6.小学校時代
小学校が終わると、私はまっすぐ家に帰った。
「ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん」
「おかえりなさい」
母さんと、先に帰っていた妹の葵の声がする。
キッチンに行くと、母さんは何かお菓子を作っていることが多かった。
「母さん、今日は何を作ってるの?」
「クッキーよ。半分くらいはアイシングクッキーにしようと思ってるの。樹も手伝ってくれる?」
「もちろん! 葵は?」
「葵にはまだ難しいかな?」
母さんが言うと、ソファーでテレビを見ていた葵が口を尖らせた。
「えー! 葵もやる!」
葵もキッチンにやってきたが、まだ小学一年生だから出来ることは少ない。
オーブンに顔を近づけると、熱気と甘い香りが漂ってきた。
「もうすぐ焼ける?」
私はオーブンを覗き込んだ。まだ中のクッキーは焼き色がついていないように見える。
「あと五分くらいかしら? アイシングは水色とピンクと黄色と白を用意するから、葵も樹も好きな色で絵をかいてね」
「うん」
「はーい!」
母さんはクッキーの様子をうかがいながら、ニコニコと笑っていた。
「まだー?」
葵が首をのばしてオーブンの様子をうかがっている。
「僕、荷物置いてくる」
私はランドセルを二階の子ども部屋に片付けてから、洗面所で手を洗ってキッチンに戻った。そして、腕まくりをして、キッチンの脇にかけてあるエプロンを身に着けた。
オーブンがチン、と鳴った。
「さあ、上手く焼けているかしら? 葵、ちょっと離れていてね。鉄板熱いから、やけどしたら大変」
「うん」
母さんはクッキーの焼け具合を見て頷くと、古新聞を置いた調理台の上に厚い鉄板を二つ並べた。
「いい匂い!」
「きれいな焼き色だね」
「三十分くらいたったら、クッキーも冷めると思うわ。そしたらアイシングしましょうね」
「はーい」
「うん」
母さんは、クッキーが冷めるまでにアイシングを作った。
作ったアイシングを、四つに分ける。一つは水色、一つはピンク色、最後の一つは黄色に染める。色を付けていない白色と合わせて、四色のアイシングができた。
それぞれ、ちいさな絞り出し袋に入れる。
「さあ、そろそろクッキーも冷めたし、アイシングで飾りましょう」
母さんの声を聞いて、私も葵もクッキーに駆け寄る。
「一つ味見していい?」
葵が出来立てのクッキーに手を伸ばす。
「一つだけよ?」
「はーい」
出来立てのクッキーは、すこしあたたかい。葵はにっこりと笑うと「もう一つ」と手を伸ばしたが、母にその手を軽くたたかれた。
「無くなっちゃうわよ。もうだめ」
「はーい」
僕と葵の前にお皿が置かれた。
「どのクッキーに飾りつけする?」
「僕はベルがいいかな」
私のお皿にベルのクッキーが置かれた。葵は「私は星」と言った。
「お兄ちゃん、水色とって」
「はい」
「僕はふちは白、中はピンクにしようかな」
「え?可愛すぎない?」
「良いでしょう?」
私たちがクッキーをアイシングで彩っている様子を、母さんはニコニコ笑って眺めていた。




