14 使節団来訪前夜
王宮内の地図とタイムスケジュール表を並べ、睨むように見ていた。行程・部屋割り・通訳・礼儀作法。漏れがあってはいけない。
「エントランスの装飾ですが、金糸の布が一点に集中しています。素晴らしいものなのに見栄えに偏りが出てしまってます」
それを聞いた女官たちは直ちに動いた。
「南と東に再配分するのはどうでしょうか?」
目を輝かせて若い女官が言った。
「そうね。その方が見栄えすると思います。意見を出してくれてありがとう。装飾係に伝えてくださる?」
「はい。ただちに」
「ありがとう。皆さんの協力があってここまで準備ができました。明日使節団が来ますが緊張せず、練習通りにおもてなしをしましょう」
はい。と返事をする女官たち。
「明日は朝から忙しくなりますが、楽しみながらお迎えしましょう。今日はゆっくり休んで明日に備えてください」
女官たちと別れて、明日の晩餐会のメニューの確認をするため厨房へ行く。庭園も綺麗に整えられていて、バラが美しく咲き誇っている。ちょうど陰になる場所があったので、移動してバラを見ていた。
すると、先ほど別れた女官たちが話をしながら通り過ぎていく。陰になっているから私には気がつかないだろう。
そう思い、なんとなく身を潜めた。
「すごいわね。クラリス様って」
「わかる。私、噂を聞いてもっと傲慢で偉そうで怖い人だと思っていたけれど、実際は全然違ったもの。下っ端の私たちの意見を取り入れてくれたり、指示が的確で分かりやすいよね」
「厳しいときもあるけれど、間違ってないもの。注意されて気が付くこともあって……公平だし正確に伝えてくれて、こっちも素直に聞けるっていうか……」
「うん。なんで外部のクラリス様なんだろうって思っていたけれどさすが陛下が信頼しているとあって、素敵な方だったわ。なのになんで、悪い噂が流れているのかな?」
「ユリウス様との婚約破棄とか?」
「それもあるけど、本当は新しく女官長になったマルグリード様が使節団のもてなしを取り仕切る予定だったって聞いた。だからマルグリード様が怖くてベテランはみんなそっちにいって、残ったのは私たち新人ばっかりだったのよね」
「そうだった! でも今、クラリス様と働いて楽しいもの。逆に良かったわね」
女官たちの話しを聞いて居た堪れない気持ちになった。聞き耳を立てるなんてみっともないことをしてしまった。
心の中で反省をしながらも、最後に一緒に働いて楽しいという言葉が何よりも嬉しかった。
……あの子たちが誇れる仕事をしなくては。胸が熱くなった。