13 出迎え
「ローゼンベルク様、ようこそ」
迎えにきたのは礼儀正しい老執事と数人の若い女官たち。
緊張しているのが伝わってきた。明らかに私の評判に影響されている様子だった。
「お部屋はこちらにご用意いたしました」
「ご配慮感謝します。ご面倒をおかけして申し訳ありません」
そう言ったら、若い女官たちが一斉に驚き目を見開く。何か礼儀を欠いたかしら?
そう思った矢先にリディアが苦笑いをして囁いてきた。
「クラリス様が思ったよりやさしすぎるんじゃない? 噂だと高慢で冷酷な悪役令嬢なんだから」
「なるほど……それは仕方がないわね」
「悪役令嬢像が崩壊したんでしょう。いいことですよ」
到着したその日から王宮の接待計画書や資料に目を通し、必要事項を整理した。
翌日の準備会議では足りないと思ったことを指示した。
「この配置では、貴族女性たちの動線が重なります。入り口を変更できますか?」
「はい」
「言語に不自由があるご夫人には通訳を用意しなくてはなりません」
「気が回りませんでした」
「贈答品リスト、ここに誤字があります。銀糸が金糸に……」
「あ!」
「訂正お願いします。本日はこれで終わりにしましょう」
無事会議は終了した。思っていたよりも反発されなくてスムーズにできた。と思った。
「はー。今日はよく働いた」
リディアがぐったりとソファに倒れ込む。
「王宮の人たち少しづつ態度が変わってきたね」
「そうかしら?」
「冷たくて近寄りがたいって思っていたけれど、実際は違うってさ。クラリス様、口数は少ないけれど、思っていたより全然優しいし、丁寧に接してくれるって女官さんたちに言われた」
「そんなこと……」
それを聞き心が落ち着かなくなり、窓辺に立ち夜空を見つめた。王宮の屋根越しに見える月が静かに輝いていた。
「私。変われたかしら?」
「どうかな? 優しいのは元からだし、今は大人になって強がっているだけだけじゃない?」
「侯爵家の娘として恥をかかないようにしているだけ」
「もう少しだけ、楽しんでもいいと思うけどね」
「? 陛下と同じことを言うのね」
「クラリス様にとって私は姉のような存在。たまには姉の言うことを聞いてみたら?」
──仕事を楽しいと思っていたのはいつまでだったかしら?