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圧倒的な灰色

 いつからだろうか、世界から色彩が薄れたのは?

 会話をしていても、飯を食っても、映画を見ても、どこか遠い。

 気晴らしに高い料理を食べてみても舌は味を伝えてくるが……肝心の脳みそは味覚をデータとして処理するだけで”旨い”という実感を生んでくれない。

 生きてはいても、活きていない。ただ死にたくないというボンヤリとした生き物の根源である生存本能によって、俺は人として存在を継続していた。

 仕事をし、栄養を摂取し、動画サイトを巡り、寝る……その繰り返し。

 生き甲斐?有るわけがない、給料の大半は人生を消費するための必要経費に消える。俺の人生は生まれた勢いの慣性と惰性で仕方なく続いていた。

 楽しさなんて無い、嫌悪感すら覚える。その嫌悪が向く先は俺だろうか?世界だろうか?もしかしたら俺を含めた世界かもしれない。


 ディスプレイが、動画投稿サイトに並んだサムネイルを映す。視聴者の目を引くための白々しい見本市は、むしろ一つの目的に揃っていて平凡に見えた。意味もなくスクロールすると、右手の人差し指にマウスホイールを回すカリカリとした触感が伝わる。アルゴリズムによって選択されたデータの塊、ただ無意味に時間だけが過ぎていく。

 探す、見る、探す、見る、探す、探す、探す……

 ただその中に、一つだけ目と脳に引っかかる違和感を見つけた。

 黒地に白い文字で畫かれた「都市伝説 飽きた」というタイトル。

 最近流行りの華美でケバケバしく派手な方向性とは丸で真逆な質素かつ簡素な見た目、動画投稿時間を見ると十年ほど前……なるほど、視聴数稼ぎのためのテンプレートが出回る前の動画だ。

 俺は一人で勝手に納得すると再生を始めた。

 画面の中では仮面を被った男が雑なボイスチェンジャー越しに語っている。


 「皆さん、飽きた……という都市伝説をご存知ですか?白い紙に赤いペンで六芒星を書き、その中央に”飽きた”という文字を書いて枕の下に入れて眠るのです。そうすると……貴方は異世界に転生できます」


 馬鹿らしいと思った、アホらしいと思った……俺の人生のように。

 俺は丁度目に入った机の上の紙とペンを手に取り、馬鹿げた行為を実行した。

 そして強制的に意識を叩き落とすための薬を飲むと、枕の下に紙を滑り込ませ目を瞑った。

 変わるわけが無い、こんなことで変わるわけが無いさ。

 ただのお遊びだ……


 苛立たしいスマホのアラームに起こされると、世界は一変……していることも無く、いつも通りだった。

 洗面台に向かい歯を磨いたが、寝ぼけていたのだろうか水の代わりにお湯を出すレバーを捻ってしまい、結果コップに注がれた熱湯で口をゆすぐ羽目になった。

 

 明くる日、いつものように更衣室にてロッカーの前に立ち鍵を開けようとし捻ったが解錠され無かった、鍵とロッカーの番号を見比べると一つズレている。とうとう頭がいかれたのか、薬が合わなくなったのか……いつか馴染みのクリニックに相談しなければと思うと面倒くさくてため息が出た。


 仕事帰り、夕食を購入するためにコンビニに行くとレジに見たことがない店員が立っていた、しかし名札を見ると見覚えがある……金髪に赤いメッシュ、そしてジャラジャラとしたピアスが無くなり黒髪で大人しめな見た目になっていた、大胆なイメチェンをしたものだ……


 休日、折角の休日。

 だというのに俺は電車に揺られていた、忌々しいが通院の日だ。

 最近変更されただろうアナウンスの声を聞きながら、目的の駅に到着する。

 ダラダラと歩いていると見かけない店舗が増えていることに気づく。多分不況の煽りで閉店して違う店が入ったのだろうと少し淋しく思った。

 医者に現状を報告し、薬を変えてもらった。久々に会う先生の顔はどこか違和感を覚えた……はて、裸眼だっただろうか?以前は眼鏡をかけていたような……


 そして俺はまた暇つぶしを探す、無意味なスクロール……毒にも薬にもならないショート動画、たまに興味を引かれるニュース。

 右下に表示される時間をチラリと見て、俺は新しい薬を飲み下す。味なんてしない、固形物が喉を通る感覚だけが有る。

 ベッドに横たわると、枕の下でカサリと紙が音を立てた、そう言えばまだ敷いてたっけ、スッカリ忘れていた。

 しかし思考を巡らせようとしたとき、意識がグッと引っ張られる感じがした、良かった……変更した薬は俺に合っていたらしい、今夜はよく眠れそうだ……

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