第10話 怪しいジジイ
「お主が話のわかるモンスターで、ほんに良かったわ!」
ジジイは上機嫌だ。俺はバケツの中から、その胡散臭い様子を眺めていた。彼は俺のミミック能力について熟知していて、下水からマッドスライムを一体掬うと、俺にそれに化けろという。というわけで、俺はバケツでスライムと一緒に仲良くチャプチャプ運ばれている。
全国津々浦々に設置されているJASIN研究所。そこには白衣の研究者が常駐していて、モンスターの孵化やパワーアップ合成なんかを請け負っている。不思議なのは、どの街の研究所にも同じジジイがいることだ。ヨレヨレの白衣に白い髭、禿頭にはズケットのような帽子がちょこんと乗っている。特徴的なのは目だ。ゲーム画面で見た限りでは、小さい丸サングラスを掛けていると思っていた。しかし実際の彼の眼窩 には、目玉ではなく丸いレンズが収まっている。義眼なのか、サイボーグなのか。
そもそもみんな同じ姿なのが解せない。一人のジジイがワープでもして全国の研究所を切り盛りしているのか? それともクローンやロボットなのだろうか。ともかく不気味だ。いつもの研究所での仏頂面と違い、下水道に現れた時からずーっと独り言が止まらない。「これで長年の願いが叶うわい」とか、お前は一体何を企んでいるんだ。
間もなく俺は、二度と訪れることがないと思っていたJASIN研究所のゲートを潜った。どこもかしこも真っ白で無機質な研究施設。今は深夜のようで、ほとんど人気がない。ゲームでは二十四時間対応していたと思うが、あそこは病院で言えば外来のような場所で、全体で言えばほんの一部。研究棟はずっと奥まで続いている。
何重ものセキュリティを通過して到着したのは、研究所の最深部。コードやチューブが複雑に絡んだ巨大な装置が鎮座している。まるでキュブモン合成強化装置の親玉みたいだ。実際ここがJASINの心臓部、あの合成強化装置は端末に過ぎないという。
俺はスライムからワメーバに戻り、ついでにマッドスライムを取り込んだ。
「やはりの。お主は合成装置を介さずに他者を吸収することができる。ワシの見込んだ通りじゃ」
「……」
「さてここにお主を連れてきた目的じゃが、端的に言おう。お主、ワシを取り込んでみんかの?」
「?!」
はっ?
「ヒトの意識を保ったままモンスターになる! これがワシの長年の夢だったんじゃ!」
「……」
ヤベぇ。コイツ、俺が想像した以上にキモいジジイだった。
「これでワシが長年傾けてきたキュブモンへの愛が成就するというもんじゃ!」
パチン、パチン。ウィィィーン。ジジイは勝手知ったる様子で巨大機構を順々に立ち上げていく。暗く沈黙していた巨体は低い駆動音を唸らせ、無数のインジケーターが順次光を取り戻す。まるでクリスマスツリーの点灯式のようだ。
子供のようにはしゃぎながら、ジジイはその長年の愛とやらを延々と語ってみせた。若い頃はそれなりのキュブモンマスターだったこと。キュブモンが好きすぎるあまりに世界中を巡ってキュブモンを集め、気がついたら壮年だったこと。そしてキュブモンコンプでは飽き足らず、キュブモンのさらなるパワーアップを目指してJASINを立ち上げたこと。え、ちょっと待て。JASIN研究所って初期作から存在し、いつからあるのかわからない。
「そうしてキュブモンに情熱を捧げること三百年! ついに自らキュブモンと一体化するという究極のフィナーレが!!」
「?!」
さささ、三百年。ジジイ、やはりコイツ、既にヒトを辞めていた。




