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1 わたくしこのお仕事向いておりませんわ!

よろしくお願いします



聖アルミア教国には聖女と呼ばれる女性達が存在する。


彼女たちは3歳になる頃教会で「聖女の雫」と呼ばれる白珠を渡されそれが光を放てば聖女であると定められる。15歳になるまでその白珠を肌身離さず身につけ聖力をそこへ注ぎながら成長する事を求められ、そうして15歳になると聖教会に入り聖女の仕事を任せられるのだった。


聖女の仕事は15歳までに聖力を注ぎ込んだ白珠を媒介にして聖水を作り出す事。その聖水は神薬とも呼ばれあらゆるものを癒すのだった。



*****



ー…なんというか…わたくし。このお仕事やっぱり向いておりませんわ!!


キーラは今しがた生成したばかりの聖水を詰めた小瓶を見つめ、そして周りに視線を向けた。時刻はすでに裏時を告げるイススの1の鐘(午前9時)が鳴ってしばらく経ち、表時のアンジュの2の鐘(正午)が鳴る前。本来は多くの聖女達が祈るようにして聖水を生成しているはずのこの祈りの間には今、キーラしか居なかった。そのありさまにキーラは聖女らしからぬ疲れたため息を吐き出した。


ーいけませんわね。一度気になるとずっと気になってしまうんですもの…


そんなことを思いながらも作り終えた聖水を箱の中に納め、その隣にある箱の中から新たな聖水を入れるための空瓶をスッと取り出す。その動作は慣れたもので、些細な動きからもキーラの日々の業務練度の高さを窺わせた。


3歳で誉ある聖女として白魂を光らせてしまったからには、しっかりお勤めしなければならないと、家族からも言い含められ15歳まで育てられてきた。そうして15歳になりめでたく聖女としてこの聖教会に入教してから、キーラは精一杯聖水の生成に努めてきた。


そう、この仕事自体に文句があるわけではない。むしろキーラは誇りをもって聖女の職務にあたっているといえる。


ーとはいえ向いていないと思うのは…環境?状況?いえ、違いますわね…人!そう!ここで働いておられる方々がちょっと、ちょっとわたくし的にちょっとちょっとなんですの!!


キーラはそう頭の中で叫ぶと、フン!と力強く聖力を空瓶に注ぎ込む。そうすると見る間にキラキラと輝く聖水が瓶の中に満たされた。


ーまず皆様!どなた様もとってもいい加減ですのよ!!


聖水で満たされた瓶を箱の中に納め、キーラは次の空瓶に手を伸ばした。


ーほら、この聖アルミア教国の根幹を支えていると言っても過言ではないこの聖女のお仕事、つまり聖水作りなのですけれど、そりゃあもう毎日毎日決められたノルマというものがありますのよ?基本聖女1人1日10本以上の聖水作成が望ましいと言われておりますが…ご存じ?この聖教会に集められている聖女67人(自分除く)の生産能力は1日1人5本以下、5本以下ですのよ!ええ、そりゃあ白珠に込めた聖力にはそれぞれ個人差というものは御座います、それでも5本以下しか生成できないという事は流石に無いとわたくしは思うんですのよ。


特に親しい友人もいないキーラは、まるで誰かに語りかけるかのように脳内で愚痴をこぼし始める。ただし、聖水を作る手は止めることなく、傍目からは空瓶を聖水で満たす作業に没頭しているだけに見えた。

ーもともと1日10本という数字もこれまでの聖女様方の平均的な生成数から割り出されたもので、わたくしもその数はそう無茶な数字だとは思えませんの。


それなのに1人5本。いえ、5本生成する方はまだ良い方ですわ!多分皆様1日2.3本、酷い方は1日1本なんて方もいらっしゃるようなんですの!


フン!フン!とキーラは脳内の独り言がヒートアップするように、聖水の生成も早めていく。だがその手つきはあくまでも丁寧で、間違っても瓶を傷付けたり、聖水を溢してしまうような雑なものでは無かった。


ー決して無茶なノルマでは無いはずなのにどうして皆様ちゃんとお仕事をされないのかしら?なんて思いませんこと?わたくし、そう思って周りを注視して確認してみたんですの。そうしたら、まず、わたくし以外の聖女の皆様って…とってもお美しいんですの。


そう回想しながらふと瓶を持つ自分の手が視界に入った。青白く筋張った鳥の脚のような自分の手。キーラはその手にしていた聖水瓶を軽く持ち上げ光に翳してみる。


キラキラと虹色に輝く聖水は宝石のようだった。


ーこの聖女の生成する聖水は万病に効く妙薬として世界中で重宝されておりますわ。それが病にはもちろん、実は美容薬としても最高のものだったらしいんですの……。


ーそう、あれは私が18歳になって…つまりこの聖教会に入って3年めくらいだったかしら?とっても美しくお可愛らしいトティータ様と言われる聖女様が入教してきた事が思えば全てのきっかけだったのですわ。


ー聖水を作る力を少し控えて自分自身に使うと良いらしい。そうするとトティータ様のような美しい肌や髪を手に入れることができる…なんてお話が聖女達の間に広がったらしいんですの。(わたくし?わたくしは全然そのようなお話存じておりませんでしたわ!)それから皆様ちょっとずつ生成する聖水を減らして自分自身に聖力を使うようになられたのだとか…?


キーラはまた小さくため息をつくと立ち上がり、聖水の入った瓶が全てのマスの中に綺麗に並べられた箱を持ち上げ、部屋の中央にある転送装置の上に置いた。そうするとすぐに装置が作動してキーラの置いた箱が消え、入れ替わるように空瓶の入った箱が現れた。キーラはそれを両手で持ち上げると作業をしていた場所に戻る。


そうしてまた、フン!と聖力を空瓶に注ぎ込んだ。


ー女性ですもの!美しくありたいと思うのは当然の事だとは思いますわ!!ですが!限度ってものがございますでしょう?!10本以上が望ましい…が、10本になり、9本8本と減っていって、この5年の間に気が付けば5本!いえもう1人5本以下!ぶっちゃけるとお一人様1日2本!2本ってところですのよ!!


フン!フン!とキーラは興奮のリズムに乗るように聖水を作り出していく。


ーそこで皆様も思われますわよね?1人10本(本当は以上)とされていた聖女の生成ノルマ不足分8x68人=544本コレ、この馬鹿げた数、どうしてるのかな〜?なんて思われませんこと?


ええ、そう。もうお気付きですわね?!


見る間に空瓶を聖水入りのものに変えていくキーラは、クッと最後の空瓶を聖水入りに変えると天井を見上げた。


ええ、そう!わたくし!このキーラ=ナジェイラ(23)が1人、1人で!たった1人で生成しておりますのよ!!ええ、このわたくしが!結果的に!一人で544本を!!


そう心の中で叫ぶと、キーラはそのまま無言で机に突っ伏した。もっさりとパサついた白髪が広がり、誰かに見られていれば頭のおかしい人物の奇行と言われたかもしれないが、幸か不幸かここにはキーラしかいない。といのもこの祈りの間と呼ばれる場所は聖女しか立ち入ることのできない神聖な場所なので、他の者はそもそも入ることすら出来ないのだった。


ーあぁ馬鹿なの?わたくし!馬鹿者ですの??



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