10話
夜だった。
月の光が石畳を照らしている。
広場は静かだった。
虫の声だけが、遠くで聞こえる。
中央には剣が刺さっていた。
何十本もの剣が地面に突き立ち、
錆びた鎖で束ねられている。
カチャ……
風が吹く。
鎖が揺れた。
その近くに、一人の女が立っていた。
長いマント。
背には弓。
女は広場を見回す。
「……ここ」
さっきまで森の中にいた。
獣を追っていた。
だが今は、見知らぬ広場にいる。
女は中央の剣へ歩く。
「すごい数」
一本の柄に触れる。
冷たい。
「古い」
その時。
石畳を踏む音がした。
振り向く。
背の低い男が立っていた。
ローブを着ている。
手には杖。
男は空を見上げた。
「……星が綺麗だ」
女が言う。
「ここ知ってる?」
男は首を振る。
「知らない」
女
「私も」
二人は中央の剣を見る。
男が言う。
「戦場かな」
女
「たぶん」
男
「でも静かだ」
女は頷く。
「そう」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は剣を見ながら言う。
「ここ、不思議だ」
女
「どうして」
男は空を見る。
「空気が落ち着いている」
女は少し笑う。
「変な言い方」
男
「そうかもしれない」
月が剣を照らしていた。
女が言う。
「夜、好き」
男
「私も」
女
「森はもっと暗い」
男
「街は明るすぎる」
少し沈黙。
虫の声が聞こえる。
女が聞く。
「どこから来たの」
男
「学院」
女
「魔法?」
男
「そう」
女は少し笑う。
「便利そう」
男
「そうでもない」
風が吹く。
鎖が揺れる。
カチャ……
男が聞く。
「名前は?」
女
「レナ」
男
「私は——」
その瞬間。
女が消えた。
男は周囲を見る。
「……」
中央の剣を見る。
月が刃を照らしていた。
男は空を見上げる。
「いい夜だ」
次の瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
月と風だけが残っていた。




