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第41話:テルと「カリアからの宿題」

翌日、王宮に呼ばれた俺は、緊張した面持ちでテオリア女王の前に立っていた。純白のドレスに身を包んだ女王の姿は、朝の光を受けて神々しく輝いている。金色の髪が肩に優雅に流れ落ち、紫水晶のような瞳は穏やかに微笑んでいた。


「ナオテル・イフォンシス・デカペンテ、あなたをフィロソフィア王国騎士団の一員に任命します」


テオリア女王の凛とした声が広間に響き渡る。その優雅な佇まいと威厳ある声色は、まさに理性の国の統治者に相応しいものだった。


緊張で手に汗をかきながらも、俺は深く頭を下げて応える。


「身に余る光栄です。フィロソフィアのために力を尽くします。今後とも、何卒よろしくお願いいたします」


かしこまると、どうしてもビジネスメール風になってしまう。


女王は微笑みながら頷いた。白い指先が優雅にドレスの裾を整える様子に、思わず見とれてしまう。


「合同訓練での活躍、素晴らしかったわ。『いかづちの剣』の威力は、マキャベリアに十分な印象を与えたことでしょう」


褒められて、思わず顔が熱くなる。だが、すぐに女王の表情が少し引き締まった。光を受けた彼女の横顔には、国の命運を背負う者の覚悟が浮かんでいた。


「しかし、これからが本当の勝負です。フィロソフィアとマキャベリアはローレンティアを巡る交渉に入ります。交渉は成立する可能性もあれば、決裂する可能性もあります。それに備えてください」


決裂——その言葉が意味するものは明らかだった。戦争だ。浮かれている場合ではない。背筋に緊張感が走る。


「御意にございます」


あるいは時代劇風になる。


女王は満足そうに微笑むと、俺に近づいてきた。ドレスの裾が大理石の床を滑るように動き、かすかなバラの香りが漂ってくる。彼女の立ち振る舞いには気品と強さが同居していて、まるで月光を纏ったかのようだった。


「エピカリアがあなたを待っています。これからは彼女から、よく学んでください」


女王に別れを告げ、俺は騎士団長のエピカリアのもとへと向かった。彼女は訓練場で剣の手入れをしていた。琥珀色の瞳が俺を見つけると、彼女は立ち上がって微笑んだ。深い栗色の髪が一つに結ばれ、その姿勢には自然な威厳があった。


「合同訓練、お疲れ様でした。見事でしたよ」


彼女の称賛に、俺は頭を掻いた。


「いえ、運が良かっただけです」


「謙遜する必要はありません。賢者は過去に感謝し、現在を楽しみ、未来を恐れない。つまり、過去の努力があなたを助けたのです」


カリアは真剣な表情で言った。彼女の目に宿る強さと優しさのバランスに、安心感を覚える。彼女の鎧姿は実用的でありながらも女性らしい曲線を引き立て、騎士としての風格を漂わせていた。


「ところで、一つお願いがあります。もう一度、あなたの雷の剣を受けさせてください」


突然の申し出に驚いたが、体の中に電力は少し残っているはずだ。躊躇しながらも、俺は頷いた。


「わかりました。でも、怪我をさせないよう気をつけます」


二人は向かい合って立ち、剣を構えた。カリアの静かな呼吸を感じながら、俺は慎重に剣を振り下ろした。日差しが彼女の栗色の髪を照らし、その束ねられた髪が肩越しに優雅に流れていた。


しかし——予想に反して、何も起こらなかった。青白い光も、雷のような音も生じない。ただの金属同士の軽い接触音だけが聞こえた。


「どうして...」


焦りと混乱が胸に広がる。電力は残っているはずなのに。


カリアは満足げに頷き、自分の剣を俺に差し出した。彼女の口元には小さな笑みが浮かび、琥珀色の瞳が知的な光を宿していた。


「考えていたとおりです。私の剣を見てください」


彼女の剣の柄には、厚い絹布が巻かれていた。幅広の白い帯状の布が、金属の部分を完全に覆っている。手入れの行き届いた絹は触り心地が良さそうで、光の加減で微かに虹色に輝いていた。


「柄のところに絹布を厚めに巻いてあります。ここで、雷の力は止まります」


絹が絶縁体だとは知らなかった。確かに、絶縁されれば、雷の剣は無力化される。冷や汗が背中を伝うのを感じる。


「クラウスナーを覚えていますか?」


「もちろんです。合同訓練で対戦したマキャベリアの騎士団長です」


カリアは琥珀色の瞳を少し細め、声を低くして言った。


「彼は優秀な人間です。自らの体で体験していますから、雷の剣の本質を見抜き、必ず対策をしてくるでしょう」


「どうすれば...」


俺は途方に暮れた。雷の剣がなければ、俺は騎士としては凡庸以下だ。こつこつ練習した突きへの対処法も、結局は雷の剣の発動があってこそ意味があるのだ。


カリアは優しく微笑んだ。日差しを浴びた彼女の姿は、実に頼もしい。彼女の手が剣の柄を握る姿には、長年の訓練で培われた優雅さがあった。


「心配ありません。雷の剣が最も力を発揮するのは対重装歩兵です」


「あの副団長ですね」


分厚い金属の甲冑をつけた歩兵。雷の剣で軽く触れただけで相手が倒れたことを思い出す。


「そうです。マキャベリア軍の主力は重装歩兵です。体格差もあり、フィロソフィア軍はこれまで手を焼いていました。雷の剣があれば、対重装歩兵で有利に立てる可能性が高いです」


少し希望が見えてきた気がする。だが、カリアはすぐに表情を引き締めた。


「ただ...問題は、雷の剣を使えるのがあなただけ、ということです。あなたの雷の力も限られていると聞いています。それで、どうやって数百もの重装歩兵と戦うのか…」


確かに、合同訓練では満充電にして、ようやく副団長、団長の2戦をこなすことが出来た。数百もの重装歩兵相手に、どうやって俺一人が限られた雷の力で戦えるのか。


「どうすればいいんでしょう...」


俺の問いかけに、その唇から厳しくも温かい言葉が紡ぎ出された。


「それは、あなたへの宿題です。雷の剣はあなたの力です。あなた自身が考えて、未来のあなたを助けてください」


確かにそうだ。これは、俺自身の問題であり、俺自身の命とともに国の命運もかかっている。俺自身で考えて解決するしかない。今は全く思いつかないが、自分で何とかするほかないのだ。




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