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「君はなぜそんな目をしているんだ?」
その声は、静かでありながらも鋭い刃のようだった。
一瞬だけ目を伏せ、微笑みを返した。動揺したことを悟られてはいけない。なぜかというと社交界における護身術のようなものだから。
「恐れながら陛下。私の目に何か問題がございましたか?」
不適切な言動かもしれない。
「いや、なんと言えば伝わるだろうか……全てを拒んでいるような、そんな目をしているように思えたのだ」
「私のようなものに、お心を留めていただくとは光栄ですわ。しかしながら──噂ばかりが先に立つゆえ……お気遣いは不要かと」
失礼な言い方かもしれないけれど、周りにいる貴族たちがこちらを気にしているのだから距離を取らなくてはならない。婚約破棄されて以降の仮面だから。
「私は、噂には興味がない」
周りの貴族たちに聞かせるように放った言葉だった。そして陛下はわずかに笑みを浮かべた。
「人の心を噂で測るほど、私は愚かではない」
まるで私の仮面の奥まで見透かすような眼差しだった。
久しく感じたことのない恐れを感じた。
この方に見つめられてはいけない。
本能がそう告げているようだった。
「失礼致します。陛下。次のご挨拶が控えておりますわ」
陛下に挨拶をしたい貴族たちがソワソワとしている。優雅に見えるよう身を翻しその場を去った。
背後から陛下が何かを口にしたように思えた。
ざわつく会場内でのことだから、例え咎められるようなことがあっても、聞こえなかったといえば許してもらえるだろうか。
社交界では冷淡・傲慢と噂をされる身だけれど、ローゼンベルク侯爵家の娘としてどんなことがあろうと、誇り高くなくてはいけない。
こんな私だけど、もしかしたら分かってくれる人がいるかもしれない。