14 68番目の聖女
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「午後は乗馬など如何ですかトティータ様。素晴らしい白馬が国から届いたのです」
「白馬が?」
「えぇ、我が国プエルナは名馬の産出地でもありますから。トティータ様に相応しい馬をいつかお贈りしたいと思っていたのです」
「まぁ、嬉しいですわスカビナ様」
トティータと紫級プエルナ国の聖騎士スカビナの会話を見守りながらグリワムはカトラリーをそろえると、ナフキンで口元を拭った。
今日は聖騎士序列5位の国プルエナ国舘でトティータらは昼食をとっていた。先日の聖域での事件以来各国のトティータへのアピールは日々熱を帯びたものになっていたが、それでも年が変われば20歳。適齢期になるトティータの求愛対象はすでにほぼ固定されていて、聖騎士はグリワムを入れての5名となっていた。その内二名はコカソリュン帝国の銀級の聖騎士グリワムとオローワ。残りは序列3位銅級ボナロアン王国のジークライト、序列9位緑級ハポナ国のスズク、そしてこのスカビナだった。
プエルナ国の名馬は一級品。それでもって聖アリミア教国への影響力を高め、聖騎士の序列を5位に上げているといってもいいほどのものだった。だがそれを聖女個人へ贈るというのは今までもそう例がない事だったろう。
聖女トティータの求愛対象であるスカビナの価値を上げて、なんとか自国へと引きずり込みたい意図が露骨だが、トティータ個人へのアピールとしてはそこまでインパクトのあるものといえるかはどうかは微妙だとグリワムは考えていた。
ーせめて意匠を凝らした馬具に乗馬用の衣服も誂えて差し出せればよかっただろうが…
グリワムは馬以外の贈り物が用意されていない時点で、スカビナのアピールはそこまで響かないだろうと考えていた。
聖女トティータは他の聖女と違い大公家、つまり高位貴族家出身の聖女だ。贅沢なもの、華やかなもの、価値の高いものは見慣れた生活を送ってきた為、それらをただ贈れば関心が得られるというわけにはいかないのが、今までの聖女攻略とは勝手が違うところだった。トティータ自身の関心事にもっと踏み込み上手く立ち回れなければ求愛以上のものを得るのは難しい。
そう考えていたグリワムに、その時後ろから静かに近づいて来る影があった。
コカソリュン帝国の影子である黒のフードに銀の縁取りのついた服を纏った者が、聖女と聖騎士の昼食を邪魔しないように注意を払いながらそっとグリワムに近づき耳打ちをした。影子は自国の聖騎士の聖女攻略の補助にもあたっていた為この光景自体は花園内でとりたてて違和感のある行いでは無かった。
だがグリワムは影子のささやいた言葉に一瞬わずかに目を瞠ったのだった。
「どうかされましたか?グリワム殿」
グリワムの横に座っていたボナロアン王国銅級の聖騎士ジークライトが目ざとくその様子に気が付き穏やかに問いかけて来た。
ジークライトのカップを持つ右手の甲にはトティータの印した聖紋が浮かんでいる。彼はグリワムが来るまでトティータの求愛を一身に受けていた聖騎士だった。優し気な美貌を持ち聖女らの人気は非常に高い人物だ。
だがグリワムが聖騎士となってやって来た為その人気も銅級と同じ三番手に甘んじているのが現状だ。だがそもそも聖女トティータはこのアリミア教国の大聖女となるのだとグリワムが入教してきた当初から噂され、その為聖女トティータの求婚相手は金級の聖騎士であるサルート=オワーワが内定していると言われていた。それにも関わらずこのジークライトは聖女トティータから離れなかった。単に聖女トティータの聖力を得る為だと言われればそうなのかもしれないが、笑顔の下で何を考えているかうかがい知れないしたたかさももっている騎士だった。それでもそんな感情は一切面に出さないジークライトはある意味非常に洗練された聖騎士らしい聖騎士だった。
「ジークライト殿。いえ大したことはなにも」
「そうですか。移るならいに花風といった風情でおいででしたよ?」
腰まで伸ばした淡い水色の長髪をさらりと揺らし柔和な笑みを浮かべるジークライトに「そのような顔をしておりましたか?」と同じように笑みを返しながら、その目ざとさに内心で舌打ちしつつ、グリワムは今受けた影子の報告にそっと眉をひそめた。
『先ほど、新たに聖女様が花園へと降りてこられました』
聖域と花園を繋ぐ回廊の庭に置いていた影子からの報告だったが、それは聖域から聖女が花園に入ったというだけの話しだった。だがこの昼食時に花園に降りている聖女の数をグリワムは把握している。
67人だ。
それは最近まで現在聖域で暮らす聖女の合計人数だと思われていた数だ。だがそうではなかったと今は知っている。67人ではなく68人目の聖女が存在することを。
キーラ=ナジェイラ。
彼女が花園に降りて来たのだ。
ーさてどうしたものか
今すぐ席を立ち確認に向いたいが、聖女トティータの前でそんな事をするわけにはいかない。
ー昼食事に降りてきたと言う事は午後はここで過すという事か?…とりあえず動ける銀級の聖騎士を付けさせて様子を見るか……
そう思い乍ら影子に指示を出そうとした矢先「それでしたら見にうかがいますわ」とトティータの声が響いた。
「お食事はもう宜しいのですか?」
「えぇ、最近は美食の猛攻に屈してしまいそうなんですもの。皆さまがわたくしをボアのような肉付きにしてしまおうと画策されておられるのではないかしら?なんて、疑っておりますのよ」
銀級の聖騎士オローワの言葉にそうトティータが茶目っ気たっぷりに答えれば、聖騎士らの楽し気な笑い声がその場に響いた。
「ですがどのようなお姿でもトティータ様の魅力は損なわれません。たとえボアのような肉付きでも私はトティータ様への求愛を諦める事はないでしょう」
しかし緑級の聖騎士スズクがそう発言すると、一瞬トティータの動きが笑顔のままに止まった。
「あら、そう」
そして冷たくそう言うと、トティータは立ち上がり「では参りましょう。白馬は何処に繋いでおりますの?スカビナ様」とグリワムにエスコートの手をスッと差し出す。
そうしてそのまま聖騎士スズクを無視するように、スカビナを先頭にジークライトを横に、オローワを後ろに、グリワムのエスコートを受けながらトティータが部屋を出て行こうとするので、スズクは慌てて「トティータ様?」とその後姿に追いすがった。
「どうされたのですか?私もお供いたします」
そう言ってスズクがオローワの横に立つと、トティータは視線だけちらりと後ろに向けてスズクを見た。
「……スズク様は、わたくしがボアのような醜い姿になると本気で思っていらっしゃったのかしら?」
「え?いえ、そんな…私は」
「先ほどのお言葉にわたくし傷付きましたわ。今日はもうお帰りになってスズク様。」
「トティータ様!!」
それ以上スズクに言う事はないとばかりにトティータは四人を引き連れて部屋を出て行った。グリワムらはスズクを振り返る事なくトティータに付きそう。勝手に自滅した聖騎士に注意を払うものなどここにはいなかった。
ープルエナの舘から馬を繋いでおけるような場所へ行くのなら…花の宮の傍を通るな
上手く行けば聖女キーラを確認できるかもしれないと、グリワムはトティータをエスコートしながら考えていた。




