第2話 放逐されたモンスター
さて、いきなりHP1で野に放たれた俺。だが俺に死角はない。なぜならヒールを覚えているから。
「ヒール」
無造作に合成された弱小モンスターの初期スキルだが、あってよかった。これで無事生き延びられる。あとは食料と寝床だが――
「ヂュッ」
俺はネズミモンスターに変身した。このモコチュウ、土属性のネズミで穴掘りが得意。土を掘れば、即、寝ぐらが完成する。餌は木の実や虫、ミミズなどを好む。かつてプレイヤーだった記憶を持つ俺にとって、虫やミミズはご遠慮したいが、木の実くらいなら許容範囲。生でも美味しく感じるネズミの舌に感謝だ。もちろん、ネズミだけに猫やら蛇やら天敵は多いが、俺はネズミに化けただけのワーアメーバ。撃退など訳もない。
――あれっ。この世界で生き延びるの、めっちゃチョロくね?
そうして始まったネズミライフ。しかし物事はそう甘くなかった。なにがキツいって、退屈なことだ。なんせ穴を掘って身を隠し、木の実を食うしかやることがないのだ。もちろん穴を掘ればミミズも虫も湧いてくる。モコチュウだった俺はそれを見て「うまそう!」と思うんだが、人間だった俺はどうしてもそれを受け入れられない。ということは、穴掘りは自分が寝られるだけ掘ればいい、そしてあとは木の実を拾って食っちゃ寝するだけだ。
ワメーバとして自我を持ってからこっち、ずっと檻に閉じ込められて、窮屈ったらなかった。キューブの中では待機が基本。ちびっ子モンスターは大抵寝ているが、睡眠の必要のない種族はずっと意識を保ち、外の様子を窺っている。ワメーバもそうだ。ただ、元主人はワメーバの俺に不要になったモンスターを片っ端から合成していたから、新しい人格が増えるたびに新鮮な発見があった。威嚇、穴掘り、飛行、一度取り込んだモンスターにならいつでも変身できる。しかもちょくちょく戦闘に駆り出されていたしな。
しかし人間の意識のある俺に、ネズミライフは単調でいかん。自分がそれなりに強く、天敵の心配がないのも退屈に拍車をかける。俺は一晩でネズミに飽き、今度はヘビ型モンスターのブルーダイショウに変化した。おお、ヘビの移動って斬新だ。スルスル進む。
――ヘビはもっとダメだった。ネズミや虫なんか丸呑みできん。
仕方ない。伝家の宝刀、猫型モンスターだ。これは市街地に行くまで取っておいたのだが、ここでまず試運転しておいてもいいだろう。
と思ったのだが、俺は悟った。犬も含め、小型肉食獣はみんなダメだ。ネズミ、虫、ヘビ、小鳥、これらを食料にする種族はみんなアウト。人間に好かれるキラーコンテンツと思っていたのだが、人間に好かれる前に自尊心が死んでしまう。
というわけで、現時点で最も無難なのは小鳥と判明した。食料は虫と木の実、これはネズミと同じだが、鳥は空を飛べる。機動力という意味でも退屈しないという意味でもだ。そして、最後に合体したのがヒメスズメでよかった。大型の鳥だと目立って仕方ない。
「チュピ」
ヒメスズメの姿を前に押し出すと、その人格も一緒に浮かび上がる。彼はまだマスターを恋しがり、パワーアップ合成をした研究所に戻りたそうにしている。くそっ、あのテイマーマジクソだな。俺はどうにかヒメスズメを宥めつつ、人里を避けて海を目指した。なんとなく。




