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 舞踏会でたくさんの人の目に晒され疲れて帰ってきた。


「ゆっくりお休み下さい」


 リディアに言われてそうさせてもらうことにした。本当は舞踏会になんて行きたくなかったのだけど、両親と兄は外交のため留守にしていた。

 名門ローゼンベルク侯爵家が王宮で開催される舞踏会を欠席することは許されない。

 婚約破棄をしてまだ間も無く、心をすり減らしているのに遠慮のない貴族たちの悪意に晒される。

 気丈にふるわななくては家名に傷がつく。婚約破棄だけでも大打撃だったのにさらに追い打ちをかけて自らミスすることは許されない。


「うまくやれたわよね……」


 ソファに背中を預け、瞼を閉じるとあのときのことが思い浮かんだ。


 ────


「君がこうなることを望んでいるとは思いたくないが、この関係は君にとって重荷になっているんじゃないか?」

「ええ。お心遣い痛み入りますわ。あなたは最後まで自分が与える側であるのですね」

「僕は君のような誇り高い令嬢にふさわしい男ではなかったな。君は冷静で、感情に流されない誰かと歩むべきだ」


 情に流されたあなたがいうのならそうなのでしょう。まるで自分が誰かにとってのヒーローのようだわ。


「感情を持たぬ女が好みだと思っておりました」

「今なんて?」

「てっきりそういった従順なお人形がお好きなのかと思っておりましたが?」

「皮肉を言うのは、クラリス、君の悪い癖だ」

「まあ、皮肉だなんて──」

「言い方も君そのものだよ。言葉にも仮面を被せる」

「──仮面ですか」

「……君は変わったな」

「そうでしょうか? 変わったのはあなたの見る目と、私の目ですわ」

「どういう意味だ?」

「あなたの仮面が剥がれて見えるようになったのです。でもご心配なく。これ以上目をそらしたりはしません」


 書類にサインをして、一礼し扉に向かう。書斎を出る際に一言。


「ユリウス。ヴェルネール様、あの方とどうぞお幸せに」


 婚約破棄の話し合いをサインをした時も涙は見せなかった。

 責めるつもりはなかったけれど、さすがに心が痛んだ。


 心の傷が完治する日が来るのかしら……


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