46 無駄なことなど
『おぉ、なんとも無駄だったようだな?』
白珠が無ければ結局助けることは出来ないのだとグルニカは嗤った。
キーラは嘲笑するグルニカに構わず息を吐くともう一度グリワムに唇を重ねた。もう一度、もう一度
『やめろ。無駄だ』
「ッ!ーーはなして!!」
その腕を引き上げられ強引にグリワムから引きはがされたキーラは、痛みに顔を歪め乍らも滅茶苦茶に暴れた。
『あぁ、全く世話が焼ける。』
そう言うとグルニカは大きな腕をグリワムに向かって振り上げた
「やめて!!」
キーラが悲鳴を上げた瞬間、しかしその腕は光の壁に当たってバチっと弾かれた。
『何?』
ーえ
「ち、違うんですのよ!わたくし、こんな事するつもりはありませんでしたのよ!!」
「コーラ様?!」
キーラが叫ぶとコーラは「あぁあああもう!!!」と頭を掻きむしるようにして前に出るとグリワムの顔に手をあてた。
「聖水を飲ませたらすぐ逃げますからね!キーラ様は早くそいつから白珠を取り返すなりなんなりしてさっさとそれをなんとかしてくださいませ!!」
そう叫ぶとコーラは手のひらから聖水を生成しようとした。
しかし、そこから生成された聖水は、ほんの一滴ほどしかなかった。
「え」
ー燃料切れ?!!!
コーラはサーっと青ざめたが、それでもグリワムの唇をわずかに潤したそれは、体から流れる血を止め、上腕あたりまでの肉を盛り上げた。
『貴様!!』
「きゃ!!」
コーラは自分に伸びてきた腕にあっけなくからめとられてしまった。
「いやーーーーー!!!」
「コ、コーラ様おちついて!!」
「お、落ち着けるわけないでしょ?!馬鹿!?馬鹿ですの!!キーラ様のせいですわ!!馬鹿!馬鹿キーラ様!」
わめくコーラを引き上げたグルニカはその時ふと何かに気づき、壁の向こうにさらに多くの腕を向かわせた。
「きゃ!」
「いや!!」
するとそこから聖女達が引きずり出されたのだった。
「え?あんたたち?!転移したの?!!」
それは祈りの間に閉じ込められていた聖女らだった。コーラの後を追い、決死の覚悟で転移に挑んだであろう聖女達は皆、頬に涙のあとを刻んでいた。
「だ、だって、わたくし、あんな…しにたく、なかった」
「わ、わたくしも」
「う、うぅ…」
口々に震える声で答える聖女らにコーラは微妙な顔で眉を下げた。
「でも結局捕まってしまっては勇気の無駄使いでしたわね」
「いやーーー!!」
自分よりテンパっている存在がいれば人はなぜか冷静になれる事もある。泣き叫ぶ聖女達を見てもうコーラは半ば諦めて体の力を抜いた。
しかし
キーラは諦めてはいなかった。
「コーラ様!!皆様も!!白珠!持ってらっしゃいますか?!もしあればお貸しください!!」
「え?」
黒い腕につかまれたキーラがコーラ達に向かって腕を伸ばしているのに気が付いて聖女らはハッと顔を上げた。
『させるか!!』
意図に気が付いたグルニカが聖女らとキーラを引きはがすように腕を振り回した
「きゃあーーーー!!!」
「ヒィいいい!!!」
千切れんばかりに無茶苦茶に振り回され、聖女らは次々と抵抗の力を失っていった。それでもコーラはなんとか自分の白珠をキーラへと渡すべく腕を伸ばしたが、その距離は縮められなかった。
ーあぁ無理終わったぁ
コーラが意識を手放そうとしたその時、顔のすぐ横でボッっと火花が上がった。
驚いてコーラが視線を持ち上げると、その先に聖水瓶を持った聖女トティータや、その取り巻きの聖女らが立っているのがわかった。
「と、ティータ様?!」
「聖女キーラ!!受け取りなさい!!」
トティータはそう言って自身の白珠をキーラに投げてよこした。
『何!』
キーラはそれに飛びつくようにして受け取るとカッとそこに聖力を注ぎ込んだ
『ぬぁ!!』
強い光がグルニカを焼く。その瞬間、聖女らを捕まえていた拘束が緩み、キーラ達はドサドサと地面に落とされた。が、しかし、その白珠はキーラの聖力を受け止めきれなかったのかその一閃だけですぐに砕けて散ってしまった。
『く、はは、この…』
「次!!」
白珠が失われたと嗤ったグルニカは、だが後ろに腕を伸ばして叫んだキーラのその言葉に『は?』と頬を引きつらせた。
コーラがすぐにキーラに駆け寄って自分の白珠をサッと手渡した。
『お、おい、マテ』
コーラの白珠から強い光が放たれグルニカの上部を飛ばした
『イ、お』
「次!!」
「じゃんじゃん持ってきて!!」
コーラがそう言うと聖女らは自分の白珠をどんどんキーラに差し出した。目を回してした聖女らも何とか起き上がりキーラに白珠を差し出す。
『な、ギ!、い!!』
ボン!ボシュ!と一白珠一撃で次々とグルニカの体が吹き飛ばされていった。
そうしてその姿は人と変わらぬ大きさにまで削られた。
が、しかしその頃にはキーラの手にももう、聖女らの白珠は残っていなかった。
『は、はぁ、は、ハハはハ…どうや、ら手詰まりのヨウだなァ』
グルニカは最後のちからを奮い立たせだらりと伸びていた腕を広げた。
『オワリダ』
「貴様がな」
そう言ってキーラの横に並び立ったのは聖騎士グリワムだった。
「グ、リワムさま?!」
驚いたキーラは思わずグリワムを見上げ、さっきまで彼が倒れていた場所を振り返った。
そこにはツンと顎を上げて空の聖水瓶を握りしめて立つ聖女トティータがいた。
ートティータ…様!!
「聖女キーラ。ではともに討とう」
グリワムはそう言ってキーラに手を差し出してきた。
「え?ともに…?」
「あぁ、共に。あなたを守る力もない私だが、あなたと共に戦うことは出来る」
「まぁ…」
吹っ切れたようにそう言ったグリワムにキーラは目を丸くした
ーまぁまぁなんだか、なんだか
とっても
気持ちが昂ってまいりましたわ!!!
キーラはそう思いながらグリワムの手を握り前を向いた。白珠はなく、体はボロボロだったが、体内を力強く巡り出した聖力に、なんだかもう負ける気はしなくなっていた。
その姿は父や兄が巨大な魔獣と向き合うそれと全く同じ。それは紛れもなくナジェイラ騎士家の血だった。
「結局は筋肉こそ正義!!」
「は?」
「拳でわからせてやりますわ!!」
「え?キーラ様?」
「なるほど、確かに。剣も魔法も効かぬとなれば…拳か」
グリワムはそう言って、いつのまにか印されていたキーラの聖紋輝く左手を握り込んだ。
「待って。え?こぶし?え?は?どういう事?」
コーラや他の聖女達が唖然とする中、二人はグルニカにそのまま突っ込んでいった。
キーラの全身からあふれ出した光はその手に収束し、それはこの結末が向かう先を如実に物語っていたのだった。
ナジェイラ戦闘民族ww




