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13 花園へ降りてきた奇妙な者



聖アルミア教国金級の聖騎士、ゴダールは、その日花園で奇妙なものを発見した。


ーなんだ?あれは?


ここは聖女と聖騎士が交流する場所「花園」。


最初その奇妙な者を見た時、ゴダールは影子の一人かと思った。


影子とはこの花園内に存在する下人で、花園内の設備管理や雑用等をメインで行いつつ、聖騎士と聖女の交流を円滑に進められるように、世話係として聖騎士を派遣する13の国が用意している者達のことだ。


だがゴダールの視線の先にいるその者はコソコソとしてはいるが聖女や聖騎士が歩く本道を歩き施設の中央へ向かって真っすぐに進んでいた。影子はその呼び名の通りこの花園内で目立たず影のように立ち振る舞っている。その為影子にしてはその者の態度はおかしいように思えた。


背格好は小柄な女性。頭から白いフードを被っていて顔は見えない。


影子も頭からフードを被っているが、その色は黒でぞれぞれの属する聖騎士の階級色が縁に施されている。白色のフードはこの聖教会の教会員が纏うものだが、教会員は花園には立ち入らない。


ーまさか聖女か?


ゴダールは白いフードをかぶった人物の歩いて来た方向を見た。そちらは聖女の暮らす聖域への扉がある。


しかし、今は昼食の時間だ。どの聖女も花園内で自分の聖紋を印したお気に入りの聖騎士に囲まれ、優雅な昼食を楽しんでいる。そもそも聖女はフードなどかぶらない。はずだ。


だがそう思い乍らゴダールは自身の左手の甲をちらりと見た。


ゴダールの手には今現在聖紋が印されておらず、目当ての聖女から冷たくあしらわれ昼食会にも顔を出せない状態でいたのだった。そんな中一人でいる聖女(かもしれない者)を発見したのだ。これはチャンスかもしれないとゴダールは思った。


この花園には多くの聖騎士がいる。しかし聖女の数はその1/3以下だ。そのため聖女の求愛、求婚を得るために聖騎士らは皆必死で聖女に取り入っている。ゴダールら金級の聖騎士も勿論そこに追随してはいるがそれは今ひとつ上手くいってはいなかった。


そもそも聖アルミア教国の聖騎士である金級のゴダールらはこの聖騎士システムに大きな不満を持っていた。


”聖女はもともと我が教国のもの。それを聖騎士制度などというものでかすめ取られるのも業腹だが、それ以上に他国の男にほいほいとなびく聖女もどうかしている。最上位の金級の聖騎士である我ら聖アルミア教国の聖騎士こそ本来はまず聖女を得るべき存在なのだ。”と。


しかしゴダールらがいくらそう思っていようとも、この花園内ではあくまで聖騎士は聖女に選ばれる存在だ。不本意だろうが何だろうが、選ばれる努力をしなけらばならない。各国選りすぐりの聖騎士らを相手に聖女へ取り入るのは非常に骨が折れた。


ー腹は立つがここに居る限りは仕方がない。聖女にとにかく顔を売り世辞を並べ媚びへつらう。花や菓子、宝石などで気を引き多少強引な手を使ってでも求愛の口づけを奪えればまずは第一段階。それでも他国の聖騎士がいれば動きにくいことこの上ないが、こんな昼時に取り巻きを一人もつれずにフラフラ出歩いている聖女だ、上手くやれば我々金級で囲い込むことも出来るかもしれない。


そう考えながらゴダールはその聖女らしき人物に大胆に近づいた。


「聖女様、如何されましたか?」


そう声をかけると、びくりとその人物は肩を跳ねさせたが、そのまま振りむいた。だがその姿を見てゴダールは途端に顔をひきつらせた。


ーなんだこれは


目深にかぶったフードからはバサバサの白髪が飛び出ていて、それが痩せすぎの頬や首元を縁取っている。胸元で握りしめられた手も筋張っており、まさしく老婆のような見た目をした女がそこにはいた。


「貴様教会員か?何故ここに入って来た」


その姿はとても聖女と思えるようなものでは無く、ゴダールは蔑んだ視線のまま詰問したのだった。



***



キーラはここ数日いろいろと考え悩んでいたが、いい加減頭の中だけで唸っているのが嫌になり、とにかく一度花園へ降りてみようと今朝心に決めたのだった。


行動あるのみである。


午前中いつもよりペースを上げて聖水を生成し、昼食を少し早めにとる事にして時間を調整し、キーラは一人花園へと向かった。


ーふひぃん…緊張しますわ…


聖域から花園へと降りていく階段を慎重に歩きながら、キーラはフードの上から星十字のクロスを握りしめ若干猫背になりつつおっかなびっくり数年ぶりに花園へと入って行った。


午後の日差しが天中から明るく降り注ぐ回廊には、美しく植えられた花々が明るい景色を彩っていた。その花々の向こうにはいくつかの建物が見えるていたが、キーラは進行方向上にある円形の建物へと向かっていた。


その建物はたしか花の宮と呼ばれ、そこへ行けば何人か控えている聖騎士がいたはずだ。とキーラはかつての記憶を頼りに進んでいたのだった。


ー中に入ればホールがあって、そこで聖騎士の方々が何人かソファに座って聖女を待っていた。はず……。とにかくそこで聖騎士の方とお会いして面談を……


「聖女様、如何されましたか?」


その時突然至近距離で声を掛けられ、キーラは驚いて「ヒィ」っと息を吸い込んだ。


ーな、何?誰?!


そのまま振り返るとすぐ側にさわやかな笑みを浮かべた聖騎士が立っていた。が、その顔がキーラの姿を正面からとらえた瞬間露骨に蔑んだものに変わった。


「…貴様教会員か?何故ここに入って来た」


ーですわよね。


花の宮に行く前に聖騎士と出会ったことに驚いたが、教会員と勘違いされた詰問はキーラ的にあるある問答。というか予想通りだったので、とにかく落ち着いて対応しようと、キーラは緊張感を押し込めて背筋を心もち伸ばしてみせた。


「聖騎士様。わたくしは教会員ではございません。キーラ=ナジェイラと申します。聖女ですわ。」

そう言うとその聖騎士は「はぁ?」と間抜けな声を上げた。


「こちらをご覧ください…聖十字のクロスもちゃんとありますでしょ?」そう言いながらフードの胸元を探り聖女のみ身に着ける事の出来るクロスを取り出して見せるとその聖騎士は変な顔をした。


「聖女…?これが…?」


ーちょっと聞こえてますわよ!!


キーラは”これが”呼ばわりに若干凹みつつ目の前の聖騎士を確認した。聖騎士らしい整った顔をした騎士だ。聖騎士にしてはまだ若そうだが18歳くらいだろうか?肩章が金色なので自国の聖騎士なのだなと思いながら、明らかにキーラの見た目に引いているこの聖騎士と契約するのは難しそうだと内心で頷いた。


ーやはり聖女は見た目いのち。でもこればかりはいかんともしがたいですわ……


そんな風に現状を噛み締めていると、「キーラ様?!」と驚いた声で名前を呼ばれ、キーラはその方向へ顔を向けた。その先には数人の聖騎士を引き連れ回廊の向こうで立ち止まってこちらを見ていた聖女トティータがいた。


「トティータ様?」

「えぇ?本当にキーラ様ですの?まぁ何故ここに?」


可憐な顔を驚きに染めて近づいて来るトティータに、キーラはなんだか少し恥ずかしい気持ちになって

「その…」と口籠った。


「わたくしキーラ様が花園にいらっしゃるのを初めてお見掛けいたしましたわ。どういった風のふきまわしですの?」


フフっと可愛らしく笑うトティータに『いいかげん聖女を辞めたくなりましたので仕方なく婚活しにまいりましたの』などと言えるわけもなく「えっと…」とキーラは頬に手をあてた。


「トティータ様。こちらの聖女様は?」


その時トティータの側にいた聖騎士の言葉が聞こえ、それにつられるようにキーラは其方へと視線を向けた。


ーうッ!


そこには飛びぬけて美しい聖騎士が此方を見ながら笑みを浮かべ立っていたのだった。


ーヒぇ。なにこれこわい。


突然美しいものを目にすると人は恐怖を感じるのかもしれない。キーラは無意識に鼻の頭に皺を寄せて僅かに顔をそむけたが、周りの意識はトティータとその聖騎士に向いていた為、そんなキーラの表情が見とがめられる事は無かった。その聖騎士以外には。


「聖女キーラ様ですわグリワム様。わたくしの3つ上の大先輩の聖女様ですのよ」


トティータがにこやかにキーラを紹介すると、周りの聖騎士らはざわりと騒めき、最初に声をかけてきた金級の聖騎士などは露骨に顔を歪めてみせたことにキーラは気が付いた。


ーあら?なにかしら?


容姿で不快感を示されるのはある程度覚悟していたが、今のトティータの紹介でなにか顔を歪められるような事があっただろうか?とキーラは首を捻った。


「トティータ様、キーラ様にご挨拶をさせて頂いても構いませんでしょうか?」

「え?」


キーラが何だろうと考えていると、手前にいた例の黒髪の美し過ぎる聖騎士がトティータにそう言って笑みを見せていた。トティータは驚いたようだったが「え、えぇ…かまいませんわ」とかるく頷き了承した。


キーラが立ち尽くしているとその聖騎士が側に近づき、すっと腰をかがめキーラの前に片膝をついた。そのまま顔を上げ夕闇を思わせる深い藍色の目でキーラを見つめると「聖女キーラ様」と薄く形のいい唇を動かした。


「コカソリュン帝国の聖騎士グリワム=オーダナイブと申します。お目にかかることができて光栄です。」


と、そのグリワムと名乗る聖騎士はキーラの痩せすぎた手を取り、そっとその甲に口づけたのだった。




やっと二人の初顔合わせが…

明日と明後日、12時と21時の2話投稿がんばります!ブクマや評価、リアクションいただけたらめちゃ嬉しいです!ほんとうに

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