第44話:生徒会と「ピクニック」
秋の陽光が差し込む王立学院の生徒会室。窓から見える中庭では、紅葉が始まった木々が風に揺れ、その下を制服姿の生徒たちが行き交っていた。
生徒会室には、銀色の髪をきちんと三つ編みにしたエマ、栗色のボブカットが可愛らしいミル、漆黒の長い髪に深紅のリボンをつけたルーシー、銀灰色のショートカットが知的な印象のジーナ、そして俺の他に、金褐色のセミロングヘアのアンナの姿もあった。
アンナは転校してきて間もないのに、気づけば生徒会室に居着いている。彼女は緑色の瞳をキラキラと輝かせながら、ちらりとルーシーの方を見た後、突然言い出した。
「これは提案です。ピクニックに行こうぜ!」
その言葉に、俺以外の全員が首を傾げる。
「いいね」
俺は素直に賛成したが、他のメンバーはどうやら「ピクニック」という言葉にピンときていないようだった。
ルーシーは完璧な姿勢で座ったまま、紺碧の瞳を少し細めて言った。
「ピクニックとはどのような概念ですか? ピクノカルプスの間違いでは?」
ピクノカルプスって何だ? 俺には見当もつかない言葉だった。
「この国ではやらないの? ピクニック」
アンナが不思議そうに尋ねると、全員が首を振る。
「食べ物持って海や山に行って楽しく食べるやつだよね」
俺が説明すると、アンナは満面の笑みを浮かべた。
「そう! さすがテルだね」
彼女の金褐色の髪が、窓から差し込む光を浴びて輝く。
ミルは栗色の髪をかき上げ、青灰色の瞳で真剣に考え込んでいた。胸元の四つ葉のクローバーのブローチが揺れる。
「野山で食事をするメリットが分からないんだけど」
アンナは立ち上がり、両手を広げて力強く語り始めた。
「自然の中で過ごすことには、言葉では言い表せない価値があるの! 私たち人間は本来、自然の一部なんだよ。建物の中だけで過ごしていると、その大切な事実を忘れてしまうけど」
「自然と触れ合うことで、心が落ち着き、創造力も高まるの。机の上の本だけが知識じゃない。自然の中での体験も、大切な学びなんだよ」
アンナの熱弁は、まるで詩人のようだった。彼女は窓の外の景色を指さした。
「風の音、木々の香り、流れる雲、そういったものを感じることは、理論を学ぶのと同じくらい重要なことなの。自然は最高の教師だよ」
皆が黙って聞き入る中、エマが思いがけず口を開いた。
「私は、実家では近くの山や川で妹たちと食事をしていましたよ」
銀色の髪が肩で揺れ、青い瞳に懐かしい光が宿る。彼女の白い頬に、かすかな微笑みが浮かんでいた。
ジーナは腕を組み、深く頷いた。銀灰色のショートカットが知的な輝きを放っている。
「アンナの言うことは理にかなっているね。ピクニックは自然と人間を統合する試みとして捉えることができる。我々は理性的存在でありながら、自然の一部でもある。その矛盾を止揚する行為として、野外での食事というのは興味深い」
「決まりだね。次の日曜日、それぞれ食べ物持ってここに集合。で、どこに行く? わたし、あんまり知らないんだけど」
アンナは上機嫌で提案した。ジーナは窓の外を見つめながら答えた。
「町の北の外れに静かな湖がある。そこがちょうどいいだろうね」
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日曜日。秋の晴天が心地よい。俺たちは王立学院を出発し、1時間ほど歩いて湖に到着した。
湖面は鏡のように空を映し、周囲の木々の色鮮やかな紅葉が水面に映り込んでいた。岸辺は白い小石が敷き詰められた、静かな波が寄せては返していた。
アンナは制服ではなく、緑と茶色の刺繍が施された民族調のワンピースを着ていた。
「こんなに素晴らしい場所があったなんて! 見て、湖の青と空の青が溶け合って、まるで絵画みたい!」
彼女はスケッチブックを取り出し、早速描き始めた。金褐色の髪が湖面を吹いてきた風に揺れる。
ミルは疲れたようで木の切り株に座り込んでいた。水色のワンピースドレスを着ている彼女は普段よりも子供らしく見える。
「やっぱり歩くのは疲れる...」
小さなため息をつくミルだったが、その青灰色の瞳は湖の景色に見とれていた。
ルーシーは黒のワンピースに赤いショールを羽織り、黒い日傘を差していた。漆黒の長い髪が風にそよぎ、紺碧の瞳は太陽の眩しさに少し細められていた。
エマは淡い青のシンプルなワンピースに白いカーディガンを羽織り、銀色の髪を普段より緩やかに結っていた。彼女の青い瞳は湖の色と同じように透明感があった。
「空気が澄んでいて気持ちいいですね。故郷を思い出します」
彼女は周りを見渡しながら言った。
ジーナは紺色のズボンに白いブラウス、そして肩にはコバルトブルーのショールを掛けていた。銀灰色のショートカットが風になびく。
「湖の向こうに見える山の稜線を見てごらん。あれがこの国の北のエンポリアとの国境線だよ」
俺はいくつかの荷物を持ちながら、この光景を目に焼き付けていた。みんなの私服姿は新鮮で、どこか別の時間が流れているようだった。
「テルは木を集めて来てください。私は水を汲みます。お茶にしましょう」
エマが言った。彼女は小さな銀色のやかんを取り出していた。
「枝は乾いたものを。少し葉っぱもあればなお良いです」
「火は?」
俺が尋ねると、ミルがポケットから光るものを取り出した。
「これでつけられます」
よく見ると、それは虫眼鏡のようなレンズだった。陽光を集めて火をつけるつもりらしい。
俺は湖のほとりから少し離れた森の方へと向かった。落ち葉を踏みしめる音が心地よい。風が頬を撫でていく。
その時、スマホの着信音が鳴った。
スマホを取り出すと、サンデラからのメッセージだった。マキャベリアとの戦いに備えて、俺の体の充電容量を拡張できないか尋ねていたが、返事が遂に来たのだ。
「体の柔らかい部分を使えば充電効率は上がりますwww S」
柔らかい場所? 俺は思わず体中を触りながら考える。耳たぶ?
そういえば、生徒会の皆が俺の耳たぶを触って驚いていたことを思い出した。思い立って、両手をクロスして耳たぶを持つ。
「エレキテル…」
いつものように、1分ほど呟き続けた。
スマホを左手に持ってみる。電池残量があっという間に18%から28%に上がった。
「いや、胸でやる10倍じゃないか! 最初から言ってくれよ!!」
俺は思わず叫んだ。これなら、短時間で充電が可能になる。俺は体に充電しながら森を進み、乾いた枝と少しの葉っぱを集める。
腕いっぱいの薪を抱えて皆のところに戻ると、早速ミルがレンズで火をつけ始めた。栗色の髪が顔にかかり、彼女は真剣な表情で太陽光を一点に集中させている。やがて、白い煙が立ち上り、小さな炎が生まれた。
「見て! うまくいったよ!」
ミルの青灰色の瞳が喜びで輝いた。
エマが汲んできた水をやかんに入れ、火にかける。銀のやかんが炎の光を反射して美しく輝いていた。彼女は丁寧に紅茶の葉を準備し、皆に配るためのカップを並べる。銀色の三つ編みが彼女の几帳面な動きに合わせて揺れていた。
水が沸くと、エマは優雅な仕草で紅茶を淹れていく。湯気が立ち上り、芳醇な香りが広がった。
それぞれが持参した食べ物を広げる。エマの手作りのサンドイッチ、ミルが持ってきた高級そうなケーキ、ルーシーの気品あるクッキー、ジーナの実用的なチーズとパン、アンナのカラフルなフルーツ。俺はとりあえずパンとハムを出した。
湖のほとりで円になって座り、皆でそれぞれの食べ物を分け合いながら食べる。のどかな時間が流れていく。木々のざわめき、湖の波の音、鳥のさえずりが心地よいBGMになっていた。
「そういえば、湖に魚がいました」
エマが湖面を見つめながら言った。青い瞳に好奇心の色が浮かぶ。
「魚とってきてよ、テル。私、食べたい」
アンナが突然言い出した。
「いや、無茶振りだよ」
俺は苦笑いした。素手で魚をつかまえるなんて無理だ。
「適切な道具が必要です。釣り竿を持ってくるべきでした」
ルーシーは論理的に指摘した。紺碧の瞳には少しの残念さが浮かんでいた。
「テルの雷の剣は?」
突然、ミルが言った。皆がミルの方を向く。彼女の栗色の髪が風になびく。
「どういうこと?」
俺が尋ねると、ミルは小さな手を動かしながら熱心に説明し始めた。
「昔、雷が湖に落ちたのを見たことがあります。その後、魚が浮かんでいました」
なるほど、確かにそんな漁法があったことを思い出した。しかも、さっき耳たぶで急速充電でしたばかりだ。
全員が興味津々で見守る中、俺はエミールの剣を腰から抜いた。銀色に輝く刃が陽光を反射して鮮やかだ。
「やってみるか...」
意を決して、剣の先端を湖の水面に触れさせる。
「バチッ!」
という大きな音と共に、青白い光が水面を走った。水蒸気が立ち上り、一瞬だけだが湖面が光に包まれる。
皆が驚いて後ずさりする中、水蒸気が風で流れていくと、湖面には何匹かの魚が腹を上にして浮いていた。
「ほら!」
ミルが喜びの声を上げた。彼女の青灰色の瞳は科学者のような輝きを放っていた。
「テル! 魚とってきて」
アンナが促す。
「いや、俺はなんか、危なそうだから...」
剣に残った水滴に触れて、小さな電撃が指を走る。これ以上近づくと感電しそうで怖い。
「しょうがないなあ」
アンナは突然立ち上がると、服を気にする様子もなく、湖に入っていった。彼女のワンピースの裾が水に濡れていく。
「ちょ、アンナ!」
皆があっけにとられる中、彼女は手際よく浮いた魚を拾い集めていく。金褐色の髪が陽光に照らされて輝く。
「とれたよ!」
何匹かの魚を両手で抱え、満面の笑みで戻ってくるアンナ。彼女の緑の瞳は太陽の光のように明るく輝いていた。
俺はその光景を見つめながら、静かに思案していた。
「これは...マキャベリア対策の糸口になるかもしれない」
水は電気を通す。もし敵が水辺にいれば、少ない充電量でも大きな効果を発揮できるかもしれない。その戦術に、俺は可能性を見出していた。
秋の陽光が湖面に反射し、集まった魚を皆で焼く準備を始める一同の姿を見つめながら、俺は静かに微笑んだ。
この平和な時間が、いつまでも続くことを願いながらも、頭は迫るマキャベリアとの戦いのことを考えていた。




