第2部プロローグ
俺、浅田直照は大学2年…だった。遅刻常習犯で、特技は寝ること。そんな俺は朝の遅刻で急いで道路に飛び出したため、トラックに轢かれた。
目を覚ますと、そこは真っ白な空間。現れたのは金髪の美女、女神サンデラだった。転生を告げられたものの、チートスキルは在庫切れ。代わりに与えられたのは、異世界でのスマホの利用許可と体から充電する能力だった。しかし、その充電方法は「胸の前で手をクロスして『エレキテル』と唱える」という恥ずかしすぎるものだった。
異世界フィロソフィアの王都クロイツベルクで目を覚ました俺を助けてくれたのは、銀髪で青い瞳の美少女エマンエラ・カンテだった。彼女は「理性の国」と呼ばれるこの国の住人で、感情より冷静な判断を重んじる生活を送っていた。異世界で魔法やゴブリンを期待した俺は、エマの冷たい視線に打ちのめされる。この国では空想上の存在は否定され、すべてが論理的な判断に基づいて営まれていた。
エマは王立学院の生徒会副会長で、「自分の行動が、もし世界中の人がやったらどうなるか」を常に考えて生きていた。例えば、嘘をつくとき「もし全員が嘘をついたら信頼関係が崩れる」から、どんな時でも真実を話すべきだと信じていた。
俺は学院の衛兵として働くことになり、エマの部屋に居候することになった。学院では個性豊かな生徒たちと出会った。生徒会会計のミルは10歳で入学した天才少女で、「一番多くの人が幸せになる方法を選ぶべき」という考えを大切にしていた。風紀委員のルーシーは言葉を正確に使うことの専門家で、あいまいな表現を絶対に許さない。
生徒会長のジーナは、対立する意見を上手にまとめて、より良い答えを見つけ出す天才だった。そして、少し謎めいた少女、小ジャンヌ。彼女は「実存」を見る能力を持っており、彼女は俺が異世界人であることを見抜いている。
学院には魅力的な大人たちもいた。校長の大ジャンヌは「みんなが自分の自由の一部を我慢する代わりに、安全で平和な生活を手に入れる」という考えで学院を運営していた。校医のベル先生は、人間の欲望や感情も大切だと説いていた。
俺の平穏な異世界生活に変化が訪れたのは、酔っ払った元騎士が学院に侵入した時だった。生徒たちを守ろうと剣を抜いた瞬間、「雷の剣」が発動。この力の正体は、サンデラが俺の左手に仕込んだスマホの充電機能だった。「エレキテル」で体内に蓄積した電気を、剣を通じて放出する能力。恥ずかしい充電方法が、まさかの戦闘能力だったのだ。その電撃で侵入者を撃退した俺は、一躍「雷の剣の使い手」として有名になった。
フィロソフィアのテオリア女王に謁見した俺は、彼女の深い知性に圧倒された。真の指導者とは何かを説く彼女は、「本当に考える力を持つ人が国を治めるべき」と考えていた。騎士団長カリアからは、恐怖を克服する方法を学んだ。「勇敢さとは恐怖を感じないことではなく、恐怖を感じながらも正しいと思うことを行う力」——その言葉は俺の心に深く刻まれた。
やがて隣国マキャベリアとの緊張が高まった。かつて宗教戦争で多くの男性を失ったフィロソフィアに対し、マキャベリアは鉄鉱石の豊富なローレンティア地方の割譲を要求してきた。生徒会は「戦うことも屈服もしない第三の道」を模索し、ローレンティア鉱山の共同開発という解決策を提案した。ただし、交渉を有利に進めるためにはフィロソフィアの軍事力を示す必要がある。それには、俺の「雷の剣」をアピールすることだ。
そのために開かれた合同訓練の日、俺はマキャベリア騎士団と対戦することになった。重い鎧を着た副長との戦いでは雷の剣が効果的に作用し、騎士団長との一騎打ちでは、練習で身につけた剣技で勝利を収めた。この戦いにより、マキャベリアに「雷の剣」の存在を印象づけることに成功した。
新学期には南の国ヘルメニカから転校生がやってきた。アンナは金褐色の髪と緑の瞳を持つ芸術的な少女で、「疾風怒濤」と呼ばれる自由奔放な性格の持ち主だった。彼女の登場により、理性重視のフィロソフィアに感情と創造性の風が吹き込まれた。
そして、大ジャンヌから騎士団への推挙を受けた俺は、学院の衛兵と王宮の騎士を兼任することになった。カリア騎士団長の下で訓練を積み、国を守る責任を担うようになった。
俺はこの世界で俺は多くのことを学んだ。エマからは冷静に考えることの大切さを、ミルからはみんなの幸せを考える視点を、ルーシーからは言葉の力を、ジーナからは対立を乗り越える知恵を。小ジャンヌからは自由と責任の重さを、アンナからは感情の豊かさを教わった。
最初は何もない人間だった俺が、今では雷の剣の使い手として、エマをはじめとする仲間たちと共にこの理性の国を守っている。しかし、女神サンデラが言った「自分を救ってください」という言葉の真意は、今もまだ分からないままだった。
そんな俺たちの平穏な日々に、再び大きな波が押し寄せようとしていた——。




