19 聖女に選ばれた理由
聖女様。ありがとうございます。何不自由なく過ごしています」
「そうですわ。完璧にもてなされるものですから、恐縮してしまうほどですわ。この国は自然豊かで美しいですわ。聖女様の故郷も美しい場所でしたか?」
聖女は一瞬、笑顔から強張った顔を見せた。しかしすぐにいつもの通り笑顔の仮面を被った。
「王都から遠くはなれた田舎です。山があって川があって村の人がみんな顔見知りといった場所です」
「そうでしたの。遠く離れていても聖女様の名声が王都に届いた。ということですのね。失礼ですが、どういった経緯で?」
「選ばれた理由ですか? 特別な奇跡があったわけではないのです」
そう前置きした彼女の声にはどことなく葛藤があるように思えた。
「私はただ、声を聴くことに長けていたのだと思います。誰かの痛みや願いにただ耳を傾ける。それが唯一のことでした。人の心に寄り添う力。それが選ばれた理由なんだと思います」
使節団のご婦人たちは彼女の話を興味深く聞いていた。
「人の心に寄り添える大事な力ですわ。聖女が神殿のシンボルになると国民たちの心も安らぎます」
「人間味が溢れていて素晴らしいですわ。聖女様の柔らかい雰囲気は人に安らぎを与えるのですね」
「聖女様が王宮でお茶会を開かれるとお聞きしました。毎回盛大なんでしょう?」
「はい。ありがたいことに毎回たくさんのゲストが来てくださいます」
「庭園が素晴らしいですもの。本日の場所、とても気に入りましたわ。聖女様もこの場所で?」
「……いえ。王宮には素晴らしい場所がたくさんあります。もっと奥に行きますと広場があってピクニック形式で、散策をしたりお茶会をすることもあります。陛下にお茶会を主催させてくださいと言えばよかったですわ」
「素敵ですわね。ゆっくりとした時間が過ごせそうです」
「若い頃は私たちもピクニックを楽しんだことがありますもの。懐かしいわ」
ここで聖女エミリアが気がついた。
今回の使節団の婦人たちの年齢層に……
歩くのは問題ないけれど、彼女がいう場所はここからだいぶ歩いた場所。そしてピクニック形式だと靴を脱いでシートに座ることになる。年配のご婦人もいらっしゃるし、ピクニックは遠慮したいところだろう。
聖女が気まずい顔をしたときだった。タイミングよく追加のお菓子が運ばれてきた。
「皆様、このお菓子はこの日のために準備いたしました。王宮のバラを使ってアレンジしたジャムと共に召し上がってくださいませ」
薔薇をジャムにするのは難しかった。苦味が出るから。何度も試作してようやくベストな分量がわかった。女官たちの助けもあってようやく完成したものだった。
婦人たちはとても気に入ったといってくれた。その言葉は顔を見たらわかった。気に入ってもらえてよかった。