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44 ここで輝くクーマちゃん三連ぶれすれっと!!



パキンと

それは硬質な音を立てて粉々に砕け散った。


「は?」

「な」


大聖女と大教皇の顔が驚きに固まるのを目にして、キーラはこんな状況だというのに一瞬なんだか申し訳ない気持ちになった。一瞬だが。


キーラの胸元で黒い炎を吹き上げた聖十字のクロスは、その瞬間、キーラの白珠もろとも粉々に砕け散ったのだ。


「聖女キーラ!!」



状況を掴めず焦燥を募らせたグリワムの声に下方を向くと、黒い腕に体を掴まれながらも剣を突き立てこちらを見上げている姿に「大丈夫ですわ!!」とキーラは大声で返事を返した。


「…なんだ、どうした?枷と白珠まで砕けたのか…?馬鹿な…なぜだ?」

「宝珠がなければ力は制御できないはず」


大聖女と大教皇は目を剥いてキーラを凝視しているが、キーラはそれを見ながら


「えっと…実はあれはずいぶん前にヒビを入れてしまっておりまして…」と眉を下げた。

「はぁ?」

「わたくしの白珠はこちらですの」


そう言ってキーラは胸元から小袋を取り出すとペイっと袋を放り投げ、ひっつかんでいたクーマちゃん三連ぶれすれっとを掲げた。



それは

強烈な光を放ち異形の大聖女を

焼いた



「ぎゃぁああああああああああああ!!!」



ぎゅわぁああああと光が黒い巨体に無数の穴を空け、煙を吹きあがらせる。その衝撃で大教皇の顔は吹き飛び、キーラやグリワムを拘束していた腕の力が緩んだ


「あ」


その直後キーラは宙に放り投げられる形になり、その一瞬の浮遊感からの垂直落下に「ヒィイ」っと戦慄したが、すぐにガシっと危なげなくグリワムに受け止められた。


「聖女キーラ」

「あ、ぐりわむさま…あ、ありがとう、存じます」


一瞬の恐怖に鳥肌を立てたままそう言うとキーラは地面に足をつけた。


「いや、それよりこれは…」

「クーマちゃん三連ぶれすれっとですわ。私の白珠(仮)ですの」


そう言って悶える異形をバックにキーラがチープでゴツゴツしたブレスレットを提示すると、グリワムはその輝きに目を瞠った。


「…なんという…」


「あ、そうだわえっと。このことは一応内密にしていただけます?」

「あ、あぁ、もちろんだ…。内密にしよう。聖女キーラ」

「よかったですわ」


とりあえず、もともとの白珠にヒビを入れてしまっていた真実を口止め出来た事に、キーラほっと表情を緩めた。



「あぁあ゛あ゛あぁあああ゛!!!!」


「それにしても…聖力が嫌なんですのね」


激しく見悶える大聖女グルニカを見ながらキーラが言うとグリワムも「そのようだ」と距離を取った。


「大聖女なのに」

「いや。これは聖女の系譜ではないだろう。おそらくそれに憑りついた魔女こそ本体…」

「まぁ」

「とりあえず滅ぼそうと思う。聖女キーラ、申し訳ないがあなたの聖力を使っていただきたい」


そう言うとグリワムはキーラの手を取りエスコートするように優しく掴んだ。そんな仕草にキーラはむぎゅっと眉を寄せた。


「?」

「あ、いえ。はい。大丈夫ですわ」


ーさっきの…いとしいおとことかなんとかがこんなところで効いてきますわ


キーラは極力何も考えないように心を無にしてクーマちゃん三連ぶれすれっとをグルニカに掲げた。

そこに貯められた聖力がぐるぐると渦を巻き、もう一度自分の体を通って激しく循環する。その渦が回転する過程でさらに力が湧き出るような感覚がキーラを包む。


キーラの全身が激しく輝きビリビリと周りが震えるほどの聖力が迸った。それがグルニカに向かって放出されようとしたとき


『やめて!!』


と女性の声があたりに響いた。


「え?」


息も絶え絶えのグルニカから上半身を出してキーラに訴える女性は、あの暗闇でキーラに逃げろと言ったあの女性の姿だった。


『だめ!それ以上地の力を引き出しては!この国が崩壊してしまう!』


「はい?!」

「何?」


『聖力とは地の力…聖女とはこの大陸にある地の力を聖水に変える者のこと』

「え?」


その言葉にキーラは思わず体の力を抜いてしまった。


瞬間


ドンとものすごい衝撃を体に受けてキーラは後方に吹き飛んだ。



「かっ、は」



キーラは奥にあった建物横の壁に体を叩きつけられて肺から空気とともに血を吐き出した。



『…あぁなんと愚かなおんなだ』


ーいた…何、体中、痛い


キーラはガラリと背中側の石壁が崩れる感触を感じながらもそこを支えになんとか上体を動かした。顔を持ち上げ声がする方に視線を向けると、崩れた体を震わせながらも先ほどの優し気な女性体のまま上半身を持ち上げ傲慢にキーラを見下ろすグルニカの姿が見えた。


その下方にはキーラの手から転がり落ちたクーマちゃん三連ぶれすれっとがあった。キーラの手から離れても強い光を放つそれにキーラは手を伸ばしたが、それはグルニカの体から生えた大量の白い手が、包み込むようにして飲み込んでしまった。


「…え」


『ふぅ、やれやれ…まったくこれほどてこずるとは思わなんだわ』


そう言いながらグルニカはずるずると体を伸ばし動けないキーラに近づくとその身を掴んだ。


「いッ」

『おぉよしよし、すぐに楽にしてやる…』


強い力に苦悶の表情を浮かべたキーラを見て嗤うグルニカの顔に、フッと影がかかった

”あ”とキーラが声を漏らす間もなく、グリワムの剣と魔法がその視界をかすめ放たれた。


しかしそれはグルニカに触れる寸前空間を歪めるようにして不自然に曲がって逸らされた。


ー…だめ


キーラは目をすがめ、激痛に苛まれ碌に動かない体でただそのシーンを眺める事しか出来なかった。



*****



聖女キーラが吹き飛ばされ

グルニカが彼女のその身を掴んだ瞬間


グリワムは体内に残るありったけの魔力を放出し飛び出した。


「聖女キーラ!!」


体が軋み

ブチブチと血管がちぎれ飛ぶ音が脳内に響くがそんなことは構わなかった。


魔力は弾かれ

斬撃は逸らされる


それでもグリワムはキーラに伸びるそれを止める。それだけを指針に技を繰り出し続けた。



相手は傷つき弱っている

止めるな

止まるな

攻撃し続けろ


それがだめなら


「ダ、メ…ぐりわむさま」


自分の血流の音しか聞こえない暴風の中で、聖女キーラの小さな呟きが聞こえたような気がしたがグリワムは止まらなかった。



ー聖女の聖紋の”呪い”は解除されていたと思っていたが…


荒れ狂う嵐の目のように攻撃を仕掛けながら、他人事のようにグリワムはそう思考し


ーいや、そうではない

と、言葉を閉じた。



あらゆる角度で剣を振るい、魔法を繰り出しながら、切り離されたような感覚で自分自身と、そして聖女キーラを見つめた。



聖女キーラ

その力に捕らわれたときまるで呪いのようだと思った。



ー彼女に対してなんの感情も持っていなかったというのに口づけ一つで心が侵されたと…。


だが本当にそうだったのか?

こうなる前に少しも彼女を好ましいとは思わなかったのか?ー



ーいいや…


そのつつましさに

その異質さに

探るほど現れる勤勉さに

寛容さに

なにものにも動じない胆力に

前向きな力に


いつしか惹かれていたと


そして

失いたくないと


そう感じていたのだと、ことにここに至ってやっと気が付くとは



ー愚かだ…



失うなど許されないとグリワムの中で感情と理性が飽和する。

彼女は

俺の聖女なのだと


グリワムは剣を掲げた


その剣がグルニカに突き立てられ

キーラが目を瞠った


しかし

その瞬間、その剣は四方に砕けはじけ飛んだ。


『どけ』


「ぐりわむ、さま!」



かなわないなら


それがだめなら


わが身を惜しむべきではない



剣を失ったグリワムは雄たけびを上げ体を反転させると至近距離から残るすべての魔力を一つにしグルニカへと打ち込んだ。



*****



「グ…グリワム…様?」


ボタボタと赤い血がキーラの頬に垂れてきた。グルニカに胸を貫かれたときとは違う大量の血液。



グリワムの血。



グリワムと相打つ形ではじけ飛んだグルニカの一部が遠くにドシャっと落ちた音が聞こえた。


「…グリワム様」


震える声でキーラが呼びかけると、グリワムは唇の端をほんのわずかに持ち上げて笑った。その上半身は右肩から先が奇麗に失くなっていた。


「ぐ、ぐりわむ様」


どうして

どうしてとキーラは唇をわななかせた。


自分は…つよいのだ


聖力がつよいから

こんな風だが多分まだまだ耐えられた。


クーマちゃんが無くても地のちから…をなんとか使って

大丈夫

たぶん耐えられたのだ。まだまだ自分は耐えられたのだ

時間をかければきっとなんとかなった


でもグリワムは違う

そんな大けがをしても

今は直せないのだ


白珠がない


クーマちゃんがないと

上手く聖力が使えないのだ


わたくしの体から力が外に出ていかないの

聖水にならない


そんな大けが

間に合わない

今すぐ直せない

そうしたら

こんどこそ

今度こそ



しんでしまうではないか



「…聖女キーラ…」


グリワムは静かな目でキーラを見下ろしながら「ひっ、ひっ」と目を見開き喉を詰まらせ震えるキーラの頬を優しくなでた。


「…すまない。」

「ふっ、うっ、」


「俺は、あなたの聖騎士だというのに…情けないが、それでも…少しは、守る気分を味わえ、た」


そう言って皮肉気に笑ったグリワムにキーラはぐしゃぐしゃの顔で見上げた


「グ、グリワム様は、弱いんですわ…わた、くしより、きっと、よわい、んですわ…」

「あぁ…」


「わた、くし、聖力がとっても強い、から、大丈夫でした、の…に」

「あぁ…」


「でも、そんな、怪我…いま、今、なおせませんわ…いま、白珠が…なくって…だから、わたくし、だから…」

「あぁ」


グリワムの目に、キーラのぐしゃぐしゃの顔が映っているのに、その瞳からどんどん光が薄れていき、うつろになっていくのがわかった。


「…い、いや!いやです…!!だめです、ぐりわむさま…っだめ!!」


キーラは手を伸ばしグリワムの傷口に必死で手をあてた、なんとか聖水を生成しようとがむしゃらに聖力をためようとするが、キーラの内でそれは弱々しく回転するだけだった。


『は、はははは』


その時グルニカの声が耳障りに響いてキーラの気持ちを逆なでした。


「なんなんですのッ!!おまえ!!なんなんですの!!」


『大聖女よ。さぁ、もういいだろう?決断しろ。そのおとこの命まだ間に合うぞ』

「…え」


『あいするおとこの為だ。さぁ、今こそその身を差し出せ』



再び囁かれたその言葉。

それを今、キーラは不思議なほど静かに聞いた。


ーあぁ、そうか


キーラはその言葉を受け入れた。


「わかりましたわ…」




メリークリスマス!

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