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68話
男は広場の中央にいた。
剣の束の前。
何十本も地面に刺さっている。
鎖でまとめられていた。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男は剣の影を見ていた。
夕日が低い。
影が石畳の上に長く伸びている。
刃の影。
鎖の影。
重なっている。
男は少し足を動かす。
影を踏む。
その時、声がした。
「踏める?」
男は振り向く。
少女が立っていた。
少女も影を見る。
男
「影だしな」
少女は影の上に立つ。
少しジャンプする。
「やっぱり踏める」
男は笑う。
「踏めるけど」
男
「何も起きない」
少女
「残念」
風が吹く。
鎖が揺れる。
カチャ……
少女は剣を見る。
「多い」
男
「多いな」
少女
「影も多い」
男
「確かに」
少女は影を見ている。
「夜になったら」
少女
「消えるね」
男は空を見る。
夕焼けだった。
男
「そうだな」
少し沈黙。
少女が言う。
「私から言う」
男
「何を」
少女
「名前」
少女は笑う。
「ユナ」
男は少し頷く。
「俺はカズキ」
ユナ
「よろしく」
カズキ
「ここで?」
ユナ
「ここで」
二人は少し笑う。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
その瞬間。
ユナが消えた。
カズキは影を見る。
夕日が少し沈む。
影が伸びる。
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
夕焼けと風だけが残っていた。




