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控室に案内する途中目配せで女官に近づき、小声で囁く。
「代表の閣下は長旅でお疲れのご様子。閣下は甘いものがお好きだから、お茶菓子は甘いものを選んで出して」
「はい、クラリス様」
さらに耳打ちする。
「閣下の随行の従者が靴づれをしているみたい。薬と布をお渡しして、必要なら医師の手配をお願い」
「はい」
さて、次は晩餐会か。
晩餐先の準備が整い、陛下が姿を現した。
「さすがですね」
その言葉に顔を上げると陛下が目の前にいた。
「まだ始まったばかりです。これからですのに」
「あなたの采配は素晴らしいです。報告を受けていますし私も実際見ていました。堂々たる振る舞いです」
「……恐れ入ります。お役に立てたなら光栄です」
「今日の王宮は大事な客人を迎えているのに、みんな笑顔でいます。とても素晴らしい」
女官たちは緊張しながらも、自然な笑顔で案内していた。
迎えた晩餐会の場は、煌びやかな灯りと華やかな音楽で包まれていた。
しかし気を抜くことなく静かに空気を読みながら周りを見ていた。
そしてオルデン侯国からの使節団が席に着くと、微笑みながら軽く頭を下げた。
「オルデン侯国の使節団の皆様、本日は心からおもてなしをさせていただきます」
「ありがとう、クラリス嬢、先ほどは私の従者に薬を届けてもらい感謝する。私でも気がつかなかった。とても助かったよ」
丁寧に会話を続けながら、席次の調整や食事の進行を見守っていた。今のところは順調だ。
「あちらの席、グラスが空いているわ」
近くにいた女官に耳打ちすると、すぐに対応してくれた。
「クラリス様、さすがですね。私ももっと気遣いできるようにします」
「十分頑張っているわ。とても丁寧で助かるわ」
晩餐会におけるミーティングが始まったとき、若い女官と老執事だけで大丈夫かと不安に思ったけれど、老執事はさすがにベテランで教育上手だった。若い女官たちの吸収の早さに驚きを隠せなかった。
今ではこのチームで使節団を迎えれることに喜びを感じていた。