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第二十六話 一瞬の恋

 東京の夜は、ビルの光が漆黒の空に細かく散る。光哉は一人、バーの窓辺に腰かけ、グラスの縁に触れた指先の冷たさを感じていた。外の世界は煌めく宝石箱のようで、その光の一つひとつに、過去の恋の記憶が微かに映る。

 その夜、結花は闇を切り裂くように現れた。深い栗色の髪が肩を滑り、薄絹のドレスが柔らかに身体を包む。香りは夜露に濡れた花のようで、官能と清らかさを同時に漂わせる。光哉は思わず息を止め、目の奥で光が揺れた。

 結花は微笑み、唇の端で軽く笑っただけで、世界の空気が一瞬、変わる。音もなく、時間も止まったかのように感じられた。彼女の瞳には東京の夜景が映り込み、宝石の粒子が踊るように煌めいている。光哉は何も言わず、ただその瞳に引き込まれていった。

 バーの薄暗い照明の下、彼女の手がグラス越しに光哉の手首に触れた。瞬間、指先から心臓へ小さな火が走る。結花の微かな体温が、衣服越しに伝わる。光哉は唇を噛み、声にならない吐息を漏らした。言葉は必要なかった。彼女もまた、言葉より先に身体が答えることを知っていた。

 夜風に揺れる都会の街路樹の葉音、遠くの車のライトが通る音、バーの奥で流れる静かなジャズ。光哉はそのすべてを、結花の存在を通して鮮やかに感じた。呼吸が重なり、微かな肌の接触が重なるたびに、胸の奥で未知の疼きが広がっていく。

 結花の髪をかき上げる仕草、視線の端で揺れる肩の線、指先が触れた瞬間の熱。光哉はその一つひとつに意識を集中させ、時間の概念を失った。彼女もまた、光哉の胸元に落ちる光の反射を追い、唇の動きや指の滑りを確かめるように身を寄せる。夜の空気が、二人の周囲だけ静止したかのように妖艶に濃密だった。

 やがて光哉は、結花をラグジュアリーホテルの部屋へと誘った。白いシルクのソファに腰かけた彼女の姿は、赤ワイン色の照明に溶け込み、曲線が際立つ。光哉の手が自然に腰を抱き寄せ、二人の呼吸が重なる。言葉よりも早く、肌と肌が触れ合い、熱と冷たさが交互に交わる。

 窓外の夜景、遠くの車のライト、微かに流れるジャズ、カーテンの裾を揺らす風。光哉はそのすべてを、結花の存在を通して鮮やかに感じた。触れるたびに胸の奥が疼き、全身の感覚が研ぎ澄まされていく。結花の唇が微かに光哉の肩に触れ、身体が柔らかく揺れる瞬間、世界のあらゆる光が濃密に絡み合ったかのように感じられた。

 二人はしばし沈黙のまま、互いの呼吸と鼓動だけを感じた。触れるたびに心の奥が疼き、全身の感覚が研ぎ澄まされていく。結花の唇が微かに光哉の肩に触れ、身体が柔らかく揺れる瞬間、世界のあらゆる光が濃密に絡み合ったように感じられた。光哉はその温度と香りを胸に刻む。

 夜は深く、都会の光は静かに揺れる。二人は互いに身を委ね、言葉よりも強い何かを共有した。後には微かな寝息と肌の温もりだけが残り、世界は再び静かさを取り戻す。しかし、光哉の胸の奥には、短くも烈しい情熱の残滓が鮮やかに焼き付いていた。結花の香り、指先の温度、吐息の重なり。すべてが、夜と都市と世界の美しさに溶け込み、彼の中に残る。

 光哉はソファにもたれ、結花の髪を指で撫でる。東京の光の海が眼下に広がる中で、彼の心は短くも激しい恋の痕跡に満たされていた。官能の余韻は濃密で、雅やかな静謐さに包まれ、世界は美しく息づいていた。

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