スライムが現れた
突然の不快感で目を覚ました、ジットリと濡れている背中か?イヤ……違う、直感的に遅刻を確信したあの感覚だ。焦りとともに呼吸と心拍が激しくなる、慌てて頭の上のスマホに手を伸ばすと、硬質なプラスチックでは無くフンワリと柔らかい感触が指先に伝わり、勢い余ってそのまま抉り取る。
寝転がったまま目の前に持ってきた右手にはヒンヤリと冷たい土がこびりついていた……土?
寝過ぎのためだろう固くなった体を無理やり起こすして辺りを見渡すと……いや、見渡すまでもない。視界全てを埋め尽くす木々の群れ、地表に食い込みのたうつ根は太く荒れ狂い、その根に相応しいように幹は逞しく天を貫いている。そして……空が見えない、夜ではない……枝に生茂る葉が日光を奪い合い地表に降りてこない薄暗さだ。
先程の焦りとは違う感情が呼吸を浅く早くし心臓の動きを急かす。
なんだ?幻覚か?俺の頭はとうとうそこまでイカレちまったのか?しかし俺の病状にそんな症状は無かったはずだ、新しい薬が合わなかったのか?
近くの木……というかもはや植物で出来た壁に手を当て立ち上がる。取り敢えず身につけている服やズボンのポケットを探ってみても何も無い。
サイフもスマホも鍵も無い……着の身着のまま寝た状態のままだ……ということは靴も履いていない。
靴の有無を確認するために足を見ているとフト気付いた、こんな山奥に……無意識にしろ歩いてきたわりには汚れておらず綺麗だ。なら誘拐か?しかし何の目的で?どうやって?たちの悪いユーチューバーの極悪ドッキリか?
考えていても仕方がない、なにせ考えるための材料が足りない、人の気配を探すために取り敢えず歩くことにした。しかしというか何というか……歩きづらい。裸足だからということも有るだろうがただでさえ少ない土を食い合うように奪い合うように根っこが入り組んでいるのだ。平坦な道を歩くより余程疲れる。
幾ばくも歩かぬ内に日頃の運動不足が祟り、木に手をつき深呼吸をしていると目の端で何かが動いた。
人か?と思い視線を向けると……ソレはいた。
まるで大きな水滴のような見た目、一抱えはあろうかという大きさ、透明感の有る薄い水色をしており向こうの景色が歪んで見えている。
「スラ……イム……?」
自分の口から無意識に出た言葉を、意識が馬鹿にする。まさか、ゲームじゃ有るまいしスライムがいてたまるかと。
しかし今回は意識の圧倒的敗北だった、明らかにスライムの様相を呈しているソレは、ゆっくりズルズルと俺の目の前を横切って行った……ヌメヌメとした跡を残して。
「……仮にスライムだとしても何故俺は襲われなかったんだ?」
また疑問だ、俺の生きてきた日本から外れたルール、法則、意味がわからない。
不安より疑問から生じる混乱により一気に脱力してへたりこむ。
駄目だ、ギブアップ。一旦休ませてくれ神様……俺は無神論者だが。




