到着
ガラザス王国とハイレス帝国との国境近くにつれ、街で見る兵士の数が増えてくる。
世界を手中に納めたい帝国はガラザスと幾度となく戦争しているからだ。国土も軍事力も落ちるガラザスが持ちこたえているのは、帝国が東へ進行してくると困るアルバウア王国とキースロイ王国が軍事支援をしているお陰と言える。
そんなわけで、帝国に入るまでは街道にも兵士が居たりするので盗賊に襲われなかったが、帝国領に入った途端に襲って来た。
「今回も結構な数だな」
「たいして強くないので、他に方法が無いのでしょう」
「サユリカ、大丈夫だな?」
「はい、ウィル様」
最近、暇を見つけてはサユリカに魔法を教えている。元貴族なので魔力量も有り、かなり筋は良い。
サユリカは馬車の屋根へ、俺とフレアは外で待ち受ける。
下っ端を捕まえても、たいした情報は持って無いだろうから、捕まえるなら頭だな。
さて、どこにいる?馬に乗って、貫禄のある髭面が指示を出しているのであいつだろう。
「あの髭面は捕まえるので殺さないで」
「了解」
返事と同時にフレアは、髭面を避けて盗賊集団にファイアーボムをお見舞いする。面白いように雑魚盗賊が吹っ飛ぶ。
「見ていて気持ち良いね」
補助魔法で加速しながら髭面に向かう。自分に向かって来る俺を見つけた髭面は、嬉しそうに唇のはしをつり上げて剣を抜いた。
『バインド!』口に出さず呪文を発動させる。髭面は馬から転げ落ちた。
「な、何で?」
間抜けな顔で呆けている髭面を尻目に、残りの盗賊を葬って行く。サユリカが雑魚盗賊の額をストーンバレットで撃ち抜いた所で終了だ。
金目の物と馬を亜空間に入れて、盗賊どもは一纏めにして跡形もなく燃やし尽くす。
その光景を見ていた髭面の顔は青ざめている。一押しすれば全て話しそうだ。
「さて、誰に頼まれた?」かまをかける。
「えっ、ウィル、どういう事?」
「まあ、この髭面に聞いてみようよ」
もう一度聞き直す。
「誰に頼まれたか言ってもらおうか」
「けっ、ガキが!傭い主の事を話す訳が無いだろう」
「ふ~ん、傭われたのは事実なんだ」
「あっ……」
「これなんだか判る?」
瓶を髭面にみせる。
「うっ、デモンシデムシ」
全ての死体に群がる森の掃除屋、デモンシデムシ。予めフェイクライフで大量に創っておいた、1匹5㎜程度の虫達。
「俺は虫使いのスキルがある。言わなければ、これをお前の身体に入れてやる。どうなるか解るな?」
「ううっ」
「耳の穴から入れようか?それとも口、いや尻の穴がいいかな?ち○ぽ○の穴がいいか」
「や、止めてくれ。話す、話す」
「誰だ?」
「ヤバい事なら何でも引き受ける、何でも屋のガズだ」
「理由は?」
「そんな事は知らねぇ、そこの姉ちゃんを殺れと言われただけだ」
「わ、私をですか?……何で」
「ガズも誰かに頼まれたって事だな?」
「そう言う事だ」
「ガズは何処に居る?」
「キースロイ王国の王都だ。な、なあ、見逃してくれたらもう1つ教えるがどうだ?」
「いいだろう」
「俺達みたいなのを使って散々失敗してる。そろそろガズ自身もヤバくなる、俺が失敗したらプロを雇う気だ」
「なるほど……解った行って良い」
バインドを解除してやる。
「ありがてぇ」
髭面は転がるようにして去って行った。
「……最初から私が狙われていたんですね」
「そうみたいだ、記憶が戻れば何か判るかもね。キースロイ王国では戻るのはちょっと無理だね」
「ウィルを捲き込んでしまったみたい、ごめんなさい」
「謝る事は無いさ、フレアとサユリカに会えて楽しいし」
「ありがとう。でもプロが来るって」
「この3人なら全て返り討ちさ、だろ?」
「うん」
ここからアナサマの沼地までは帝国領になる。サユリカの冒険者登録をする事にしてレベル上げの為、依頼を軽く受けつつ街を移動していく。
帝国側は余裕なのか街中でも兵士の姿は滅多に見ない。
街道では慎重に進む。サーチの魔法とフェイクライフで創り出した鳥の魔物、ガルダアイに周囲を探らせているので後手を引くことは無いだろう。
「プロとやらは襲って来ないね」
「手間をくっているのでしょうか?」
「拍子抜けだな」
2ヶ月近くケチな盗賊に襲われはしたが、いわゆる暗殺者の集団には襲われていない。
「もうすぐアナサマの沼地に一番近いオズワードの街に着いてしまうのにね」
「ウィル様は、まるで襲われたがっているようです」
「プロってどんなものかと思ってさ」
「ウィルは怖いもの知らずですね」
「結構怖い思いはしてるからね」
「ウィル様、街が見えて来ました」
「本当だ、もうすぐアナサマか……」
北はエルフの国に続く大森林、南はゴッサ山脈と大自然に挟まれたオズワードの街は意外に大きかった。
「妙だな」
「どうしたの?」
「兵士の数が多い気がする」
「そう言えばそうですね」
「ここから戦争を仕掛けるのは大変だと思うが」
「事件でも有ったのでしょうか?」
「取り合えず宿を決めて聞いてみよう」
「「はい」」
風呂付きの宿があったので直に決めた。料理は美味いらしく1階の食堂は混んでいた。情報収集には丁度良い。
「いいや、この街は大体こんなもんさ」
「そうですか、ありがとう御座います」
「何も無いようですね」
「考え過ぎだったな。明日は早い、休もう」
「はい」
ーーーー
「この橋を渡ればアナサマの沼地だ。ドキドキする」
「そうですね、小さい時から色々な事を聞かされてきましたから、やはり怖いです」
「サユリカ、大丈夫か?」
「はい、ウィル様と一緒なら」
「よし、行こう」
橋を渡ると沼地が見えて来る、馬車はここまでのようだ。先人が造ったであろう、石を埋め敷き詰めた歪な道を進む。
石で造られた防壁が見えてくる。一部が崩れ破壊されている、魔物にでも襲われたのか?
入口に進むと、両目を鉢巻きの様に布で隠している男が話しかけてきた。
「こんな所に何しに来た」
「人を捜しています」
「ここには病気の者と私のような者しかいないが?」
「病気にかかっていると思います」
ここは師匠の読みに賭けるしかない。
「……変わっているな、怖くはないのか?」
「大丈夫です。俺の大切な人達ですから」
「そうか……では、ついてこい」
いよいよアナサマの中に入る事になった。
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