21 コーラ様のお勧め
そんなわけでキーラは昼前にコーラに引きずられるようにして花園にやってきていた。
もちろん今日も午前中の聖水ノルマを果たして、昼に花園へ降りていくつもでいたキーラだったが、朝一で誰よりも早く聖水を一本生成したコーラが「さ!行きますわよキーラ様!」とキーラを引っ張り出したのだ。
「だいたい昼にのこのこ花園へ降りて行っても聖騎士の方々はすでに皆様聖女についてしまってますわ!戦いは朝から始まっておりますのよ!!」
「戦い…」
「とりあえず花の宮ですわ!!」
そういうとコーラはキーラを連れて花の宮へと入っていった。
ーそういえば婚活を決意してから久しぶりに花園へ降りてきたときもまずは花の宮へと考えておりましたわ…そこは今もやっぱり変わってはおりませんのね…
キーラはそんな風に思いながら花の宮の大きなホールを見回す。円形の広い室内には何人もの聖騎士が意中の聖女を待ち構えているようだった。そのうちの二人の聖騎士がこちらに気が付くとぱっと顔を上げて近づいてきた。
「聖女コーラ様!」
「数日ぶりではないですか!お会いしたかった!」
「ドロワン様、ムノー様!よかった!いらっしゃったのね!!」
にこやかに笑みを浮かべる二人の聖騎士にコーラも笑顔を作った。二人は肩章が金色をしているので彼らがコーラお勧めの金級の聖騎士ということなのだろう。年のころは20代後半か30代初めくらいだろうか?ほかの聖騎士たちと比べると幾分年かさに見える。
しばらく三人で楽しそうに会話をしていたが相手の聖騎士がちらりとこちらに視線をよこした。
「コーラ様、こちらの方は?」
「あぁ、そうそう、お二人にご紹介したかったんですの!こちら聖女キーラ様ですわ。わたくしの大先輩ですのよ」
そうコーラが紹介すると二人は「え?」と顔をこわばらせたがキーラは構わずフードを外して「はじめまして。聖騎士ドロワン様、聖騎士ムノー様。わたくし聖女キーラと申します」とひざを折って見せた。
「あ、あぁ…ぅわひ!」
ーまぁこの方、今「うわひ」って言いましたわ…
紹介されフードを取り丁寧に礼をしたキーラの顔を正面から見た聖騎士が上げた声に、キーラは半眼になりそうになったが、いや、ある意味これは普通の反応だとこほんと小さく咳払いをして笑みを作った。すると横にいたもう一人の聖騎士が「ァヒィン!」と小さな悲鳴を上げた。
ー初めて親に山菜取りに連れていかれた幼子が突然現れた魔獣を見て出す声ですわね。
完全に出会ってはいけない者どうしの空気感をお互い感じていたが、コーラだけはその空気をぶった切ってにこやかに話をすすめた。
「…聖女キーラ様はずっと聖域にこもっておられたのですが、この度聖騎士様との縁を求めて花園に通われることにしたんですって!ほら、お二人ともこの花園には長くいすぎてしまった。そろそろ本気で運命の方を探したいっておっしゃっておられたでしょう?」
「あ、いや、それは…」
「それは、我々はコーラ様に…」
「それでわたくし思いましたの!キーラ様ならぴったりなんじゃないかって!!」
「……」
ーうん。そうですわね。コーラ様はこういう方でしたわね。
ぜんぜんぴったりではない地獄の空気をものともせずに笑うコーラにキーラは笑顔を張り付けたまま投げやりに思ったのだった。
***
「…というわけで、わたくしは…」
「はぁ、まぁ、ソーデスカー…」
「大変だねー…」
あれからコーラは2人の金級聖騎士とキーラを置いて、早々にコカソリュンの館に向かって行ってしまった。キーラもコカソリュンの方々にご挨拶を…と、一緒に行こうとしたが「大丈夫ですわ!わたくしからお伝えしておきますので安心なさって!」とコーラに強引に押しきられ、結局ここに残された。
キーラは全く自分が歓迎されていない空気に若干くじけそうにはなったが、いや、もともと聖騎士様との婚活は茨の道との覚悟を決めていたはず!と、気をとり直し、精一杯気を使って2人に話しかけていた。が、会話はまったく弾まず、場は冷めきっていた。
ーこれは…もう、全然だめですわ…
流石にキーラもいたたまれなくなってきて、話を止めた。
花の宮のホール内にある隅のソファに座っていろいろと会話を仕掛けてみたが、二人にそもそもキーラとかかわろうとする気がまったく見られなかった。ただ聖騎士としての義務でぎりぎり聖女に付き合ってやっているだけという感じだ。
ーこうしてみると、タルスル様やソリティオ様ノドム様は、こんなわたくしにもきちんと対応してくださっておられたのだとしみじみ思いますわね……それにグリワム様やトティータ様の聖騎士の方々も……
ー美しすぎてしんどいとか…そんな風に思っていた自分がちょっと恥ずかしいですわ…
キーラはしょんぼりして顔を伏せると「うぉ、」「怖ぇ」と二人の呟きが聞こえてきてさらにへこんだ。
気づけば周りにあれほどいた聖騎士はほぼいなくなっていた。ぞくぞくと聖女が花園へ降りてくるのに合わせて、彼らも聖女を出迎えたり、意中の聖女のもとへ向かったりして花の宮から出て行ったのだろう。
時間的には多分鐘半分もたってはいなかったがキーラはふぅっと小さく息を吐いて立ち上がった。
「ん?」
「なんだ?」
「ドロワン様、ムノー様、わたくしの話にお付き合いくださってありがとうございました。楽しい時間を過ごすことができましたわ」
キーラがそう言って挨拶をすると2人は呆けた顔をしたがすぐに「へ?あ、あぁ…」とか「さようですか。」とこの時間の終わりを悟ってぬるい笑みを浮かべた。
「わたくしはもう聖域に戻りますわ。」
「あぁ、はい。そうですか。」
「いやどうも。お気をつけて」
「えぇ失礼いたします」
キーラが挨拶をしても二人はソファーから立ち上がることもなくへらへらと片手を上げただけだった。
ーお互いの時間を無駄にしただけでしたわね……
聖域へ戻る道を一人歩きながらキーラは小さくため息をついた。この時間になると花園へ降りてくる聖女ももういないのか周りには誰もいなかった。
ー聖水ノルマも全然果たせておりませんし…今日はもう聖水だけ作って休みたいですわね…なんだかとても疲れましたわ。
無心で聖水を大量生産している方がよっぽど楽だったと思いながら大きな葉陰を作っている樹木のそばを通り過ぎようとしたとき、フワッと誰かに腕を引かれてキーラはよろめいた。
「え?」
そのままぐっと強い力で後方に引き付けられたかと思えば視界がぐにゃっと一瞬ゆがんだ気がして、キーラが軽いめまいを覚えた次の瞬間、背中にドンと衝撃を感じた。
ー何?
痛みはなかったがその衝撃に反射的に目をつむり、そうしてキーラがおそるおそる瞼を持ちあげてみると、目の前でキーラでも思わずのけぞる美貌が自分を見下ろしていたのだった。
ーヒィ!!
なめらかな肌、つややかな黒髪、鼻筋の通った美しい造形、影のできるほど長いまつげと宝石のような濃紺の瞳
「グ…グリワム様…?」
今代最高の聖騎士と謳われ黒銀の聖騎士とも呼ばれ、また今代最高の聖女と目される美しき聖女トティータ=シュールベルトの意中の聖騎士、大国コカソリュン帝国のグリワム=オーダナイブに今、なぜか、キーラは壁にドンとかされていたのだった。
壁にドン…(*ノωノ)




