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3.意外な申し出

 翌日、席に着くと左斜め前のデスクにいる伊吹さんが話しかけてきた。

「香川課長が作るクッキー、めちゃくちゃ美味しいそうですね?」

「え? 誰から聞いたの?」

「飯塚さんが自慢してました。『香川課長が美味しいクッキーくれたのよ。ほっぺた落ちるかと思った』って」

「うーん、ほめ過ぎだよ」

 私が答えると伊吹さんはしょんぼりとした様子で私に言った。


「私も食べたかったです」


 ちょっと考えてから、伊吹さんに聞いてみた。 

「それなら、週明けに伊吹さんにもクッキーもってこようか?」

「え!? いいんですか!? でも、催促したみたいで申し訳ないです」

 伊吹さんは肩をすぼめて上目遣いで私を見つめた。


「いいんだよ。お菓子作るのは楽しいけど、全部食べてたら……」

 そう言って私は丸々とした自分のお腹をさすった。

「だから、食べてくれる人がいるなら、ありがたいんだ」

「それじゃ、お言葉に甘えます。月曜日、楽しみです」

 伊吹さんはニコニコしながら、仕事の準備を始めた。


「ここは会社だよ? 遊びに来てるんじゃないからね?」

 冷ややかな声に振り返ると、清水課長が私のことを見下ろしていた。

「ああ、すみません。清水課長」

「女子社員に媚びるのもほどほどに」

 それだけ言うと清水課長は自分の席に戻って行った。

「嫌味だけ言いに来たんですかね? 清水課長って香川課長に絡んでくること多いですよね?」

 伊吹さんが小声で言った。

「え? そうかなあ」

「香川課長がみんなに好かれてるから、ひがんでるんですよ清水課長。嫌われてるのは自業自得なのに」

 私は目をまるくして、伊吹さんを見た。

「……あんまりそういうこと言うのは良くないよ、伊吹さん」

「はーい」

 伊吹さんは肩をすくめてPCの画面に視線を移した。


 私もPCを立ち上げて、今日の予定を確認する。

 会議が午前中と午後に一つずつ入っている。

 事前に送られていたリンクから、共有ファイルになっている会議資料を印刷して確認する。ざっと目を通して、気になるところに付箋を貼った。


「さてと。次は書類仕事にとりかかるかな」

 私は机の端に置いてある『要確認』ケースにある書類を一つずつ見て、気になるところをチェックし『確認済み』ケースに移した。


(課長でこれだけの仕事量なんだから、部長はもっと大変だろうな)と思いながら仕事を進めていく。途中、部下から質問や確認で話しかけられるたびに、書類から目を外し、部下の話を聞く。


「香川課長って、いつもちゃんと相手の目を見て話を聞いてくれますよね」

 田中主任がぼそっと言った。

「普通でしょ?」

「いや、そんなことないですよ」

 田中主任がちらりと隣の島の清水課長を見た。清水課長はPCから目を離さずに部下の報告を聞いていた。


「まあ、人によって考えがちがうんだろうね」

 私が微笑みながら田中主任に答えると、田中主任は軽く頷いた。


「あ、そろそろ会議が始まるから……。ごめんね」

「失礼しました」

 席に戻る田中主任を横目に見ながら、手帳と資料を手に会議室に向かった。


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