8話
朝だった。
広場にはやわらかな光が差している。
石畳の隙間から草が伸び、
その上で小さな虫が動いていた。
中央には剣が刺さっている。
何十本もの剣が地面に突き立ち、
錆びた鎖で束ねられていた。
カチャ……
風が吹く。
鎖が小さく鳴る。
その近くに、一人の男が立っていた。
商人のような格好だ。
大きな袋を背負っている。
男は辺りを見回した。
「……ここは?」
さっきまで街道を歩いていた。
次の町へ商品を運ぶ途中だった。
だが今は、見知らぬ広場にいる。
男は中央の剣へ歩く。
「おお……」
剣の数を見て、目を丸くした。
「これはすごい」
一本の柄に触れる。
「売れそうだ」
その時。
声がした。
「やめた方がいい」
男が振り向く。
旅人が立っていた。
若い女だ。
肩には弓。
商人は笑う。
「抜けない?」
女は首を振る。
「そういう問題じゃない」
商人
「どういう?」
女は剣を見上げる。
「なんとなく」
商人は少し笑った。
「直感か」
女
「そう」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
商人は剣を見上げた。
「これ全部、誰のだろう」
女
「わからない」
商人
「戦場?」
女
「たぶん違う」
商人は首をかしげる。
「どうして」
女は石畳を見る。
「静かだから」
商人は笑う。
「なるほど」
空を見る。
青空だった。
鳥が横切る。
商人
「いい朝だ」
女
「うん」
商人
「こういう場所で店開いたら儲かるかな」
女は少し笑う。
「客いない」
商人
「確かに」
風が吹く。
草が揺れる。
女が聞く。
「どこから来たの」
商人
「港町」
女
「私は山」
商人
「遠いな」
女
「世界が違うかも」
商人は少し考える。
「それ面白いな」
女は空を見る。
朝日が広場を照らしていた。
「ここ、嫌いじゃない」
商人
「俺もだ」
少し沈黙。
商人が言う。
「名前聞いていい?」
女
「セナ」
商人
「俺は——」
その瞬間。
女が消えた。
商人は驚く。
「……おい?」
周囲を見る。
誰もいない。
中央の剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
商人は空を見る。
「いい朝だったな」
次の瞬間。
商人も消えた。
広場には、また静けさが戻った。
朝の風だけが吹いていた。




