ダークヒーローたちの挽歌
俺は少しだけ不機嫌そうに口を開いた。
「言っとくがこれは俺の趣味じゃないからな。俺はこんな、女の履くエロ靴みたいなデザインのクルマは好かん」
「でも高いんでしょう?こういうスポーツカーって」
白木凉子は、どことも分からぬ深夜の国道を、百キロ以上で高速ドライブして、いたくご機嫌のようだ。
「これはロータス・エヴォーラに似せて作られてあるが、偽物だ。大体オートマチックのスポーツカーなんてあるかよ。車内が意外と広くて、隠し収納庫も多い。おまけにハイブリッド。これは日本製なんだよ」
「日本製って、マツダとか?」
「企業が作ったんじゃない。これは全て執事のセバスチャンがこしらえた。ロータスは彼の趣味なのさ」
その時、ナビ画面が切り替わって白いちょび髭の当人が顔を見せた。
「坊ちゃま、新車の乗り心地はいかがですか?」
「セバスチャンか、まるで盗聴してたみたいにタイミングがいいな。このクルマ、ハンドルが邪魔だ。今度作るときはハンドルのないやつを頼む」
「そのハンドルは飾りです。取り外してもオートクルーズできますが」
スポンとハンドルが取れた。エヴォーラは変わらず安定して走行している。
「冴えてるじゃないか」
俺は無用のハンドルを道路に投げ捨てて口笛を吹く。
「そんな事よりお坊ちゃま」
「なんだセバスチャン」
「後方より敵が現れました」
「キャッ! 格好いい!やっぱこうでなきゃ」
凉子は敵の出現に大はしゃぎだ。
モニター越しに、巨大な重機が追いかけてくるのが見える。
重機と言ってもこれは工事に従事する働き者なんかじゃない。
足が6本もあって、その下にデカい車輪があって、腕みたいなものもある。あまり機能的なデザインとは言い難い化け物だが、威圧感はそこそこにあった。
その一見愚鈍にも見える巨大ロボもどきがどんどん距離を縮めてくる。
「なんであんな鈍そうなのに追いつかれるんだ?」
「すいませんお坊ちゃま。どうやらエンジンの調子が悪いようして」
「何とかしろよ。これ、ロボットか何かに変形しないのか?」
「しません。容量的にこのボディに手足を収納しておくのは無理です」
「このお爺さん結構現実的なのね」
「おい早くしろ。いつものように『こんなこともあろうかと』って言って秘密兵器を出せよ」
「それが最近ネタが尽きまして……」
俺は融通の利かない執事の言葉を待たずにあたりを探した。
ポケットの中。
何かある。
細長い。
ボールペンか?
だがそれはボールペンではなく三菱の六角鉛筆だった。
これで危機を乗り切れるとは到底思えない。
このままではロボ重機につぶされてしまう。
「セバスチャン!!」
「整いました」
執事はつとめて冷静に、自分のポケットからパイロットのボールペンを取り出し、徐にカンペに何かを書きだした。
それをモニター一杯に写しだすと、
全ての時間が止まってしまった。
モニターにはこうある。
『この続きはまた来週』