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第十七話 冬薔薇(ふゆそうび)

 冬の東京は、冷たい空気の中に微かな湿り気を帯び、街路樹の枝には霜が煌めいていた。 

 光哉はいつものように高層オフィスのガラス窓に手をつき、街の灯りを見下ろしていた。

 夜の帳が街を包む中、彼の心には空虚が広がる。紫苑の影は消えたはずなのに、その余韻はまだ身体の奥で熱を残していた。

 静寂の中、オフィスの扉が静かに開く。

 深雪が現れた瞬間、空気が微かに震える。

 黒のコートの下に潜む艶やかなドレスが、淡い光を受けて妖しく揺れる。

 彼女の髪に混ざる微かな香水の香りが、室内に柔らかな波を描くように広がった。

「光哉さん……お久しぶりです」

 その声は低く、落ち着きの中に潜む情熱が微かに揺れる。

 光哉は振り返り、彼女の瞳を見据える。

 眼差しの奥に潜む知性と情念が、胸の奥を疼かせる。

 今この瞬間が、新たな官能的な緊張を生む。

 深雪は静かに近づき、机の上の書類に指先を置く。

 その仕草は無意識のようでいて、光哉に確実に届く。

 指先が触れた瞬間、微かな静電気のような感覚が空気に走り、胸の奥を軽く刺激する。

 深雪の存在自体が、冬の夜に咲く一輪の薔薇のように妖艶だった。

 光哉は椅子から立ち上がり、深雪のすぐ後ろに回る。

 息遣い、肩越しに漂う香り、髪先の柔らかさ……触れずとも、すべてが身体の奥に訴えかける。

 新たな期待と緊張が、静かに官能を描き出していた。

「……こちらの原稿、チェックをお願いしたくて」

 深雪の声は淡く、しかし手渡された紙の重みと指先の温もりに、光哉の心は瞬間的に熱を帯びる。

 二人の間に流れる空気は、言葉以上に感覚を刺激する。

 窓の外、霜に光る街灯の光が室内に差し込み、彼女の輪郭を艶やかに浮かび上がらせる。

光哉は紙を受け取りながら、目線を逸らさず、深雪の横顔を追う。

 薄く開いた唇、頬に落ちる髪の線、手の仕草の滑らかさ……そのすべてが、静かに、しかし深く身体を疼かせる。

 紫苑の残り香とは違う、新しい官能の空気が、室内を満たす。

 深雪は紙を返す前に、光哉の手元に指先を軽く触れさせる。

 その瞬間、微かに電流のような感覚が走り、二人の間に言葉では表せない熱が広がる。

視線が絡み合い、息遣いが交差する瞬間、冬の冷たい空気と熱が同居し、妖艶な世界が形成される。

「……光哉さん」

 深雪はささやき、指を少しだけ光哉の手の上で滑らせる。

 その仕草は挑発でも、求めでもなく、ただ存在そのものが官能を帯びる瞬間だった。

 光哉は目を閉じ、彼女の指先が残す温度と柔らかさを全身で受け止める。

 冬の夜に咲く薔薇の香りが、記憶の奥と重なり、心の奥底に熱を残す。

 二人はしばし沈黙し、空気の震えを感じるままに立っていた。

 窓の外、夜明け前の街が静かに色を変え、霜が解け始める。

 光哉の胸には、紫苑の影と深雪の存在が、互いに重なり合い、官能的な余韻として残る。

 この瞬間、愛と孤独、熱と冷たさが交錯し、冬の薔薇のように艶やかな空間を生むのだった。

 深雪は静かに扉に向かい、後ろ姿を残して去る。

 光哉はその背を見送る。

 室内に残った空気、香り、そして微かな熱が、彼の心に深く刻まれる。

 彼はゆっくりと椅子に腰を下ろし、冬の夜の静謐の中で、再び愛と孤独の狭間に沈み込むのだった。

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