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第23話:続・生徒会と「トロッコ問題」

サンデラからの入れ知恵で俺が提示したトロッコ問題。すっかり生徒会室での議論は白熱していた。


「テル、あなたはどう思う?」


ジーナが突然俺に話を振ってきた。全員の視線が一斉に俺に集まる。銀色の髪、栗色の髪、銀灰色の髪の少女たちの真剣な眼差しの中で、俺は少し考えてから答えた。


「難しいな。俺なら...」


突然、ネットで見た無数の動画の中から、トロッコ問題で全員を救う方法の動画が脳裏によみがえった。


「レバーを真ん中にすることで、トロッコを脱線させられる。これで全員助かるよ」


俺は自信満々に解決策を提示した。


生徒会室の空気が淀む。3人の瞳の輝きが失われていく。エマの長いまつげが下がり、ミルの小さな唇が引き結ばれ、ジーナの肩が微かに落ちる様子が見て取れた。


その時、ドアが開き、ルーシーが姿を現した。彼女の黒髪が揺れ、制服の胸の深紅のリボンは少し乱れているものの、その佇まいには凛としたものがあった。


「トロッコ問題は特定の言葉のルールの中で設定されており、『レバーを左か右に引く』という二択の約束が前提になっています」


ルーシーの声にはまだ少し疲れが感じられたが、その言葉は相変わらず明確だった。


「テル、『レバーを真ん中にする』という選択肢を持ち込むことは、この言葉のルールを変えることになります。それは別の問題を作り出すことであり、元の問題から逃げているだけです」


全員が無言で頷く。俺は再び恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。


「ルーシー、もう大丈夫なの?」


エマが心配そうに尋ねた。彼女の青い瞳には懸念の色が浮かび、銀色の髪がルーシーの顔を覗き込む動きに合わせて揺れる。


「体調はだいぶ回復しました。完全に健康な時の80%くらいまで元気になっています」


ルーシーはそう言いながら、軽く咳をした。その仕草にも品があり、手で口元を覆う様子は優雅だった。


「別のバージョンも考えてみましょう」


気を取り直してジーナが提案した。彼女はコバルトブルーのマントをきちんと肩にかけ直しながら言った。


「今度は、トロッコの行く先に5人の作業員がいて、あなたは線路の上にかかる橋の上にいるとしよう。橋の上には、大きな男性もいて、彼を突き落とせばトロッコを止められるが、彼は確実に死ぬ。一方、あなた自身は体が小さすぎてトロッコを止められない。この場合、男性を突き落とすべきだろうか?」


俺は質問した。


「さっきの問題と何が違うの? 1人を殺すか、5人を殺すかって選択は同じでは?」


「問題の構造が明確に異なります」


ルーシーが言った。


「線路の切り替えの問題では、1人の死は行為がもたらす『避けられない結果』であり、直接の『行為の結果』ではありません。一方、太った男性の問題では、1人の死は明らかに『行為の結果』です。これが、両者の間にある決定的な違いです」


「なるほど」


ルーシーの説明は分かりやすい。俺は納得した。


新たな問いかけに、エマとミルの議論がさらに白熱した。エマの青い瞳は信念の光で輝き、細い指が優雅に動いて説明をする。


「5人を救うために男性を突き落とすべきではないわ。なぜなら、すべての人間は目的として扱われるべきであって、何かを達成する手段として扱われるべきではないのだから」


一方のミルは犠牲の最小化を強調し、小さな体から想像以上の説得力ある声が響く。


「確かに、この問題では、5人を救うために、はっきりと人を殺す決断をすることになる。これは、長期的には社会にマイナスをもたらすと思う。それでも、やはり1人と5人という犠牲を考えれば、5人を救うべきだ」


ジーナはその両方を包み込む視点を探そうとし、銀灰色の髪をかき上げながら思索に耽る姿は、知の女神さながらだ。


「必要なのは、1人を殺すか、5人を殺すかという二択を乗り越える視点です。このジレンマが生じる構造的な問題を認識すること、問題を個人の選択だけに押し込めることなく、社会全体で引き受けることが重要です」


トロッコ問題の答えなど、本当は簡単に出せるものではないだろう。だが、その難問に真剣に向き合う彼女たちの姿に、俺は心から敬意を感じていた。理性の国の少女たちは、こうして日々、思考を磨いているのだ。


窓から差し込む夕日が部屋を橙色に染め上げる中、彼女たちの議論は尽きることなく続いていた。しかし、俺も何かをつかみかけていた。彼女たちは、俺が言った全員を救う方法が気に入らなかったようだ。でも、それは哲学の議論としてであって、もし現実ならどうか。


もし、その5人と1人がここにいるメンバーや大ジャンヌ、小ジャンヌだったら? 俺は全員救いたい。そのために出来ることなら、何でもやる。それでいいんじゃないか。俺は初めて、「自分の考え」というものに何か根拠のようなものが生まれつつあるのを感じていた。

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こちらは「完全版」です。 「ライト版・挿絵入り」はこちら
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