5.母さんのクッキー
私は紅茶を入れて、キッチン脇のダイニングで休憩をしていた。
「お兄ちゃん、ちょっと手伝ってもらえる?」
キッチンにいる母さんに呼ばれた。
「はいはい」
ぬるくなった紅茶を飲み干して、カップをダイニングのテーブルの上に置く。
キッチンに行くと、母さんが量りと紙を前に、小麦粉の袋を抱えていた。
「ちょっと、紙を押さえてもらえるかしら?」
「私が小麦粉を出したほうがいいんじゃない? 重いでしょう?」
「……そうね、じゃあ、小麦粉のほうをお願いするわ」
母さんははかりの後ろに行き、はかりの上に乗せた紙がずれないよう端を押さえた。
「どのくらい必要?」
「200gを二つね。クッキーは80枚ほど焼くつもりなの」
「了解。結構焼くんだね」
「自分用に20枚、60枚は葵ちゃんの家用なの。晴香ちゃんが、『おばあちゃんのクッキーが食べたい』って言ってるんだって。孫に言われたら、がんばっちゃうわよねえ。まったく、こっちの苦労なんて考えないんだから」
口では文句を言っているけれど、母さんはニコニコと笑っている。
「母さんのクッキー、美味しいからね」
「ほんとは娘とお菓子作りするはずだったんだけどねえ。お兄ちゃんの方がお菓子作りが好きだったわね」
「葵は食べるの専門だからね」
二人の声が揃い、母さんと私は一緒に笑った。
「思い出すわね。二人が小学生だった頃」
母さんはほんの少し微笑んで、遠い目をした。




