4.休日
土曜日の早朝、家のキッチンで生クリームを泡立てていると、声をかけられた。
「お兄ちゃん、もう起きてるの? 早いね」
「おはよう、母さん。今日の朝はパンケーキを作ろうと思って。トッピング用の生クリームもナッツも昨日買っておいたし。食べるなら母さんの分も作るけど?」
「美味しそうね。いただこうかしら」
母さんは優しく微笑みながら、小麦粉を量る私を見つめた。
母さんはコーヒーメーカーに引いた豆を量って入れ、水を差し、スイッチを入れた。
コーヒーを淹れるいい匂いが鼻をくすぐる。
「今日は朝ご飯の後でパウンドケーキを焼こうと思ってるんだけど、手伝ってもらえるかしら? ……バターをほぐすのが大変なのよね」
母さんはそう言いながら、自分のマグカップと私のマグカップを食器棚から取り出し、コーヒーが入るのを待っている。
「いいよ、手伝うよ。……パウンドケーキか。私も食べたいから、二つ焼いてもらっても良いかな?」
「わかったわ。でも、材料が足りないかしら?」
「それなら買ってくるよ」
「悪いわね」
「私もクッキーの材料を買い足しておきたいし、ついでだよ」
焼きあがったパンケーキに生クリームとナッツを添えたものと、作って冷やしておいたサラダ、コーヒーを食卓に並べる。
その間、母さんは買い物リストをかいていた。
「母さん、食事の用意が出来たよ」
「ありがとう。まあ! 美味しそう!」
母さんはにっこりと微笑むと、席に着いた。
「いただきます」
「いただきます」
向かい合って朝食を食べる。母さんの背中が丸くなっている。母さんは、なんだか少し小さくなった気がする。
「こんなに美味しいごはんが作れるのに、彼女の一人もいないの?」
「なかなか縁がなくてね」
私は適当にごまかしてパンケーキを一口たべた。多めの油で焼いたから、表面がさっくりとしていて美味しい。とろりと冷たい生クリームの食感とナッツの歯ごたえもよく合っている。
「もう孫をみるのは無理なのかしら?」
「孫なら居るでしょ? 葵の子ども、もう中学生だっけ?」
「そうだけど……。妹に先を越されちゃったわね」
「……」
私は何も言わず、にこりと微笑んだ。
「あんまりおしゃべりしてるとパンケーキが冷めちゃうよ?」
「あら、そうね」
母さんはおしゃべりをやめてパンケーキを口に運んだ。
「食事が終わったら、片付けしてから買い物に行くよ」
「片付けなら私がやっておくから大丈夫よ」
「……それじゃ、お願いします」
私は食事を終えると、母さんの書いた買い物リストを持って車に向かった。
***
トーカ堂に着き、車を駐車場に入れる。
私はまっすぐ製菓コーナーに向かった。
「まずは母さんに頼まれたものを探さなきゃ」
カートにかごを乗せて、製菓コーナーを歩く。
「無塩バターに、クルミか……」
かごの中に品物を置いていく。
「私の方は……有塩バターに薄力粉、粉砂糖に乾燥卵白……着色料は家にそろってたよね……」
かごの中を見て、買い忘れがないことを確認してレジに並ぶ。
製菓コーナーの買い物が終わったら、次は生鮮食品コーナーだ。
卵と牛乳を買って、車に戻った。
***
「ただいま」
「おかえり。重かったでしょう?」
「大丈夫」
私は買ったものをキッチンに運ぶと、それぞれ決まった場所にしまっていった。
「母さん、パウンドケーキはすぐに作り始める? それとも午後にする?」
「そうねえ。どうしようかしら」
「私もクッキーを作りたいから、オーブンが空いたら使わせてね」
「わかったわ。それじゃあ、先に使わせてもらうわね」




