9話
昼だった。
太陽が高く、石畳が白く光っている。
広場は静かだった。
遠くで虫の羽音が聞こえる。
中央には剣が刺さっていた。
何十本もの剣が、錆びた鎖で束ねられている。
カチャ……
風が吹く。
鎖が鳴る。
その近くに、一人の男が立っていた。
黒い外套。
腰には短剣がいくつも下がっている。
男は広場を見回す。
「……どこだここ」
ついさっきまで屋根の上にいた。
逃げていた。
衛兵に追われていた。
だが今は、見知らぬ広場にいる。
男は中央の剣へ歩く。
一本の柄に触れる。
「重いな」
引く。
動かない。
「まぁそうだろうな」
その時。
足音がした。
振り向く。
少女が立っていた。
金属の腕。
機械の脚。
少女は周囲を見回している。
男が言う。
「……義体か」
少女は男を見る。
「あなたもここに?」
男
「知らないうちにいた」
少女は頷く。
「私も」
二人は中央の剣を見る。
少女が鎖に触れる。
カチャ……
「古い」
男
「そうだな」
少女
「戦争?」
男
「かもしれない」
少女は石畳を見る。
「でも弾痕がない」
男は少し笑う。
「よく見るな」
少女
「癖」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
少女が空を見る。
「空、青い」
男
「青いな」
少女
「私の街は灰色」
男
「煙か」
少女
「うん」
少し沈黙。
鳥が空を横切る。
少女が言う。
「昼って静か」
男
「夜の方が好きだ」
少女
「どうして」
男は肩をすくめる。
「仕事しやすい」
少女は少し笑う。
「泥棒?」
男
「似たようなもんだ」
風が吹く。
草が揺れる。
男が聞く。
「名前は?」
少女
「イリス」
男
「俺は——」
その瞬間。
少女が消えた。
男は少し驚く。
「……またか」
周囲を見る。
誰もいない。
中央の剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は空を見た。
「悪くない昼だ」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には、また静けさが戻った。
ただ風だけが吹いていた。




