2話
朝だった。
広場には柔らかな光が差している。
夜露が石畳に残っていた。
草の先には小さな水滴が光っている。
中央には剣が刺さっていた。
何十本もの剣。
それらは錆びた鎖で束ねられている。
風が吹く。
カチャ……
鎖が揺れる。
その近くに、一人の男が座っていた。
白衣を着ている。
眼鏡をかけた中年の男だ。
男はノートを広げていた。
何かを書いている。
「……妙だ」
男は剣を見上げた。
「金属の腐食状態と周囲の風化が一致しない」
ペンを走らせる。
「この剣は数百年以上前のものに見えるが……」
石畳を見る。
「広場はそれほど古くない」
男は息を吐いた。
「いや、そもそも——」
その時。
足音がした。
石畳を歩く音。
男が顔を上げる。
ローブを着た少女が立っていた。
杖を持っている。
少女は辺りを見回していた。
「ここ……どこ?」
男は言う。
「それを調べている」
少女は近づいてきた。
中央の剣を見る。
「すごい……」
男は聞く。
「君も気づいたらここに?」
少女は頷く。
「さっきまで森にいたの」
「なるほど」
男はノートに何か書く。
少女は剣の周りを歩く。
鎖を見る。
「戦場?」
男
「可能性はある」
少女
「でも骨とかないよ」
男は頷く。
「確かに」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
少女が聞く。
「おじさん、何してるの?」
「観察だ」
男は剣を見ながら言う。
「ここは普通の場所ではない」
少女
「そうなの?」
男
「まず」
剣を指す。
「これだけの剣がある」
石畳を見る。
「だが戦闘の痕跡がない」
少女
「ほんとだ」
男は続ける。
「さらに」
空を見る。
「太陽の位置がおかしい」
少女も空を見る。
朝の光。
静かな空。
「おかしい?」
「君はどこから来た」
「魔法学院」
男は少し考える。
「私は研究所だ」
少女
「研究所?」
「科学の施設だ」
少女は少し首をかしげる。
「違う世界かもしれないね」
男は言う。
「その可能性もある」
少女は笑う。
「面白いね」
男は小さく笑った。
「そうだな」
風が吹く。
虫の音が聞こえる。
鳥が空を横切った。
少女が空を見上げる。
「気持ちいい朝」
男も空を見る。
「……ああ」
少女
「ここ好きかも」
男
「私もだ」
少し沈黙。
男が聞く。
「名前は?」
少女
「ミリア」
男
「私は——」
言いかけた時。
少女が消えていた。
男は周囲を見回す。
「……なるほど」
ノートに書く。
『人は突然消える』
ペンを止める。
男は中央の剣を見る。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は小さく呟いた。
「興味深い」
その瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
朝の風だけが吹いていた。




