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8 これって一体なんなんですの?



「き、謹慎?で、ございますか?」


キーラは教皇6人と大教皇の座る卓の前で跪いたままぽかんとそう呟いた。


「聖女キーラ。そなたは他の聖女らに対して聖水を限界まで作り続ける様に指示をしたとか。聖水の生成数は聖女個々人の聖力の過多によって決まるというのは知っている通りだと思うが、それを無視して無理矢理聖水を作る様に促せば聖力が欠乏しあのような事態が起こる事、長く聖女を務めていたそなたにはわかっていたはずだ」


淡々と告げられる一人の教皇の言葉にキーラは眉根を寄せた。


「は、いえ、わたくしはそのような…」

「黙りなさい!実際そなたがあの日生成の終わった聖女らを引き留め、さらに多くの聖水を作るべきだと発言した事、他の聖女達からも報告を受けておるのだぞ!」


キンキンとした声で割って入ってきた別の教皇の声にキーラは「それは、はい。確かにわたくしの発言で御座います…わ」と頷き、ですがと自分の意見を述べようとしたが、卓の端に座っていたまた別の教皇が、手元の資料を見ながら大仰なため息を吐きキーラの発言を遮った。


「まったく、こんな婚姻遅れの聖女がまだ聖域に居ったとはな」

「は?」


ー……婚姻遅れ…?



「おおかた聖騎士との交友に溺れずるずると花園での生活を捨てられずに留まっておったのだろうが、23歳だと?あきれるな」


ーはぁ?

なんですって???


ぶくぶくと太ったその教皇はキーラを上から下まで眺め「まぁ、そのようななりでも聖騎士らを跪かせられるのだ、聖域聖女の地位にいつまでもしがみ付いていたくなる気持ちもわからんでもないが」とさらに嘲笑してみせた。


それを聞いて他の教皇らもキーラを蔑んだ目でみたり、書類とキーラを見比べながら呆れた様な仕草をしたりと、とにかくキーラに対して驚くほど侮蔑を含む視線を教皇らはみせていた。


「わたくしは…!「あぁ、もうよい。其方には一週間花園へ降りる事を禁止する。また聖水の生成も多少は無理をした数を作る様に。それが今回倒れた聖女らに対する贖罪と思い励みなさい。以上だ。戻って宜しい」

「は?え?いえ、ですから」


キーラが自分の主張を伝えようとさらに声を上げるも、大教皇が立ち上がりそれに続くように教皇らが席を立つと「やれやれ」「困ったものだ」などと話しながら部屋から出て行ってしまったのだった。



キーラは一人残された部屋でしばらく唖然としていた。


「なんなんですの…?これ?」



***



大教皇アーザス=オウ=ドミニオンは、先日祈りの間で聖女らが聖水を個々の能力以上のペースで作った為起こった集団昏倒事件を一通りかたずけ、事の発端となった聖女キーラ=ナジェイラとの面会も終え、教皇らと茶を喫していた。


「しかし23歳の聖女が聖域に残っておったとは驚きですな」


ドミニオンの斜め前に座っていたトマ教皇が太った体を揺らしながらそう言って鼻を鳴らした。指にいくつもはめられた指輪がティーカップにあたりカチャカチャと耳障りな音を立てている


「まったく。だがあの容姿ではいくら聖女とは言え聖騎士も娶る事は出来ないと判断したのでは?まるで鶏ガラのような聖女様ではないか」


ドミニオンの横に座るカルビラ教皇が長い指を口元に持って行くとクククっと思い出すように笑った。


「20歳を過ぎた聖女はどんどんと質が下がる。さっさと適当な聖騎士に求婚すればいいものを23歳とは…流石にあれではもう引き取り手はおらんだろう困ったものだ。」


「しかしあのキーラとかいう聖女は一体何を考えてあのような騒動をおこしたのでしょうな?」


「おおかた若い聖女に対する嫉妬か何かでは?聖女とはいっても所詮は平民や下級貴族の娘。品位の程度はしれておりますからな。聖力や若さを持ち未来ある後輩聖女らに対する嫌がらせかなにかでしょう」


トマ教皇の横にいたナトムア教皇が答えれば「未来ある聖女とは…ナトムア教皇も皮肉が過ぎますな!」と彼等はひそめる様にして笑いあった。


「そんな事より」


スッとその時片手を上げ、ドミニオン大教皇が話を遮ると教皇ら一同はハッと姿勢を正した。


「今回の事件で作られたという聖水の生成数がコカソリュン帝国に漏れているのはいったいどういう事だ」


大教皇のヒヤリとした声に皆冷や水を浴びせられた様にしんと鎮まった。


「聖女と聖水を管理し、世界の秩序を保っている聖教会、聖アリミア教国。その根幹を支える聖水の生成数は秘事としているはずだ。実際聖人部からそのような情報の流出が疑われるような事があったとは聞いていない。それがなぜ今回コカソリュン帝国へ流れたのか。何か知っている者は?」


そう問うと皆お互いを見合わせた。


「我々は何も……」


教皇らの様子にドミニオンは指を組み思案気に一度目を伏せてみせたのだった。



***



教皇らに呼び出され、その後夜も更けた暗い時間に部屋に戻ってきたキーラはムカムカと気持ちを荒げたままベッドに乗り上げた。


「婚姻遅れって……なんですの!!!」


ドスっと水鳥の羽の詰まった枕に一撃、キーラは右の鋭い拳を叩きつけた。


「聖女らに無理やり聖水を作らせたですって?!わたくし!そんなことしておりませんわ!!」


ボスッ!ドスッ!っと右左交互に枕へと拳を喰らわせながら「謹慎?!花園へ行くのを禁じる?!」そう言うと


「わたくし!」ドス!「もう!何年も!」ボス!ドス!

「花園になど!」

「降りて!」

「おりませんわぁーーーー!!!」


ちょわ―っと叫びながら枕を上空につき上げる様に拳を振るうと、憐れな枕は真ん中から裂けるようにして破れ、羽毛をあたりにまき散らした。


キーラとて、流石に聖女となったばかりの頃、先輩聖女らに連れられて花園に下りた事は何度かあった。だが、美々しい聖騎士らと、さらに何とも言えない空気感というか、聖域ではとても尊敬できる先輩聖女らが少し妙な雰囲気になってしまっているのを見るのが苦手で、結局その後キーラが花園に下りる事はなくなっていたのだ。


ーてか本当なんなんですのあれ?!教皇様ってあんな方々でしたの?!びっくりですわ!23歳でまだいたのかってもしかして聖女の年齢とか人数とか把握されておりませんの?!いえそれより謹慎の内容が部屋から出ない事でも無く!祈りの間への出入りを禁じるでもなく!『花園へ行くのを禁じる』ってはぁ?!意味が分かりませんわ!!なんですのそれ?!聖女はすべからく聖騎士様の愛がなければ生きていけない生き物判定でもされておりますの?!馬鹿?!馬鹿ですの??!それがこの聖教会を導く教皇様方の認識ですの???


「ー…聖騎士と結婚しなければ聖女にあらずの風潮。許すまじ」


キーラは頭から降り注いできた羽毛をかぶりながらギロリと意味も無くガンを飛ばした。その姿は東国に住むという山姥の如し。


「ヒイッ!!何?!なんですの!!」


その時部屋に戻って来た聖女コーラがその姿に悲鳴を上げ、キーラはハッと我に返った。


「コーラ様」

「キーラ様?!もう!恐ろしい姿でわたくしを驚かさないで下さる?!聖力が縮んでしまいますわ!!」

「申し訳ございません……」


別にコーラを驚かす為に頭から羽毛を被っていたわけではないのだが、キーラは自分の姿がもはやそんな風に人を恐れさせる状態なのかとちょっと凹んだ。


「まぁキーラ様は、聖女の聖力を奪う魔女のようなお方ですものね。皆さんそうおっしゃってましてよ?わたくしも先日の祈りの間のお話を聞いてふるえあがりましたわぁ」


キーラが凹んでいる隙に追い打ちをかけるかのようにコーラがわざとらしく自身を抱きしめ両腕を擦って見せた。ちなみにコーラはあの日、聖水を一本だけ作るとさっさと花園に下りてしまっていた為騒ぎの現場にはいなかったらしい。


「恐ろしいわ~!わたくし来年には適齢期だと思えばこそ、キーラ様と同室であっても我慢をしようと思っておりましたのに、もう無理ですわ~!わたくし寝ている隙にキーラ様に聖力を奪われないかともう恐ろしくて恐ろしくて!!」


「奪いませんわよ」


なんですのそれとキーラが半眼で返すと「まぁ怖い!!」と叫びながらコーラは洗面室に入って行った。


ーというか聖力を奪う??それに魔女ってなんですの?


キーラはコーラの話しに眉を潜めた。


魔女とは、魔獣などと同じ様に害成す邪悪な存在と認識されている人の姿をした魔物の事だ。昔は田舎の村などに現れて人を襲っていたらしいが、今は狩られつくしてもう存在しない魔物だ。因みに雄だろうと雌だろうと人型の魔物は全部魔女だ。


同僚である聖女からそんな魔女呼ばわり。キーラは諸々ひっくるめて、もうほとほと嫌になった。


「ほんっとに向いておりませんわ……」


キーラなりに真面目に誠実に聖女の仕事に向き合って来たつもりだったが、ここでの認識は真逆なのだ。別に誰かから評価されたいとかそういうつもりで仕事をしてきたわけではない。(…いえ嘘ですわ少しは思いますわ)でも大事な仕事だし選ばれたからには精一杯務めるのが当然と思ってやってきた。


でも


「これは真面目に、聖女というお仕事から離脱するべき時かもしれませんわね」


そう呟いてこぶしを握りフンっと天井を見上げて……「あら?」とふと気の抜けた声をあげた。


ー聖女のお仕事って……結婚以外でどうやってやめればよろしいのかしら?


今まで聖水が作れなくなると言われる25歳になればなんとなく聖域から出されるのだろうと勝手に妄想していたけれど、よくよく考えてみればキーラの知る限りそんな聖女は一人もいなかった。皆適齢期の20歳になれば聖騎士と結婚し、そうして聖域を出ていくのだ。


「あら?あらら??」


両頬に手をやってキーラは冷汗を浮かべる。


ーえ、もしかして聖騎士様との結婚以外の選択肢がない?ん、ですの??


「え?嘘?本当に?ーーえ?えぇ?」


キーラは導き出された結論に、サーっと血の気が引いていく思いがしたのだった。




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