藍チャンに知られたら嫌われそうだね」それを聞いた男は顔を楽しそうに歪ませた。
「では、放置でいいですか」
「それでいいんじゃない?初仕事くらいすべて自分でやってみるのもいい経験になるよ」
二人は初仕事で慌てふためいている迷える子羊を放っておくことにしたようだ。それを聞いたものがいれば、本当に悪趣味だと思うだろう。
「でも、わが妹はさすがですね。術なんてほとんど使ったことは無い筈なのに警官に姿を見られた時、あっという間に術を使って見せたのですから。」
「とっさの時は本能で術を使っているみたいだね。そんな所をみると才能はあるんだろうね。落ち着いた環境でやると逆に失敗するとか…… マジ藍チャン可愛い!!」
「私の妹はあげませんよ」
暗い豪華な部屋の中で、二人の男がいたいけな少女を盗撮しているという状況に誰が気持ち悪く思わずにいられようか。
小説を書くって難しいー
できれば続編を書きたいと思える設定の一つ。