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「僭越ながら……他に、もっと社交的で、人望のある婦人方がおられるのでは?」
「確かにそれは否定できません。しかし、国として誠実で冷静で知性がある方にお願いしたいと思いがあります。あなたは自らの立場を弁え、礼儀を忘れずその場に応じた対応ができる。感情に流されない点においては、これほど信頼のおける方はいない。私はそう思うのです」
「過分なお言葉、恐れ入ります。しかし……」
「あなたの身分は申し訳ないですし、どうかいい返事をもらえないだろうか」
「……身分のことを言われたということは、別の目的があるのでしょうか?」
外交使節団が来るだけなら、身分はあまり関係してこない。婦人たちのもてなしは聖女エミリアがいる。今では聖女のお茶会は好評で呼ばれることがステータスと聞いた。もちろん私は呼ばれたことがない。陛下はご結婚されていないし、婦人たちのもてなしは女官長が腕を振るえば問題はない。最終的に気持ちよく帰国してもらえばいいだけなのでは?
「さすがだね。冷静に判断する姿勢。やはり君がふさわしい。表向きの目的は交易協定の確認、しかし実際はこちらの王宮の姿勢をみるといったところだろう」
「つまり、品定め……ですか?」
この国と仲良くして利益があるか? ってことかしら。
「話が早いね」
「彼らの滞在中、文化交流の一環として、貴族女性との会合が設けられる。その中心役として、君に任せたいんだ」
「なぜ私なのですか。私には社交界での人気も信頼もすでに……」
地に堕ちていると言おうとした。それに被せて陛下は言った。
「あるさ。それ以上に私にはわかる。さっきも言ったが君は誰よりも冷静で礼儀を弁え、どんな場でも感情を抑えて振る舞える。国の顔として任せられる女性はそういない。だから私は君がいいんだ」
ごくりと唾を飲む。そこまで言われて断る選択肢はない。
「……お受けします。王命である以上断る理由がありません」
陛下は私の目をまっすぐにとらえて言った。
「命じたつもりはない。君に頼みたい。と思っただけだ。もちろん断る選択肢もあるが。聞きたくはないかな」
何も言えなかった。少しだけ胸の奥に熱が灯るのを感じた。しかし表情には出さずに理性で抑え込む。
出されたお茶で喉を潤した。次は返事をしなきゃいけない。
これはあくまで仕事だ。自分に言い聞かせた。そして……
「ありがとうございます。では任務の詳細をいただけますか?」
「もちろん。だが、もう一つ私からの願いがある」
「……? なにか問題でも?」
「いや、ただ任務を遂行するだけではなく、楽しんでくれないか?」
「……楽しむ?」
陛下は少し声を低くした。
「君が仮面を被ったまま任務を終えるのが惜しいと思っている。国のため、だけではなく楽しいと思える仕事をしてほしいのだ。私はそう願っている」
そう言い終えると忙しい陛下は、席を外した。あとは陛下の側近の方に話しを聞いた。
慌ただしい一日だった。